133 夜の飛行
「ジョンさん、ちょっといいですかー?」
かなえは外から、作業部屋にいるジョンさんに声を掛ける。
「やぁー、かなえさん。どうしたんだい?」と、ジョンさんは、外に出て来る。
「あのー、お話があってー」
「そうかい、それならそこのテラスで聞こうか」と、ジョンさんと一緒に家の前のテラスの椅子に坐る。
「実は……」
かなえは今日、ジョーさんの所へ行った時の様子をジョンさんに話す。
「……だから、ジョーさんの所へ行って、料理を届けたり話し相手になってくれる人が必要なんです」
「……色々驚いたが、かなえさんは家具職人のジョーさんとそんなに親しかったのかい?」
かなえは森のドームのお祭りの時に、ジョーさんと知り合いだとは話したが、詳しいことは話していなかった。
「いいえ、前にジョーさんが体調を崩していたので、それ以来たまに様子を見に行くようにはしていますが」
「それで、私にも家具の作り方を教えてくれるって言うのかい? なんだか信じられないな」
ジョーさんはドームシティーで1、2を争う腕前の家具職人だが人嫌いで有名だそうだ。
「そうですか? ちょっと愛想が無いですけど、そこまで酷くはないですよ」
「ハハッ、そうか……かなえさんらしいな。それなら、是非お願いしようか」
「わかりました。そうしたら明日一緒に行ってみますか?」
「わかった。準備しておくよ」
多少無理やりな感じもあるが、ジョーさんにはジョンさんの穏やかな優しさが必要な気がした。
かなえは話が終わると、シャワードームへ向かう。
移動して来ると、休憩場でみんなよく眠っている。
マリー達はどうしよう……。
かなえは並んで眠っているマリーとリキさんを、雲の上の温泉に移動させる。
キングス達、ジジさん達も送って行くと、もう一度シャワードームへ戻り、ウオッシュを掛けて行く。
シロン、子猫達とパオちゃんはどうしてる?
「子猫のキャットタワーで眠っています」
そうなんだ。
かなえは様子を見に、子猫達の所へ移動する。
フフッ、ほんとだ……。
パオちゃんと、子猫達はかなえが最近設置した大きな台に、一緒に眠っていた。
みんな今日も1日タップリ遊んだような、満ち足りた顔をして眠っている。
かなえは子猫達と、その周辺にウオッシュを掛けておく。
「シロン、バニーちゃんはどうしてる?」
「クーちゃんと一緒に温泉の外にいます」
かなえはバニーちゃん達の所へ移動する。
「クーちゃん、バニーちゃん。子猫達は迷惑かけなかった?」
『カナカナかい。ああ、仲良く遊んでいるが無茶はしていないよ』
そう、良かった。
「バニーちゃんは退屈してない?」
『えっ、そんな事ないけど……』
結構退屈していそうだな。
『この子に聞いたんだけど、あんたは空を飛べるって言うのは本当かい?』
えっ? あー、そう言えばバニーちゃんと牧場をカーペットで回ったな。
「本当ですよ。クーちゃんも飛んでみたいですか?」
『ああ、そうだね。この歳になると興味がある事は減って来るが、空には飛んでみたいよ』
「わかりました。それならこれから食事なので、終わってからでもいいですか?」
『ああ、いいよ』
かなえは食後にクーちゃんとバニーちゃんを空の散歩に連れて行く事を約束し、ジミーさんの庭へ移動して来る。
テーブルにウオッシュを掛け、夕食の準備をしていると、リリララ姉妹が戻って来た。
「おかえりー、ご苦労さま」
「ただいまー」
「ただいまー」
リリちゃんが話したそうにしていたが、せっかくだからジミーさんも来てからの方がいいだろう。
夕食の準備が終わる頃、ジミーさんが仕事場からやって来た。
「おや、待たせたかな?」
「いいえ、今ちょうど用意が出来た所です」
みんなで席に着くと、夕食にする。
献立は、ラウンドカフェの飲茶。硬焼きそば、チャーハン、青菜のガーリック炒め。
好きなものを取り分けていただく。
