指子の家
一体乳デカ指ゴリラの目的は何だ?今日は妙に雰囲気が違うし、正直怖い。
俺が警戒しているのを察してか、指子は言った。
「気軽に誘っただけなんだから、そんな顔しないでよ。うちはクーラーもあるわよ」
「クーラー?」
「前にクーラーが無いから地獄だって夏休みの時メッセージくれたでしょ」
それでも迷っていた。6:4ぐらいで行かない俺が勝っていた。
しかし、指子の家という事は当然、乳狂治の家でもある。乳狂治の私物やお宝が見れるかもしれない。もし仕事が無くて家にいたらサインだって貰えるかもしれない。指子に頼んで乳狂治のサインをもらう事も考えたが、俺はやっぱり直にサインをもらいたい。
「しょうがないな。今日はかったるいがお前の家にちょっと寄ってやろう」
「なんで偉そうなのよ」
「それで、家までどれくらい掛かるんだ?」
「そこのバス停からバスで20分、降りてから歩いて10分くらいのとこね」
「なんだよ。結構近くじゃないか。俺なんか1時間半かけて学校に来てるというのに」
そして、指子と俺はバスに揺られて、指子の家に向かう。
「指子は俺と同じ小学校に居たんだよな。同じ地域から通ってるんじゃなかったのか?」
「私は中学一年の時に引っ越したから」
「そうだっけ?」
「そうなのよ」
バスを降り、10分歩いて指子の自宅に着いた。
家の外観を見て、思ってたより全然普通の家だなと思った。
「世界チャンピオンの乳狂治の家だから、屋根に黄金の乳首でも据え付けているのかと思ってた」
指子はそれを聞いて笑った。
「何言ってんの?そんなわけないでしょ」
「優勝賞金はそんなに貰えないのか?」
「他のメジャー競技に比べたら雀の涙と言ってたわね」
金持ちのイメージがあるのは、あのCMのせいだな。黄金のジャケットに蝶ネクタイ、グラサンした乳狂治が指立ててビキニのお色気姉さん達と踊る陽気なCM。指を銃に見立ててデカい胸を撃つポーズ。BAN、BANという吹き出し。何のCMだったかは忘れた。
指子は玄関のドアを開ける。
「ただいま」
シーンとしている。どうやら誰も居ないようだ。
指子は靴を脱ぎ廊下に上がる。
俺は一応「お邪魔します」と言って靴を脱ぎ指子に続いた。
なんだろうな。なんで他人の家は独特の匂いがするんだろうな。
「ここに座って待ってて」指子は居間を指さし、台所に消えた。
俺は居間に入ると高級そうな黒い長机の前に胡坐をかいた。床を触った手の感触が気持ち良かったので、下を見ると、艶やかで派手な柄の絨毯が敷いてあった。
もしかして、これはペルシャ絨毯てやつでは?
俺は周りを見回し、乳狂治の優勝トロフィーが飾られている場所を探したが、全く見つからなかった。テレビラックとか棚の上に置いてありそうだが、あれだけ優勝してるのに、何一つ表彰された時の記念品が無いのはおかしい。
高級な家具はいくつかあるものの、いたって普通の家だ。本当にここは乳狂治の家なんだろうか?一流の乳首当て選手というだけでなく、派手な金持ちいうイメージが乳狂治にあったんだが、現実は違うようだ。
指子が、湯呑といろんな種類のお菓子を入れた皿を載せた盆を慎重に運びながら居間に入ってくる。俺の目の前に湯呑を置いて、菓子皿を机の真ん中に置いた。
「どうぞ」
「ああ、どうも」
俺はあつ熱の緑茶をすすり、菓子を頂く。そして指子に聞いた。
「なんで乳狂治の優勝トロフィーがどこにもないんだ?」
「ああ、それを期待してたのね。最初は居間にあったけど、邪魔だから自分の部屋に持って行かせたのよ」
「なんだ。そうだったのか」
「見てみる?トロフィー」
「えっ、いいの?」
「まあ、部屋に入って見るだけなら別にいいでしょ」
指子に続き階段を上がる。踏板が狭く急な勾配なので凄く怖い。一段ずつ慎重に上がる。指子は乳狂治の私室と思われる部屋に入って行った。俺は胸が高鳴る。
「うわ、凄い」
トロフィーだらけだ。競技の時の写真も飾ってある。
「すげー、カンポッツと二人で笑顔の写真だ。あ、こっちは女装して追い出された時の写真だな。これは笑える」
俺は元気が出て来た。ああ来て良かったかも。
「じゃあ次は私の部屋にいきますか?」
「えっ?」
急に現実に引き戻され、怖くなった。
指子は乳狂治の部屋を出て、隣のさしこと書かれたネームプレートが掛かっているドアを開けて中に入った。俺も指子に続いて部屋に入る。
そして最初の感想は
「なんか華やかさが無くて男の部屋みたいだな」
「えっ、そう?」
指子はがっかりしているようだった。
窓の近くの壁にある掛け軸は「一突入魂」と書いてある。
勉強机、ベッド、クローゼット、部屋は綺麗に整頓してある。無駄な物は一切ない。
と思ったが、ベッドの上に乳狂治の抱き枕がある。
「えっ?なにその抱き枕」
「あっ」と指子は言って、それを掛け布団の下に入れた。
「まさかお前は父親の事を?」
「違うわよ。これは抱き枕人気の時に作って大量に売れ残ったのを、父さんから一つ貰っただけよ」
凄いな。シルクのパジャマでグラサンした乳狂治が、笑顔で乳首突きしてる写真が張り付けてある。胡散臭すぎる。
「この抱き枕をあなたにも一つプレゼントするから帰りに持って行って」
「えっ、いいの貰って?」
「喜んだのはあなたが初めてよ」
「やったあ。今日は来て良かったな」
「じゃあ、ちょっとそこで待ってて」
指子は部屋を出て行った。階段を下りて行く音が聞こえる。
俺は指子の部屋でさっきからちょっと気になっている所がある。壁に貼られた世界地図のポスターの真ん中辺りがペコペコと少し動いてるのだ。なんで壁に貼ってるのに動いてる?風があそこから吹き込んでるのか?
