144 パオちゃんの荷車
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
『カナカナ、ピーちゃんだよー』
「うーん……は? リトくん、ピーちゃん」
『カナ、カナ、パンちょうだい、おはよー!』
『カナカナ、黄色ぱんちょーだい!』
「フフッ、わかった、わかった」
ピーちゃんも一緒だといつもの倍の賑やかさだ。
かなえはベットから起き上がると、居間に歩いて行く。
「はい、どれにする? ピーちゃんは黄色いパンがいいんだっけ……」
『ぼく、みどりつぶパンがイイ!』
リトくんが選んだのはグリーンピース入りのパンだ。
「はい、リトくんはこれで、ピーちゃんはこのコーンパンね」
2羽の前にちぎったパンを置くと、おいしそうに食べ始める。
『おいしいな。みどりパン』
『きいろパンもおいしいよー』
食べ終わるとリトくんとピーちゃんは、一緒にテーブルの上でお尻をフリフリダンスをしている。
満足したのか揃って窓枠に移動すると、隙間から外へ飛んで行く。
あー、行っちゃった……。
私も仕度をしよう。
かなえは出掛ける準備を終えると、シロンに「ジジさん達はどうしてる?」とたずねる。
「今は、牧場の温泉に向かって歩いている所です」
そう。それなら今日は温泉に居るのね。
かなえは一気にジミーさんの庭へジャンプして行く。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
ジミはーさんは気分良さそうにテラスの椅子に坐っていた。
今朝も顔がちょっと火照っているようだ。
「いやー、あの温泉シートは面白かったよ」と、ジミーさん。
昨夜、家に戻ってから温泉で試してみたそうだ。
「私が一番気に入ったのは、シートに寝転がって温泉に浮かぶ体制だよ」
「そうなんですかー!」
ジミーさんがシートに横になって、温泉に入っている姿を想像するとちょっと面白い。
ジミーさんによると、泡風呂の設定にしてシートを浮かべて寝ると、泡の勢いがシートから伝わり適度に体がマッサージされるそうだ。
「それで、気が付いたら眠っていたよ」
「えっ? 大丈夫でしたか?」
「ハハ、問題無いよ。今朝も入って来たが、体が軽くて気分が良いんだ」
うーん、それならいいけど。
「おはようございまーす」
リリララ姉妹もやって来た。
この二人も少し顔が火照っている。
「かなえさん! あの温泉シート、面白かったです」
「ララねー、すわってねお姉ちゃんと競争したんだよー!」
この二人も、色々と楽しんだようだ。
朝食の準備を終えると、食事を始める。
今朝はブロッコリのキッシュにブルーベリークリムチーズを挟んだ雑穀ベーグル。
グリーンサラダとトマトスープ。メロンジュースにマンゴティー、ジミーさんはマンゴティーの代わりにコーヒーだ。
「それで、あのシートに座ったの?」と、かなえがリリララ姉妹にたずねる。
「そうだよー、座って手と足でバシャバシャしたよー」
「あのシートを4等分に折ると、丁度座りやすいんです」
「そうかい、早速今晩試してみるよ」
リリララ姉妹とジミーさんが楽しそうに話している。
こんなに温泉を気に入ってくれるとは思わなかったな……。
食べ終わるとリリララ姉妹は教室へ、ジミーさんはアランさんの所へ行くそうで、一旦家に戻って行った。
かなえは動物達の様子を見に行く。
「シロン、バニーちゃんは鏡の所に居るの?」
「いいえ、今は子猫達とみんなで、猫の温泉の前の砂浜に居ます」
へー、バニーちゃんまた行ったんだ……。
かなえがジャンプで移動して行くと、みんなはヤシの木の形のキャットタワーにいた。
『パオ―、ここまでおいでよー』
『はやく―』
『パオーン、ぼく高いとこはやだー』
『あたし、行けるよー』
『バニー、無理するんじゃないよ。降りられなくなったら大変だろう』
クーちゃんがバニーちゃんを注意している。
そして子猫達は、自由自在にキャットタワーの上を走り回っている。
「みんな、おはよう! クーちゃん、今日もみんなの面倒を見てくれてありがとう」
『あーカナカナかい』
『カナカナ!』
パオちゃんとバニーちゃんには、キャットタワーの上までは無理よねー……。
猫とは体の構造が違うからな。
「シロン、子供たちが一緒に遊べる方法は無い?」
「そうですね……それでしたらパオちゃんに小さな車を引かせて、子猫達とバニーちゃんを乗せるのはどうでしょう?」
うーん、どうかな。
実際見て試してもらわないと分からないな。
「シロン、じゃーパオちゃん用の車を出してくれる?」
「はい、どうぞ」
砂浜に現れたのは、丁度子供たちが乗れるぐらいの大きさの荷車だ。
「シロン、この荷車にみんなが乗ったら重くならない?」
「いいえ、この荷車にも重力制御装置が付いていますので、パオちゃんや子猫達でも引いて行けるでしょう」
なるほどー、馬車と同じ仕組みね。
「パオちゃーん、ちょっとこっちに来てくれる?」
子供たちは、キャットタワーからかなえの様子を伺っていたようだが、かなえがパオちゃんを呼ぶと、みんな一斉にタワーから飛び降りて近寄って来る。
『カナカナ、これなぁーに?』
『楽しいのー?』
