131 牛の親子
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「うーん……」
『カナ、カナ、パンちょうだーい、おはよう』
「あ、リトくん、おはよー。今日も早いねー」
『うん、ぼく、はやいよー、おきてー』
「わかった、わかった。起きるよー」と、かなえはやっとベットから抜け出す。
「はい、今日はどれにするの?」と、居間まで歩いて来てパンを取り出すと、
『うーんとねー、ぼく、白いパンがイイ!』と、リトくん。
今日のパンにはココナッツフレークが練り込まれている。
「はい、これね。どーぞ」
かなえがちぎったパンをリトくんに渡すと、上手に足で抑えながらパンをつまんでいる。
飲み込んでいるのであっという間に食べ終わると、
『パンパンパン、白いパン、甘いパン』と、ピョンピョン跳ねている。
そして窓際まで移動すると、またピーちゃんの元へ戻って行く。
さてっと……リトくんも行ったし、準備をしよう。
「シロン、ジジさん達はどうしてる?」
「牧場の丘の上にいます」
えっ? どうしたんだろう……。
かなえは出掛ける支度を終えると、牧場にジャンプして行く。
「ジジさん、ババさん、おはようございます」
『ああ、おはよう』
『おはよう、カナカナ……ほら、やっぱりここに居たら来てくれるって言ったじゃない』
『ああ』と、小さい声で話している。
「あのー、何かあったんですか?」
『いいえ、もう牛達も温泉に慣れて来たから、私達もたまには向こうにも行きたくなったのよ』
「そうでしたか。わかりました。朝、ここで待っている時は迎えに来ることにしますね」
『ああ、頼むよ』
かなえはジジさんとババさんを連れて、アニマルドームの砂浜に移動して行く。
「それでは楽しい1日を過ごしてくださいね」
嬉しそうに、エスカ機能で上に登って行く2頭の牛達を見送り、ジミーさんの家の庭に移動して行く。
テーブルにウオッシュを掛け、朝食の準備をしていると、家の中からジミーさんが出て来た。
「おはようございます」
「おはよう」
「昨夜は良く眠れましたか?」
「ああ、おそらくあのハーブティーのおかげだろう。ベットに入ったと思ったら、もう朝だったよ」と、ジミーさん。
ぐっすり眠れたからか、スッキリしているように見える。
「そうでしたか、あのハーブティーは凄いんですねー」
「しばらく、夜はコーヒーの代わりにあれを飲むことにするよ」と、ジミーさん。
すると、リリララ姉妹が庭に入って来る。
「おはようございます」
「おはようございまーす」
リリちゃんもララちゃんも元気いっぱいだ。
ララちゃんは昨日、お昼寝を沢山していたけどリリちゃんが何も言わないから、夜も普通に寝られたんだろう……。
「さぁ、食べよう」
「いただきまーす」
準備を終えると、みんなで朝食を食べ始める。
今朝の献立は、厚切りのチーズトーストと、プロの実ソーセージ。
ハッシュドポテトに、野菜たっぷりガンボスープ。
それにトマトときゅりのサラダ。
ミックスフルーツにヨーグルトとグラノラを振りかける。
飲み物はマンゴバナナジュースと、アップルティー。ジミーさんにはカプチーノにした。
パンを口に入れながら「メラニーさんはいないの?」と、ララちゃん。
そうか、もうスミス夫妻も昨日からここに居るんだ……。
1人だったら、声を掛けるけど夫婦のペースがあるからな。
「そうね。たまには一緒に、食事をしようね」と、かなえは答えておく。
週末が終わり、リリララ姉妹はまたオクタゴンの教室へ向かって行く。
