乳狂治の一言
俺は満男の前に立つ。
寸止はしゃがんで突いてたけど、この人も下向き乳首なんだろうか?
満男は色白で中年太り。体は何も鍛えていないようだ。どこにでもいそうな感じの中年男性だ。
磁場流と寸止が言ってた事をまとめると、凄い変な乳首がついているというのは間違いないらしい。
まあいいさ。驚異の乳首だろうが、何だろうが俺はいつものように突くだけだ。
俺はジャンプして手をブルブル振る。そして頭を空にして、目をつむり満男の乳首に意識を集中する。
すると何か長い物か光ってるような感じがする。
凄く頼りなく儚げだ。
突きを速くしなければ芯を抜けないような感覚がする。
俺はしゃがみ、目を開ける。思い切り速く乳首めがけて斜め上に突く。
「あれ?」
全然手ごたえが無かった。
「これはやってしまったかも」
そして判定機械からは何も音が出なかった。
駄目なら駄目で機械が鳴ってくれないとリアクションに困るな。
満子さんはじっと俺を見ている。なんで俺を買ってくれているのか分からないけど、見込み違いだと思っているんだろうか。
こうして全員の挑戦が終わって、乳首答え合わせがされた。
「よしっ、服を脱いでみろ満男」
服を脱いだ満男の乳首を見てみんな声を上げる。
「ええーーー?」
乳首が凄く長かった。2センチくらいの長さだ。
「そうか、だから中心が抜けないんだ。フヨフヨして手ごたえもないし」
「土台にすぐ付いてないから突いても軽いんすね」
「これは反則よ。こんなの無理だわ」
皆が思い思いに変な乳首を突いた感想を言う。
満子は俺達を見て
「今まで色んな人にこの乳首に挑戦してもらった。これを抜いて一本を取ったのは二人いるんだ」
「誰ですか?」
「乳狂治、そして私だ」
それを聞いて指子が前に出て来る。
「でも満子さんはその長い乳首だとわかっていて突いたんですよね。それなら余裕で一本出せるんじゃないんですか?」
「じゃあやってみるかい指子?分かったうえで突いて一本出してごらんよ」
「わかったわ」
「満男、また服を着てくれ」
「なんだよ。結局乳首相撲はしないのか」
満男は嘆息して渋々服を着る。
「乳首必中の突きでいくわ。絶対に外さない。私のすべてを掛ける」
「ほお。大きく出たね」
そして指子が長考している。今までにないくらい真剣な顔をしている。
しゃがんだり、指の角度を変えたりと色々とやっている。
満子さんも腕を組んでその様子をじっと見ている。
俺は満子さんの近くに行って「乳首必中の突きはしゃがんでも出せるもんなんですか?」
「まあちょっとやりずらいけど、出来ない事は無いよ」
そして俺達は指子を待つ。満男はあくびをしていた。
指子はついに「お待たせしました。それじゃあいくわね」
しゃがんだ姿勢で乳首必中の構え。
暫く同じ姿勢で溜めた後突きを出した。
やはり、手ごたえが無さそうな感じだ。
ピンポン
指子の必中の突きは残念ながら技ありだ。一本ではない。
「くそっ」
指子は畳に両ひざを付け、拳で畳を叩く。とても悔しそうな表情をしている。俺は何か声を掛けてやりたかったが、何も言葉が思い浮かばなかった。
指子は泣いているようだった。
「さあお開きにしようか。お前達、皆よく頑張ったね」
俺達はフィルムを取って宴会場から部屋に戻る。
皆疲れているようだった。下を向いて誰も話そうとはしない。
俺は少し気分転換しようと思い
「喉が渇いたから受付の前の自販機で飲み物を買ってくる。お前達は何が飲みたい?」
それぞれの注文を聞いてから部屋を出て階段を下りる。
