128 スミス夫妻の引っ越し
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「……」
『カナ、カナ、アサだよー。おきなさい!』
「あー、もう朝かー、リトくん……」
かなえはわざと目を瞑って寝たフリをすると、
『カナ、カナ、パンちょーだい、はやく―!』と、かなえの耳元まで飛んで来て鳴き始める。
「フフッ、もーリトくんはー。わかった、わかった」
朝のリトくんとのやり取りが結構楽しい。
かなえは居間に来ると、リトくんにパンを選んでもらう。
「はい、どれがいい?」
『ぼくねー、ちゃいろいパンがいい!』
リトくんが選んだのは、雑穀とレーズンが入ったパン。
「はい、どーぞ」
リトくんはあっという間に食べ終わると、
『おいしーな。ちゃいろパン。おいしーな』と、リトくんはこのパンも気に入ったようだ。
パタパタと羽を広げて跳ねると、かなえを一瞬見て窓からスーッと飛び立って行った。
あーあ、リトくん行っちゃった。
リトくんに、島の象のパオちゃんを見に来たのか、聞きそびれてしまった。
まぁーいいか。
もう最近は、アニマルドームに興味が無いのかなー……。
かなえは支度をすると、牧場のジジさん達は問題無さそうなので、パオちゃんの小屋の前にジャンプして行く。
あらっ? いないなぁー……パオちゃんは、遊びに行ったのかな?
かなえは誰も居ないパオちゃんの部屋に入って行くと、ウオッシュを掛け、空になったミルクタンクを取り換える。
それにしてもパオちゃんのミルクの飲む量は半端ない。中型犬位の大きさなのに、ミルクは自分の体重の何倍も飲んでいるようだ。
お腹を壊さないといいけど。
「シロン、パオちゃんはどうしてる?」
「すぐ前の、砂浜で子猫達と遊んでいます」
そうなんだ……それなら後で様子を見に行こう。
かなえは猫や、子猫達の小屋にウオッシュを掛けながら、ジミーさんの家の庭に歩いて行く。
「ジミーさん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「ミーティングは何処まで進んだんですか?」
かなえはジミーさんに昨日の話の続きを聞く。
職人達も、メラニーさん達との仕事に意欲を感じているようで、話がどんどん進んでいるようだ。
ジミーさんはメラニーさんのお店の焼き物を、作る事にしたそう。
「そうですか。出来上がったら見せて下さいね」
「ああ、もちろんかなえさんには、見せるよ」
朝食の準備が終わると、リリララ姉妹が駆け足でやって来た。
「おはようございます!」
「おはよーございますー」
「おはよう! そんなに急いで来なくてもいいのよ。今日は休みでしょ?」
「はい、でも朝食に遅れるから……」
「大丈夫。朝寝坊したい時は、食事はコンテナに入れておくから」
「ヤッター、ララお昼までねれるー!」
「ララ、それだと夜寝られなくなるよ!」
そうか、リリちゃんが大変になるからあんまりララちゃんを甘やかしたらいけないな……。
「私はこうやって、リリちゃんとララちゃんとも一緒に食事が出来た方が嬉しいな」
「ああ、私もそう思う」と、ジミーさん。
「さぁー、食べようか」
「いただきまーす」
献立は、根野菜とひよこ豆の雑穀リゾット、ルッコラとマッシュルームのサラダ。バナナブレッド、ミックスフルーツヨーグルト。
飲み物はパッションフルーツジュースにココア。ジミーさんにはコーヒーだ。
「ララねー、やっぱりねー、寝てるより食べる方がいいなー」
「そうね、起きるのが遅くなると、朝食とランチが一緒になっちゃうものね」
ララちゃんの困った顔が、みんなの笑いを誘う。
なんだか平和だなぁー。
食事を食べ終わり、そろそろ行こうかと思っていると、メラニーさんがやって来た。
「あー、メラニーさん!」と、気が付いて声を上げるララちゃん。
「メラニーさん、おはようございます」
どうしたんだろう? ララちゃんを迎えに来てくれたのかな?