デザートはセサミボール、マンゴープリン、杏仁豆腐。
飲み物はリリララ姉妹はアイスアップルティー、かなえとジミーさんはポットで入れたハーブティーにする。
リリララ姉妹は飲茶が好きな筈だが、リリちゃんはあまり食が進んで居ないようだ。
「ララねー、今日ねー」と、いつものララちゃんの話が終わると、リリちゃんが話し始める。
「あのー、温泉にメラニーさんが来たんですが……」
リリちゃんが、話し辛そうにしていたのでかなえが、
「メラニーさんから聞いたよ。それでリリちゃんはどうするか決めたの?」と聞く。
ジミーさんは「なんだろう?」って顔をしている。
「はい、私、料理をもっとやりたくなりました」と、リリちゃんは一気に話す。
「うん、わかった。それでリリちゃんはメラニーさんには何て言ったの?」
「あのー『メラニーさんの仕事を手伝いたい』と、言いました」
「そう、わかった。リリちゃんが決めたなら、そうすればいいよ」
「でも、私、動物ギルドでお世話になったから、こんなに簡単に仕事を変えていいのかわからなくて……」
ジミーさんはリリちゃんとかなえの会話から、理解したようで静かに聞いている。
ララちゃんもいつもとは違う雰囲気に、様子を伺っているみたいだ。
「動物ギルドの仕事は今はほとんど無いし、他にやりたい事が出来たらいつでも変えていいのよ」
「はい。私、動物は大好きなんですけど、かなえさんみたいには動物の世話は出来ません……でも料理だったら努力したら上達すると思うんです」
かなえの女神さまから貰った力は、努力しても身に付く物では無い。
リリちゃんは悩んでいたんだろう……。
「リリちゃんの気持ちはわかった。これからはメラニーさんの所で料理の仕事を頑張ってね」
「はい、でもそうしたら、あの家には住めませんね? 食事だって……」
「そんなことを言ったら私はどうなるんだい?」と、話を聞いていたジミーさん。
「リリちゃん、私はリリちゃんが動物ギルドを辞めたからって、あの家から追い出したり、食事の世話を止めたりしないよ。いつか、リリちゃんの手料理を食べさせてもらえたらそれでいいよ」
いつの間にかかなえにとってリリララ姉妹は、血のつながった姉妹や自分の子の様に、大切な存在になっていたようだ……。
この二人には幸せになってもらいたいと素直に思える。
あっ、静かだと思ったら、ララちゃん寝ちゃったんだ。
「リリちゃん、もうこの話は終わりね。リリちゃんが心配する事は何も無いよ。私、応援するから」
「はい、ありがとうございます」
リリちゃんは、大きな目に涙を溜めている。
「私もいつか、リリちゃんの手料理が食べられるのを楽しみにしているよ」と、ジミーさん。
「はい」と、嬉しそうなリリちゃん。
……となると、明日はオクタゴンにメラニーさんと一緒に行った方がいいのかな。
明日の朝、メラニーさんの所へ聞きに行こう。
話が終わったので、リリちゃんと眠ったララちゃんを家へ送って行く。
「それじゃぁー、お休みー」
かなえはバニーちゃんとクーちゃんの所へジャンプして行く。
「クーちゃん、バニーちゃん、お待たせ―」
温泉の外の台で、ウトウトしているクーちゃんとバニーちゃん。
『遅かったね』
「ごめんなさい、ちょっと話が長引いちゃって……さっ、行こう?」
かなえはクーちゃんとバニーちゃんと一緒に、庭の中央に移動して来る。
そして、カーペット小を取り出して、芝生の上に置く。
椅子はかなえの操縦席だけで、あとはフカフカのクッションを二つ置く。
「はーい、クーちゃんバニーちゃん、クッションの上に乗ってね」
『こんなので、空を飛べるのかい?』と、クーちゃんは簡単な造りの乗り物に驚いている。
「うん、安心して。見た目よりは安全に作られているから」
かなえは念の為、バニーちゃんにも付けた空中階段機能を、クーちゃんにも1メートルで付けておく。
