寸止次郎の超接近
指子を見送り部室に戻ると、磁場流は変な格好で死んだようにピクリとも動かなかった。
「よし寸止次郎。気を取り直して二人で練習しようか」
「はい部長」
俺と向かい合っている寸止次郎。こいつは磁場流とは全然違い冷静な分析をする奴だ。
この寸止次郎が男子部員の中で乳首的中率が一番高い。ほとんど100パーセントと言っていい。
ただ、こいつの乳首当ては正直なところ俺は気持ちが悪いと思っている。
「よし、お前が先行でいいぞ寸止」
「はい。宜しくお願いします」
寸止の指は俺の乳首直前まで真っすぐ出て来る。だがこいつは直ぐには当ててこない。この状態で俺の顔をじっくりと見る。
指を縦に横に滑らせながら俺の表情をじっくりと見る。時には唇が重なるんじゃないかというくらい顔を近づけて来る時もある。
そして、なんで?というくらい長考する。
とにかく寸止の乳首当ては慎重で時間が掛かって気持ちが悪い。
そして奴は突然動き出す。
「ここです部長」
「うっ」
ピンポンピンポン
「一本だな寸止。俺の乳首の上にお前の指が来た時、俺の顔には何か変化があるのか?」
「全然違いますよ。眼の動き、瞳孔、息遣い、臭い、汗、皮膚温度、毛穴、毛細血管。そして時には心の声も聞こえます。部長は俺のこの技を気持ち悪いと思っている」
「正解だ。お前はエスパーのようだな。ただ俺が心配なのは、試合中にお前の持ち時間が無くなってしまうのではないかということだ」
「そうですね。俺もそれは不安視しています。試合が長引くほど俺の方が不利になります」
「何か違う技を組み合わせる必要があるかもしれないな」
「そうですね」
その時「うう、いてえ、俺は一体どうしたんだ?」
磁場流が目を覚ました。
「お前は指子を怒らせて片指指殺を喰らったんだ」
「そうなんですか?何を怒らせるようなことをしたんだ俺は?」
「このスマホの写真だよ」
俺はスマホを投げる。
スマホを片手で受け取った磁場流は画面を見た。何回かボタンを押して
「あれえ?俺のスマホ初期化されてるー」
「ひどいな。鬼だな指子は」
次の日、俺と指子は放課後二人で教室を出て部室向かって歩いていた。
「他人のスマホを初期化するなよ。写真だけ消せばいいじゃないか」
「あいつは、なんかほかの所にも写真隠してそうだから、一応初期化しといたわ」
まあ、指子は満足しているようだからそれでいいか。俺は指子を横目で見ながらほくそ笑む。
磁場流はバックアップを取っていたから初期化しても意味はない。
スマホを復旧させた後、指子の立ち気絶写真を送ってくれた。
あの間抜け面に俺は癒される。あの写真を見ると元気が出て来るんだ。
本当は待ち受けにしたいぐらいだが、見つかったら殺されるからそんな事はしない。
「それでさっきも言ったけど、私たちの夏合宿が決まったらしいのよ。夏休みに入ったら直ぐに行くみたい」
指子が話しかけてきていた。
「え?俺らだけでか?それとも他校と一緒に合宿するのか?俺は夏合宿なんかしたことないから分からないけど」
「さあ。昼休憩の時に廊下でたまたま権田原先生に会ったら、合宿の事を皆に伝えてくれと言ってただけだから」
部室の扉を開けると、後輩達はもう既に来ていた。二人で向き合って乳首当てしているように見えたが、例の寸止次郎の超接近技を磁場流にしていたので、乳繰り合っているようにも見えた。
「えー?ちょっと待って。あんたらそんな関係だったの?」
指子は驚いている。なにか勘違いしているようだ。
「指子は知らないようだが、あれが寸止次郎の技なんだ。時間は掛かるが、乳首の的中率はほぼ100パーセントと言っていい」
「ホントに?その技を私にやってみなさいよ寸止」
寸止は服の表面を滑らせている指を止めて、指子の前にやって来る。
「本当にいいんですか?指子先輩」
「いいわよ」
寸止は指を真っすぐ指子の胸に伸ばすが、服に触れるかどうかという所でピタリと止める。
「うっ」
思わず声が出てしまう指子。
そして指を少しずつ縦、横に滑らせていきながら、指子の顔に超接近する。
「な、なに?なんなのこれ?」
じっと至近距離で指子の顔を見つめる寸止。
「なに?じらしてるのかしら?」
明らかに動揺して変な事を言いだす指子。
そして寸止次郎は急に動き出す。
「指子先輩の乳首はここです」
ドゥム
指子の胸に寸止の指が思い切りめり込む。
「いやあああああん」
指子は絶叫した。
ピンポン、ピンポン
指子の足がブルブル震えた。腕で胸を隠す、いつものポーズをする。
加えて今日は顔を赤くして、寸止を見ながら跳ね回り始めた。
「なにこいつ。ドスケベだわ。きっと将来、ドスケベテクニシャンになるのだわ」
「いちいち一人で大騒ぎするなよ指子。お前が一番ドスケベだろ」
「何よそれ?どうゆうことなのよ?」
磁場流はちょっと寂しそうに言った。
「こう見えて寸止は女子に人気あるんですよ指子先輩。俺はいつもそれを羨ましく見てるっす」
「へえー。そうなの」
「まさかクラスの女子にも超接近してるんじゃあないだろうな寸止?」
「そんなわけないでしょ。乳首当ての時だけですよ。部長は俺を何だと思ってるんですか」
まあ、そうだな。寸止は真面目だし、乳首当て競技に熱心なだけだ。
寸止の技は時間が掛かり過ぎるから他の技も使わないと時間切れになってしまう可能性がある。寸止に何か助言して欲しいと指子に頼むと、男子の乳首の位置は変わらないのだから、長考して当てたら次のターンから打撃でガンガン打てばいいのよと言った。指子のように打撃なんて出せる奴は俺達の中にはいないと言ってるのに、俺は少しカチンときた。
「指子は余裕でいいよな。俺達と違って適当に打撃を当てたら一本取ってるんだからな」
指子はムッとする。
「なによそれ?昨日の続きをやるつもりなの?」
俺は昨日のビンタはもう喰らいたくないので慌てて言った。
「いや、それは止めだ。とりあえず俺達は地道に頑張ることにするさ」
「そう。それはよかった」
指子はホッとしたようだった。




