1、リリスとひな鳥
暖かな風の吹くその日、リリスはセフィーリアの弟子の一人と山に薬草取りに入った。
必要な物は、頭に入っている。
ヤブをかき分け薬草を見つけカゴに放り込んで行くのだが、薬草によって必要なのは葉だったり茎だったり、根だったり球根だったり。
取りすぎないよう、また来た時に次が取れるように最低限残して採取する。
需要が多い物は畑で育てているが、それも限度がある。
だがそれにもまして重要なのは、「やっぱり薬草は、こうして自然に生えている物が持っている力が違う」と師の教えの一つなのだ。
ピヨピヨピヨ
ピヨピヨ
“ たすけて たすけて ”
微かに小さな声を聞いて、身体を起こし辺りをうかがう。
高い木に、薄緑色の鳥が飛んできてエサを与えているのが見えた。
しかし、ひなの声はそれとは違う方向から聞こえる。
「うーん、落ちたかな?」
カゴを置き、弱々しいひなの声の方に歩いて行く。
すると、巣のある木から少し離れたところに小さな灰色の綿毛の固まりが見えた。
「ああー、やっぱり落ちてる。」
しゃがみ込んで様子をうかがう。
ひなはブルブル震え、ぐったりとして頭さえ上げる気配もない。
「これは落ちて時間がだいぶたってるんだね。」
親鳥は、すでに見限ったのかこちらを一別しただけでまた飛んで行ってしまった。
口減らしに、多い卵を捨てることさえある厳しい鳥だ。
だが、自分で育てるのは覚悟が必要、弱ったひな鳥はすぐに死んでしまう。
リリスは覚悟を決めて、急いで日なたで暖まった枯れ草を集め、丸く簡単に編み上げて中に近くで見つけた花の綿帽子を千切って集め、中をふわふわにしてひなをそっと入れた。
お日様の暖かな光りに、半日陰で低い枝の上にしばらく置いておく。
身体が温まったら動きが良くなるだろう、時々様子を見ながら、エサになりそうな虫を捕まえて口元に枝でそっと差し出してみる。
しかし、なかなか食べてくれなかった。
親鳥は、気にする様子もなく巣のひな鳥たちにエサを与え続けている。
リリスは近辺で薬草を取り終えると、ひなを大事に抱いてもう一人と合流して帰途についた。
「また拾ったんですか?またきっと死んじゃいますよ。」
セフィーリアの弟子ボーダーは、呆れたように言う。
彼は2年ほど前に来た弟子だが、リリスが王子との旅から帰ったあとは一目置いてくれるようになった。
彼だけではない。
兄弟弟子たちは、すでにみんなリリスを魔導師見習いとしては見ていない。
ボーダーは少し見分けに自信がなかった草を取りだし、間違いないかリリスに聞いて確かめる。
「大丈夫、間違いありませんよ。ほら、葉の裏の葉脈に特徴があるでしょう?
わからない時は揉むと独特の香りがする。
ボーダー様は覚えるのが早いですね、私はよく間違えましたよ。」
「あなたの教え方が上手なんですよ。
特徴を良く掴んでて覚えやすい。
私はここに薬学を習いに来たのですから、おかげで助かります。
魔導師の才はありませんが、師はそう言うことに構わず良くして下さるので助かります。」
リリスの間違いないとはっきりした答えに、彼はホッとしてカゴに戻す。
書物よりも何よりも、年下だがリリスの事を信頼して、頼れる兄弟子として尊敬していた。
新型コロナで寒々しいご時世、暖かいお話をどうぞ