ジミーさんは、昨日出掛けてアイディアが浮かんだそうで、色々作る予定だそうだ。
後片付けを終えると、かなえは動物達の様子を見に行く。
「シロン、パオちゃん達は何処にいるの?」
「パオちゃんは小屋でミルクを飲んでいます。そして、子猫達は庭で走り回っています」
かなえはパオちゃんの所へ移動して行く。
小屋の中へ入って行くと、パオちゃんはごくごくとミルクを飲んでいた。
飲んでいる間、持ち上げている鼻を上下左右に動かしている。
「パオちゃん、おはよう。元気?」
『うん、カナカナ』と、言うとすぐにまたミルクを飲み始める。
かなえは小屋の中にウオッシュを掛け、空になったミルクタンクを取り換える。
しばらくミルクを飲んでいるパオちゃんの様子を見ていたが、終わりそうにないので、子猫達の様子を見に行く。
子猫達はキャットタワーから、子猫のドームへ飛び移って遊んでいる。
「あなた達、気を付けてねー」と、心配になり声を掛ける。
「かなえ、子猫達には1メートルの空中階段機能を付けていますので、それ以上は落ちません」
あっ、そうだった。それなら落ちても大丈夫そうね。
かなえは子猫のドームと周辺にもウオッシュを掛けて、牧場に移動する。
牛舎に入って行くと、ミルクタンクや置いてある空の容器の辺りにもウオッシュを掛ける。
タンクの中にはミルクが溜まって来ているので、そろそろケンがミルクを取りに来る頃だろう。
牛舎の中にウオッシュを掛け終わると、スクーターを取り出して、建物の屋根や外回りにもウオッシュを掛ける。
すぐ側にあるスミス夫妻の家や離れ、ジョンさんの作業部屋も外からウオッシュを掛けて行く。
もう、スミス夫妻はこの家に住んで居ないので、牛舎の掃除のついでにたまにウオッシュを掛ける事にしよう。
かなえは牧場も回り、ウオッシュを掛けて行く。
次に温泉に移動して、様子を見に行く。
かなえは自分にウオッシュを掛け、上の温泉の休憩場に移動して来ると、近くでウトウトしていた大きなグレーの牡牛に声を掛ける。
「あのー、何も問題はありませんか?」
『は? あー、あんたか。大丈夫じゃないか……』
グレーの牛は、とても眠そうでかなえと話すのは無理そうだ。
かなえは、奥の泡風呂で温まっている、牛の親子に声をかける。
「こんにちは。お湯の温度は今のままでいいですか?」
『ああ、あんた。こんな温泉を造るなんて凄いじゃないか。あたしは達は毎日ここに入りに来ているんだよ』
「えーと、あなたは?」
『ほら、この子を産んで調子が悪い時に、お腹を撫でてくれたじゃないか』
かなえが初めてミルクドームに来た時に、牛舎の中で調子悪そうにしていた牝牛だ。
『ぼく、おいしい飴なめたよー』と、子牛。
泡風呂で、ほとんど体が隠れているが、思い出した。
牛舎に鏡を見に来て飴をあげた時もあったな。
「思い出したわ。最近体の調子はどうなの?」
『あたしは、問題無いよ。この子も最初は心配してたけど大きくなって来ただろう』
そうだ。この子の成長が遅いって心配していたな。今は温泉の中にいるからわかりにくいが健康そうだ。
「そうね、この子も元気そうね。そういえば下の流れる温泉は試してみた?」
『あたしは1度泳いでみたよ。でもまだこの子には無理だろう?』
「いいえ、そんな事は無いと思うわ。体は自然に浮くし、流れに任せても進めるのよ。もしよかったら、私が付き添うから一緒に泳いでみる?」
『うーん……こわくない?』
「大丈夫よ。私もこの間、大きなウサギと一緒に泳いでみたけど大丈夫だったわ」
『じゃー、ぼく泳ぐ―』と、子牛。
『へー、チビはあれだけあたしが行っても泳がなかったのに、泳ぐ気になったのかい』