これでもしもの事があっても、落ちる心配は無い。
2匹がクッションに乗ったのを確認すると、
「それでは、出発……」と、移動しようとしたら、一匹の茶トラの猫がかなえ達の様子を見ていた。
「えーと、そこにいる茶トラの猫ちゃん。一緒に行きたい?」
『ああ、トラだね。あの子はまだ若いから好奇心はあるだろう』
茶トラの猫がかなえ達に近寄って来ると、
『クー達は何処へ行くの?』と、聞いて来る。
『あたしたちは、空を飛びに行くのさ。あんたも行きたいならおいで』
『えーっ! 空をとべるのー!?』
かなえはトラちゃんにもクッションを用意しクーちゃんと同じ空中階段機能を付ける。
「はい、トラちゃんって言うのね。このクッションに乗ってちょうだい」
『ヤッター!』
クーちゃんはポーンと身軽に跳んでクッションに座る。
「では、今度こそ出発しまーす!」
かなえはカーペットにシールドを掛けると、インビジブルにしてゆっくりと浮上させて行く。
えーと、何処に、行ったらいいかな……。
かなえはまず、このアニマルドームの中を案内する事にした。
『ワーッ、浮いたぁー』
『ハハッ、中々眺めが良いもんだね』
2匹の猫はまだカーペットを浮上させただけなのに騒いでいる。
でもバニーちゃんは2回目だから静かだ。
「では、しばらくこのアニマルドームを案内しまーす」
かなえは島から伸びる橋の上をカーペットで移動して行く。
もう薄暗くなって来て、外灯が灯っている。
「シロン、思ったんだけど、この子達は今どれくらい見えているの?」
「猫もウサギも、暗くなっても見えますが、もともと視力は良くありません。ウサギは極度の近眼、猫は近くは普通に見えますが遠くは見ることが出来ません。その代わり聴覚や嗅覚が発達しています」
そうなんだ……せっかくきれいな景色を見て欲しかったのに、良く見えないのね。
「シロン、この子達に一時的に視力を良くする飴みたいなものは無いの?」
「飴はありませんが、ゴーグルならあります」
えー、ゴーグルなんてあるのー! でもこの子達、着けてくれるかな?
「シロン、一様試してもらうから出して?」
「はい、どうぞ」
かなえはポーチを開けると、SF映画に出て来そうなカッコいい小さなゴーグルが3つ出て来た。
カーペットを空中で停止させると、
「みんな、このゴーグルを着けて見ない? 遠くまで見ることが出来て楽しいよ」
『何だね、そんな人間みたいな物……』と、クーちゃんは嫌そうだ。
『ボク、着けて見たーい!』と、トラちゃんは関心を示す。
バニーちゃんは迷っているようだ。
「それじゃー、トラちゃんに着けてみるね」
かなえはトラちゃんの顔にゴーグルを着けて、頭の後ろのバンドを緩めに締める。
『わぁー、何これ! 凄く遠くまで見える!』
ゴーグルの効果はあったようで、トラちゃんは大興奮だ。
『そんなに良く見えるのかい? それならあたしも試してみようかね』
フフッ、やっぱりクーちゃん試すのね。
「いいよ。はい、着けるよ」
かなえはクーちゃんにもトラちゃんと同じゴーグルを着けると、
『はぁー、何だこれは! これは、たまげたよ』と、クーちゃん。
バニーちゃんはどうかな。
本当は視力が弱いバニーちゃんに、一番試して欲しい。
「バニーちゃん。どうする? 遠くまで見られるよ?」と、かなえは無理強いしない様に尋ねると、
『うん、あたしも着けてみたい』と、バニーちゃん。好奇心の方が勝ったようだ。
「わかった、待ってね」
かなえは猫用のゴーグルと、目の位置が違うウサギ用のゴーグルをバニーちゃんに着けて、後ろのバンドを留める。
「どうかな?」と、かなえが訪ねると、
『わぁー……!』と、バニーちゃんは声を上げた後、静かになってしまった。
ちょっと刺激が強すぎたかな……。
かなえは再びカーペットを飛ばして行き、牧草地やプロの実畑、川の場所等を説明して行く。
そろそろ慣れて来たかな……?