子供達にはこの荷車が、何かわからないようで興味津々だ。
「えーと、これは荷車って言います。前で誰かがこの荷車を引いて、他のみんなはこの上に乗ってみてくれる?」
『パオーン、ぼく力持ちだから出来るよー!』
パオちゃんは自ら荷車を引くことにした様だ。
「うん。それじゃー、パオちゃん。ここの前の所に来て体をくぐらせてくれる?」
『いいよー』
そう言うとパオちゃんは、荷車から伸びるバーを鼻を使って上手にくぐり、体に当てる。
『これでいいの?』
「うん、たぶんいいと思うよ。パオちゃん、ゆっくり歩いて見てくれる?」
『いいよー』
パオちゃんが1歩ずつ前に歩きだすと、荷車も一緒に動き出した。
『わぁー、動いたー!』
『ヤッター!』
子猫達とバニーちゃんも大騒ぎだ。
キャットタワーの上の方から観察していたクーちゃんも、降りて来て側までやって来る。
『なんだい、カナカナ。また新しいのが出て来たのかい?』
「これなら、子供たちが一緒に遊べると思ったのよ」
『こんな小さい荷車は見たこと無いよ。ちょっと乗ってみようかね』
そう言うと、ゆっくり動いている荷車にクーちゃんが飛び乗る。
『わぁー、クーバーが乗ったー!』
『ボクもー』
『待ってー』
もうみんな夢中になって動く荷車に飛び乗って行く。
フフッ、まさかクーちゃんが先に荷車に乗り込むと思わなかったな。
バニーちゃんが飛び乗るのが怖そうなので、
「パオちゃん、今バニーちゃんも乗るからちょっと停まってくれる?」と言うと、
『はーい、パオの荷車停まりま~す』と、パオちゃんは嬉しそうだ。
バニーちゃんもゆっくり乗り込むと、
『パオいいよー』
『動いて―』と、子猫達はもう楽しくて仕方が無いようだ。
『パオーン、パオの荷車動きまーす』と、パオちゃんは得意げにみんなを乗せた荷車を引いて行く。
「パオちゃん、大丈夫? 重くない?」
かなえが心配になって聞くと、
『大丈夫ー。すごく軽いよー』と、パオちゃんは普通に砂浜を歩いて行く。
ちゃんと、重力制御がされているようだ。
「みんな、荷車の乗り心地はどう?」
『いいよー』
『おもしろいよー』
まー、これならしばらくは飽きないで遊んでくれるかな。
クーちゃんも、意外と荷車のドライブを楽しんでいるようだ。
「パオちゃん、疲れたら他のみんなに代わってもらいなね」
『ぼく、力持ちだから疲れないよー!』と、パオちゃんは運転席から離れたく無さそうだ。
フフッ、みんな楽しそうだから良かった。
「そろそろ、私は行くね。クーちゃん、後はよろしく」
『ああ、わかったよ』
かなえは後をクーちゃんに任せて牧場へ移動して行く。
牛舎に入って行き、ミルクタンクの周りにウオッシュを掛けていると、ミルクが大分上の所まで来ているのに気が付く。
いつもならここまで溜まる前に、ケンがミルクを取りに来るんだけどな……。
どうしよう。
「シロン、メラニーさんは今、何処にいるかな?」
「家の仕事場にいます」
かなえにはミルクをどうすればいいかわからなかったので、聞きに行く事にした。
メラニーさんの仕事場の前にジャンプして来ると、メラニーさんが忙しそうにお菓子を作っているのが見える。
かなえは扉を開けて入って行き「メラニーさん、忙しいところすみません」と、声を掛ける。
「あら、かなえ。大丈夫よ。どうしたの?」
メラニーさんは台の上に生地を広げて棒で伸ばしている所だった。
「あのー、牛舎のミルクタンクがもうすぐいっぱいになりそうなんですけど、まだ取りに来て居ないのでどうしたらいいかと思って、聞きに来ました」と、かなえが一気に言うと、
「まぁ―そうなの? 珍しいわねー。ケンはいつもいっぱいになる前に取りに来るんだけど」と、メラニーさん。
「私が届けることも出来ますが……」
「そうね……それなら余った分はヨーグルトソーダを作ってお店に出そうかしら」と、メラニーさん。
「はい、それならここに持ってくればいいですか?」
「ええ、ここには大きなコンテナもあるから、取りあえず運んで来てくれる?」
「はい、わかりました」
かなえは牛舎にジャンプで移動して行く。
ミルクタンクの前に来ると、空いているミルクの容器にウオッシュを掛ける。
どれくらい持って行けばいいかわからなかったので、置いてあった容器全部にミルクを注ぎ込む。
「シロン、ケンがミルクを取りに来ない理由なんてわからないよね?」とかなえが聞くと、
「ケンが働いている向こうのミルク工場では、特に変わった動きはありません。ケンは定期的にミルクを取りに来ていますし、次に来るのはおそらく3日後ぐらいでしょう」
「えっ、そうなの? じゃーなんでミルクのタンクがもう一杯なの?」
「おそらく牝牛たちのミルクの量が増えたのでしょう。温泉や流れる温泉の効果で牛達がより健康になったのだと考えられます」
「えっ?」
そんな事ってあるんだ……でも牛達が温泉によってより健康になっているんならそれは喜ぶべきことよね。
ミルクタンクがいっぱいになった理由がわかり、かなえはホッとした。
今度ケンが来た時に、ミルクを取りに来る時期を早めてもらうよう頼もう……。
かなえはミルクがいっぱいに入ったミルクの容器をポーチにしまうと、メラニーさんの仕事場へジャンプして行く。