『うん、いいよー』と、子牛。
「それなら、今から泳いでみる?」
『いいよ。またおいしい飴くれる?』
「フフッ、うん。その前にがんばって泳ごうね」
『あーそうかい、この子はあの飴を舐めたくて泳ぐみたいだね』と、牝牛。
かなえは、泡風呂から出て来た牛の親子と一緒に、温泉を横切りスロープを歩いて降りて行く。
かなえは水着に着替え、スクーターを取り出す。
「私はすぐ側にいるから、安心して流れる温泉に入って行ってね」
『チビ、あたしが先に入るから、後に付いておいで』と、2回目なのに頼もしい牝牛。
牝牛はゆっくり、温泉の中に入って行き体が浮くと、スーッと先に進んで行く。
『ほらっ、何やっているんだい! ついておいで』
そうは行っても、どんどん遠ざかって行く牝牛を見ながら、自分だけで入って行くのは勇気がいるだろう。
「大丈夫だよ。何かあったら、すぐに歩道に戻してあげるから、温泉の中に入ってみて?」
『うん……』
子牛はすぐ近くにかなえがいるので安心したのか、少しづつ中に入って行く。
「そうよ、その調子……あと一歩」
『あーっ!』
子牛は温泉の中に入って行き、体がフワッと浮いたかと思うと、お湯の流れに押されて前に進んで行く。
『ワーッ、動いてるー』
「大丈夫よ。体の力を抜いてちゃんと前を見て」
『やっと、中に入れたねー』と、牝牛が少し先の歩道へ上がる所で、子牛が来るのを待っていた。
『あーっ、ママ!』
『いいよ。そのまま一緒に泳ごう』と、牝牛が子牛と並んで泳ぎだした。
かなえも親子のすぐそばを、スクーターで走らせて行く。
「どう? 疲れて来た?」
『ううん、おもしろい! ぼく泳げるよー』
子牛は泳ぐコツをつかんだのか、足を蹴りながら進めるようになって来た。
『あははっ、チビ、上手いじゃないか!』
牝牛は自分の子供が泳げるようになって嬉しそうだ。
「上手に泳げてるよ。丁度この辺りで半分だから、今と同じ位泳げばさっきの場所に着くよ!」
『うん、ぼくがんばる―!』
子牛は息が切れて来たが、泳ぎを止めるつもりは無いようだ。
『この子は本当に元気になって来たんだねー。良かったよ』と、牝牛。
「シロン、この子牛はこのまま泳いでも大丈夫?」
「はい、まだ体力はあまりありませんが、毎日ここで泳いでいれば体も元気になって行くでしょう」
そう、良かった。
「これからも毎日頑張って泳いだら、もっと健康になるみたいよ」
『そうかい。チビ、毎日泳ごうね』
『うん、ぼくもっと元気になるよー』
「もうすぐ1周だから上がってね。最初から無理しない方がいいから」
『そうだね、チビ。こっちにおいで。もうすぐあがるよ』
『うん、わかったー』
歩道に上っていく牝牛の後を子牛は付いて行く。
『よく泳げたじゃないかー』と、牝牛が褒めると、
『うん、ぼく泳げたよー!』と、喜ぶ子牛。
かなえは歩道にスクーターを停めると、シロンに頼んで飴を出してもらう。
子牛には白くて大きな、健康ミルク飴、子牛用。もう一つは、健康塩飴、牝牛用だ。
「はい、よく泳げました。どうぞ」と、かなえは子牛と牝牛の口に飴を入れる。
『わぁー、美味しー。ママのミルクのあじー!』
『そうかい、あたしのは、いい塩加減の飴だよ』
子牛は飴を噛んで食べてしまったようで、まだ欲しそうにしている。
『ありがとよ。おかげでチビもこれからは泳げるよ』
牝牛は子牛を連れて、牧草を食べに外へ向かって行った。
「あっ、いけない!」
もうすぐお昼になるが、アニマルドームの掃除がまだ終わっていない。
かなえは服に着替えると、ジャンプで移動して行く。