「では下の様子がもっと良く見えるように、透過させますけど落ちないから大丈夫ですよ」
かなえはそう言うと、カーペットやクッションを透過させて行く。
『わぁー、何だね! 地面が丸見えじゃないか!』と、クーちゃん。
『きゃー、こわい!』と、バニーちゃん。
『わぁー、すごーい!』と、トラちゃん。
「実際は、ちゃんと落ちない様になっていますから、安心してくださいね」
かなえはそう言うと、山の方へ向かう。
1合目の温泉まで移動して来ると、
「ここは小動物用の温泉があります、グレさんやシシーさんがいると思いますよ」
『そうかい、グレがいるとうるさいから、先に入っておくれ』と、クーちゃん。
まぁー、それなら行こうか……。
かなえは3合目と頂上を案内し、雲の上の温泉まで移動して来る。
「ここも温泉ですけど、大型動物用なのでみんなにはちょっと深すぎますね」
『へー、こんな雲の上にも温泉があるのかい。驚いたよ!』
今日はクーちゃんを色々と、驚かせられたようだ。
『すごいねー! ここからでも僕たちの小屋とか温泉が見える!』と、トラちゃん。
『ホントだねー、猫達の様子も良くわかるよ』
えっ! 猫達の様子って、それはさすがに無理なんじゃ……。
かなえには家や動物達の小屋は見えても、動物達まではとても見えない。
「シロン、ゴーグルを掛けると視力は何処まで良くなるの?」
「はい、このゴーグルは視力3.0用ですが?」
えーっ! 3.0ってそんな……。
「それって、私が使えるゴーグルもあるの?」
「はい、人用も数種類あります。3.0でよろしいですか?」
「うん、みんなと同じのにしてくれる?」
かなえはシロンに用意してもらったゴーグルと装着すると、目の前の景色が明るく広がった。
「シロン、このゴーグル。周りが明るく見えるんだけど」
「はい、人用には暗闇でも不自由しない様に、暗視機能も付いています」
へーっ、そうなんだ。もう夜なのに、夕方ぐらいな感じで周りが良く見える。
かなえは自分の事に夢中になっていたが、動物達は周りの景色を楽しんでいるようで気にしていないようだ。
「えーと、それではもう少し高度を上げて行きます」
かなえは、カーペットをどんどん浮上させて行くと、動物達はドームが広がっている、周辺の様子に驚いたようだ。
「あの、一番端の明るいドームが中心のドームシティーですよ」
『へー、そうなのかい。あたしたちはあそこに住んで居たんだねー』
『広いんだねー』
バニーちゃんが静かなのでかなえは、
『バニーちゃん、驚いたでしょ? 大丈夫?』
『うん、あたしカナカナの顔も見えるし、お家も山も全部見える!』と、バニーちゃんも実は喜んでいるようだ。
「そうね。このゴーグルがあると、良く見えるから便利ね」
かなえも普段よりも良く見えるので、景色を眺めるのが楽しい。
でももう遅くなるから今日はこの辺で帰ろう。
「みんな、今日はこれぐらいで帰りますよー、続きはまた今度にしましょうねー」
『ええー、もう終わり―?』とトラちゃん。
『トラ、仕方がないだろう。人間は夜は寝る生き物なんだから』
あっ、そうか……みんなは夜行性だったね。
「ごめんなさいね。クーちゃんの言う通り、夜は寝ないと明日仕事にならないから。今度また連れて来るよ」
『ホント? 絶対だよー』と、空の旅が気に入ったトラちゃん。
「うん、わかった」
かなえは約束すると、ゆっくり猫の小屋の前の庭に戻って来て、カーペットを着陸させる。
『あー、おもしろかった。これちょーだいね』と、トラちゃんはゴーグルを着けたまま走って行ってしまった。
ちょっと、その姿のままだと……まぁーいいか。
「クーちゃんと、バニーちゃんは外して良いでしょ?」
『ああ、そうだね。日常生活には無くても困らないからね』
『あたし、これ欲しい。良く見えるから楽しいの』と、バニーちゃん。
「シロン、このゴーグル、着けたままでもいいの?」
「長時間は、目を疲れさせますので、日中だけにすれば大丈夫でしょう」
そうなんだ……。
「バニーちゃん、1日中着けていると目に良く無いみたいだから、昼間だけならいいよ」
『うーん、わかった』
かなえは一旦ゴーグルを預かり、明日着けてあげることにした。
『カナカナ、ありがとよ。今夜は面白かったよ』
珍しくクーちゃんは素直にお礼を言い、照れくさいのか温泉の方へさっさと歩いて行く。
そしてその後をバニーちゃんも追って行った。
はぁーこれで終わりね。
かなえはジャンプで自分の部屋へ戻って来る。
温かいお風呂に入り、寝る支度をすると、さっさとベットに入る。
今日も何とか無事に終わったな。
いろいろ1日起こったことが頭をよぎるが、もう遅いので今日はもう寝る事にする。
かなえは灯りを消すと、眠りに就いた。
――――――――――――――――
ポイント
プラス 1000 疲労、神経痛緩和飴 ジョーさん
マイナス 6万 食料買い出し 7軒 まかない亭、スープ屋、ラウンドカフェ、イタ飯屋、総菜屋、ジャングルフード、テラスカフェ
残り 215万1400
パワー 497
――――――――――――――――
予定 動物達を連れてお出掛け
――――――――――――――――
給料30日目 牧場の従業員見習い 15万
動物ギルド長 20万ー6万(リリララ姉妹の残業代)=14万
アニマルドーム管理人 30万