今日はリリちゃんが休みで、お出掛けするのでララちゃんの世話をメラニーさんに頼んでいたのだ。
「お食事中ごめんなさいね。ちょっとかなえに手伝って欲しいことがあって……」
「はい、いいですけど?」
メラニーさんが言うには、昨日ミーティングで職人達と話しをして、仕事をする気がますます出で来たそう。
家に戻って来てジョンさんと話し合い、この島に越して来る事に決めたそうだ。
本格的にお菓子作りをするなら、この島の業務用のキッチンのある作業場で行う方が効率がいい。
「それで、今日引っ越しをしてしまう事にしたの……かなえに荷物の移動を手伝ってもらえたら助かるんだけど」
「いいですよ。ちょっと用事を済ませて1時間後でもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。助かるわ」
「えー、ララのパイはー?」
あっ、ララちゃんの事はどうしよう。
「それならララちゃんは、私と一緒にいようね?」
「えー」と、ララちゃんはガッカリしたようだ。
「ララちゃん、お菓子は後で作りましょう? オーブンの焼き具合を確かめたいから、後で何か造ろうと思っていたのよ?」
「ヤッター、ララ、パイがいい!」と、ララちゃん。
「でも、忙しければ、ララは連れて行きますけど……」と、心配そうなリリちゃん。
「大丈夫よ、リリちゃん。みんないるから、ララちゃんの面倒は任せて?」と、かなえが言うと。
「はい、ありがとうございます」と、リリちゃん。
せっかくの休みぐらい、妹の世話から解放させてあげたい。
「そうね、ララちゃんにもいろいろ手伝ってもらえるわね」
「うん、いいよー。ララ、手伝う!」と、ララちゃんはメラニーさんの手伝いが出来るのが嬉しいようだ。
「行って来まーす」
ララちゃんはメラニーさんに連れられて、先に牧場へ出掛けて行った。
リリちゃんは友達の所へ行き、ジミーさんは作業場で作品作りだそうだ。
かなえは砂浜のパオちゃん達の様子を見に行く。
『キャッキャッ』
『パオちゃんのはな、ながいねー』
『それっ!』
子猫達とパオちゃんは湖の波打ち際で、ドロドロになっていた。
「あなた達、今日も元気ねー」
『あー、カナカナ』
『パオちゃんは、はなから水が出るんだよ―』
『ギャハ―』
あーあー、近よると泥が飛んで来そうだ。
子猫達とパオちゃんでは体のサイズが違うのに、随分と楽しそうだなー。
子猫達は生後50日を過ぎた所で、パオちゃんは生後10日前後だろうから、精神年齢が近いのかもしれない……。
「クーちゃん、バニーちゃん、今朝も一緒にいてくれてありがとう」
今朝も、子猫達とパオちゃんを見守ってくれている。
『全くこの子達は、こんなにドロドロになって何が楽しいんだか』
「フフッ、バニーちゃんも一緒に遊べば?」
『うーん、でも、ドロドロはいや』
まぁー、そうよねー。やっぱり男の子は元気なのね。
「あなた達、泥が乾かないうちに、水の中で体を洗いなよー」
『ハーイ』
『わかったー』
『すべったー』
「シロン、何か危ないことがあったらすぐに知らせてね」
「はい、わかりました」
クーちゃん達に後は任せて、牧場へ移動して行く。
かなえは、メラニーさんの所へ行く前に先の掃除を済ませる。
牛舎と牧場を回りウオッシュを掛けると、ジジさん達の所へ移動して行く。
「ジジさん、ババさん、おはようございます」
『ああ、おはよう』
『おはよう。カナカナ』
ジジさんとババさんは、上の温泉の休憩場で他の牛達と一緒にいた。
「何か問題はありませんか?」
『ああ、大丈夫だ。下の温泉で泳ぎだしてから、他の牛達も体力が付いて来たようだ』
『それに、いつも清潔でいられて気分が良いのよ』
ジジさんとババさんは生き生きとしているな……。