自販機のボタンを押して取り出し口に出て来たジュースを持ち、部屋に戻ろうとすると旅館の玄関窓に車のライトがぼんやりと光っているのが目に留まる。
ライトの光で満子が外に居るのがわかる。
窓の近くに行き外を見ると、満子は誰かと話しているようだった。
暗くて良く見えないが、車の運転席にいる人に見覚えがある。
「あれは、まさか」
俺は慌てて旅館の玄関から外に出る。
「やっぱりそうだ。乳狂治だ」
車の窓越しに満子に頭を下げ、手を振って旅館から出て行く所だった。左折して道路に消えた。
「あー声かけてサイン貰いたかったなー」
満子が戻ってくる。俺を見つけて
「ちょっと、あんたスリッパでなに外に出てきてるんだい」
「あっいや。乳狂治が」
「そうだよ。皆には内緒にしてくれって言われてるんだ。娘の様子を見に来たんだよ乳狂治が」
「え?指子を?」
「指子が乳首当て部に入った事を乳狂治はとても喜んでいた。お前達の学校の顧問と相談して、ここで夏合宿するように頼んで来たのは、乳狂治なんだ。私に指子をビシビシ鍛えて欲しいと言っていた」
「ああ、そうか。だから満子さんは指子に厳しかったんだ」
「まあね。さっきの宴会場で乳狂治は私たちの試合を見ていたんだよ」
「本当ですか?」
「旅館スタッフに変装して、宴会場に入って来ていた。お前達は全然気づいてなかったけどね」
満子は愉快そうに笑った。
「ええー?普通に出て来てくれたら盛り上がったのに」
「帰り際に指子の部活のメンバーには面白い奴がいると言ってたよ」
「面白い奴?」
先ほどの試合で一番活躍していたのは寸止次郎だった。それが寸止の事なら俺はジェラシーを感じてしまう。いやまてよ。思ったことを直ぐ口にする磁場流が意外と面白かったのかもしれない。
「それは誰のことなんですか?」
「さあ、聞かなかった」
「えー?一番重要なとこじゃないですか。気になって今夜は眠れないかも」
「大袈裟だね。明日は早いんだろ。とっとと寝た方がいいよ」
「あ、はい」
部屋に戻ろうとすると満子が呼び止めた。
「くれぐれも、今の話は指子には内緒にするんだよ」
「わかっています」
全ては指子の為だったのかもしれないな。俺は部屋に戻った。
「おい、お前等聞いて驚くなよ。さっき外でな」
「なんですか?ジュース買いに行ったんですよね部長は?」
しまった。今、釘を刺されたばかりなのに。俺は鳥頭か。
「そうだ。ジュース買ってきた。みんなで飲んでくれ」
頼まれてたジュースを3人に渡す。さっきの試合で喉が渇いたんだろう。みんな一気飲みしている。
寸止次郎は「俺は大浴場行ってきます。汗かいたし。ゆっくり浸かってきます」
「そうか。じゃあみんなで最後の風呂に行こうか」
指子は俺の顔を怪訝そうな表情で見ている。
「なんか浮かれてない?一階で何かあったの?」
「いや、なんでもないよ。みんな沈んだ顔してたから、元気だしてもらいたいと思ってだな」
「そうっすよね。くよくよしていてもしょうがないっす。大浴場に行きましょう」磁場流が言った。
皆で大浴場に向かう。途中で指子と別れ、俺達は男湯に行った。
広い湯舟につかり手足を伸ばす。
この旅館に来た1日目は海に泳ぎにきただけなのかと思って心配したが、最後はバッチリ合宿っぽかったな。
満子さんは打撃の訓練をしてくれるのではないかと思っていたが、逆に安易に打撃を使う指子をたしなめていた。難易度の高い乳首に挑ませて、打撃より重要な事があると教えているようだった。
指子は打撃を使うタイミングの話だが、俺は一体いつになったら打撃が使えるようになるんだろうか。
水中で素振りしながら、何かが出てこないものかと指先を見ていた。