俺はまだ指子が来ない事を確認して世界地図ポスターの右上を留めている画鋲を一つ外して、ポスターをめくってみた。
穴が空いてるぞ。
石膏ボードに指を突いた穴が多数空いている。世界地図の真ん中辺りは大きな穴が開いていて分厚そうな鉄板が固定されている。そして鉄板にも指穴が開いている。凄い年季を感じる穴だ。ここで指子は指技の鍛錬をしていたんだろうか?
俺はポスターを戻して画鋲を元の場所に差し込む。
指子が階段を上がってくる音が聞こえたのであわてて、床に座る。
指子が部屋に入ってくる。
「何も部屋の物をいじってないでしょうね?」
ギクッ
「な、なにも無いのに、何をいじくるってんだよ?」
「何をあわてているのよ」
そして俺の前に紙を置く。
「なんだこれ?」
「あなたが天狗にならないように、まだ教えるのは止めようと思ってたんだけど、天狗になる前に勝手に潰れてしまいそうだから、自信を取り戻すために今日教えてあげるわ」
「教えるってなにを?」
「あなた、夏合宿の時に女将の息子さんに乳首当てしたのを覚えてる?」
「ああ。乳首が異常に長くて、やたら乳首相撲したがってた満子さんの息子さんだろ?」
「そうよ。それで、あなたが満男さんを突いた時判定はどうなった?」
「機械から音が何も鳴らなかったんだよ」
「そうね。なぜあの時に判定機械から音が鳴らなかったかわかる?」
「機械の誤判定だろ」
「それともう一つ鳴らない時があるの。判定機械は、感圧が1を超えないと音は鳴らないのよ」
「つまりどういう事なんだよ?」
「この紙を見て。あなたは、あの超難易度の満男さんから一本取っていたのよ」
「え?」
「一本取っていたけど、感圧は左0.9、右が0.7だった。ほんの少しだけ指圧が足りなかった」
「たしかにフヨフヨして俺が突いた時、乳首の手ごたえが全くなかった」
「夏合宿の判定機械のログを印刷した紙を父さんは何故か持っていたのよ。それを見て父さんは驚いていた。自分と満子さん以外にあの乳首から一本を取れる人がいたということを。しかもそれは高校生だった」
「まさか。まさか?俺を元気づける為に話を作ってるんじゃないのか指子?」
「これは本当の話よ。この紙はあなたにあげるから良く見てよ。そしてまたあの煌めきを取り戻して」
「俺は未だに何の技も使えないし下手くそだ。俺はまだ大丈夫だと思うか指子?」
指子は微笑む。
「私はいつも大丈夫だと言っているでしょ。あなたは、ここぞという時に一本出せる人だわ」
俺は夏合宿以降、落ち込んでた。後輩達の成長してるのに俺は何も成長してないと絶望していた。でも。
「もう一度俺は頑張ってみることにするよ」
「うん。頑張って」
指子の眼が潤んでいた。
「よし、こうしてはいられない。俺は帰って素振りをする。ありがとう指子」
俺は部屋を出て勾配のきつい階段を下り玄関で靴を履く。
「これを忘れないで中君」
指子はビニール袋に入った乳狂治の抱き枕を手渡してくれた。
「ありがとう指子。大事に使うよこの抱き枕」
「うん」
俺は玄関から扉を開け、飛び出す。
「じゃあな指子。また明日部活で会おう」
「うん、また明日」
抱き枕を抱え、素振りしながらバス停まで走る。
俺はそのままのテンションで家に帰り、素振りしまくるのだった。
待ってろ全国制覇。