他の牛達から頼られているんだな。
かなえは温泉と下の流れる温泉にもウオッシュを掛け、メラニーさん達の家に向かう。
扉の前にジャンプして来ると、ドアノッカーを鳴らす。
「カンカン」
「はぁーい、どうぞ入って来てー!」と、メラニーさんの声がする。
かなえは扉を開けて部屋の中に入って行くと、ララちゃんが走って来た。
「あー、かなえさん。ララねー、今ねーヨーグルトソーダのんだよー」
ララちゃんは居間の大きなソファーに座っていたようだ。
忙しそうに、メラニーさんがキッチンから出て来た。
「かなえ、忙しいのにごめんなさいね」
「いいえ、一通り終わらせてきましたから問題無いですよ」
「ありがとう。それで、持って行きたい荷物なんだけど……」と、奥のキッチンに行くメラニーさんの後に付いて行くと、大きなカゴの中にキッチン用品が入っていた。
「メラニーさん、向こうにも一通り道具は揃えていますけど?」
「ええ、そうなんだけど。愛着がある物は一緒に持って行きたいのよ。でも、最低限の道具はここへ残して行くつもりよ」
「そうですか。わかりました。それではこれはお預かりしますね」
かなえは、そのカゴに詰まった道具をメラニーさんのフォルダにしまう。
「あのー、他に持って行きたいものはありますか?」
「そうねー……」
「例えば、向こうの家に家具はありますが、しまうことも出来ます。ここの家具と入れ替えることも出来ますが?」
「まぁーそうなの? それなら大きいいけどいつも使用しているベットを向こうでも使いたいの」
「はい、わかりました。どのベットか見せて下さい」
「こっちなんだけどー」
かなえはメラニーさんの後に付いて、寝室に入って行く。
「わぁー立派なベットですね」
「そうでしょ? これはもともとあったベットに、ジョンが細工をしてくれたから愛着があるのよ」
ヘッドボードの所に花の彫刻が施されていて可愛らしい。
「わかりました。このまま寝具事、向こうへ持って行っていいんですか?」
「ええ、お願いできる?」
かなえはベットをフォルダに入れると、その他にもいくつかメラニーさんのお気に入りの家具や服、雑貨などをしまって行く。
「他には何かありますか?」
「もうこの家の中は無いわ。後はジョンの作業場の方に色々あるみたいだから、お願いできる?」
「はい、わかりました」
かなえはメラニーさんに連れられて作業場にやって来ると、ジョンさんが道具や木材をまとめていた。
「ジョンさん、こんにちは」
「やぁ、かなえさん。すまないね」
「いいえ、やっとこちらに越して来てくれるんですから、大歓迎です」
「やっと重たい腰が上がったのよー」
「ハハッ、そうだな」
かなえはジョンさんに言われた道具や木材、製作途中の家具をポーチのジョンさんのフォルダにしまう。
「あのー、リビングのソファはどうしますか?」
「ええ、あのソファも気に入っているんだけど、ここの家にもたまには戻って来たいから置いておくことにするわ」
「わかりました。また移動させたい物があれば、いつでも行ってくださいね」
「ありがとう、かなえ」
「では、他に無ければ向こうの家へ行きますけど……どうしますか?」
「そうだな。さっさとやった方がいいだろう」
「そうね、かなえ、お願いできる?」
「わかりました。それでは……」
「かなえ、待って! ララちゃんもいるからね」
あっ、いけない……そうだった。
みんなでリビングに戻って来ると、ララちゃんはソファの上で眠っていた。
「フフっ、ララちゃんったらお昼寝してるわ」
「可愛いな」
ララちゃん、寝たり無さそうだったからな……。
「それでは、このままララちゃんも一緒に移動しまーす」
かなえはみんなを連れて、島のスミス夫妻の家のリビングにジャンプして行く。




