125 象の赤ちゃん
「……はぁー、良く寝たー。あれ? シロン、今何時?」
「朝の5時半です」
かなえは珍しく、リトくんが起こしに来る前に目が覚めた。
ベットから起き上がると、先に朝の支度を始める。
かなえが鏡の前で髪をとかしていると、リトくんが窓の隙間から入って来た。
『あー、カナ、カナー、なにー? おきたー! 』
リトくんは、もうかなえが起きているのが不思議な様だ。
「リトくん、そんなに驚かなくても良いでしょー」
『だって、カナ、カナ、いつもねてる、きょうおきてる!』
リトくんは部屋の中を飛び回っている。
「まぁー、そう言う時もあるよ。はい、リトくん。パン食べるでしょ?」
パンを取り出すと、やっとリトくんはテーブルの上まで降りて来る。
『ぼくねー、みどりのパンがイイ!』
リトくんが選んだのは色々な葉が練り込まれているパンだ。
「はい、このパンね。どーぞ」
リトくんはかなえがあげたパンを、上手にちぎって食べ始める、
『みどりのぱん、はっぱパン、おもしろい』
なぜか、リトくんにはそのパンが、面白いようだ。
食べ終わると『みどりぱん、はっぱパン』と、ピョンピョン飛び跳ねている。
「あっ、そうだ、リトくん。昨日ねー……」と、かなえは象の赤ちゃんが送られて来たことをリトくんに話す。
『えー、はながながいのー?!』
「そうよ。だから、たまにはアニマルドームにも遊びに来れば?」
『うん、わかったー』
リトくんは窓からピーちゃんの家に戻って行った。
「シロン、ジジさん達と、象の赤ちゃんの様子を教えてくれる?」
「牛の温泉は、朝から牛達が温泉を楽しんでいるようです。そして、ジジとババは流れる温泉で泳いでいる所です」
「象の子は先程目を覚まし、周りの動物達に囲まれて困っているようです」
えー、そうか。それは大変。
かなえはジャンプで、象の赤ちゃんの小屋へ移動して行く。
「あっ……」
今朝は昨夜よりもたくさんの動物達が、象の赤ちゃんを見に来ていた。
「はぁーい、みんな。ちょっと通らせて」
かなえは、入口から象の赤ちゃんを覗いている動物達をまたいで、中に入って行く。
「みんなおはよう。象さん、起きたみたいね……始めまして。いっぱいいるから驚いたでしょ?」
『パオちゃん、おきたねー』
『パオちゃん、こわいのー?』
『パオちゃん、はなが動くね―』
子猫達はパオちゃんに興味があるのか側から離れない。
「クーちゃん、面倒見てくれてありがとう」
『いや、この子は夜はずっと寝ていて、さっき起きたばっかりだよ』
「そう、でも子猫達はパオちゃんって呼んでるけど……」
『ああ、さっきパオーンって鳴いてたからだろう』
そうなんだ……。
「ゾウさん、ここは安全な所よ。安心して。お腹が空いたでしょ?」
かなえがまだ縮こまっている象の赤ちゃんに話しかけると、
『パオーン、ママー、ママはー?』と、お母さんを探す象の赤ちゃん。
「シロンお願い」
かなえはシロンに頼み、ポーチを開けてみると、中から50センチぐらいのミルクが入った哺乳瓶が出て来た。
注意書きには「象の赤ちゃん用のミルク。早くに親とはぐれた小象用」と、表示されている。
「はい、お腹が空いたでしょ。ミルクを飲んで」と、かなえが哺乳瓶を象の赤ちゃんの口に持って行く。
始めはイヤイヤをしていたが、頭を撫でていたらおとなしくなり、哺乳瓶の先を口に含みミルクを飲み始めた。
『あー、ママのミルクのあじ―』と、鼻を上に持ち上げてミルクを飲み続け、あっという間に全て飲み干してしまう。
「はい、全部飲めたね」
かなえが頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細める象の赤ちゃん。
「シロン、この子の体調はどう」
「はい、もうほとんど回復しています」
「そう、良かった」
「ここはね、いろいろ動物がいるから、みんなあなたのお友達になってくれるわよ」
『いいよー』
『お友だち―』
『あそぼ―』と、一番前で象の赤ちゃんがミルクを飲むのを見ていた子猫達が騒ぎ始める。
「はい、あなた達。この子はまだ起きたばかりだから、遊ぶのは後ね」
かなえが話していると、リリララ姉妹がやって来た。
「わぁー、鼻が長いんですねー」
「みみが、大きい!」
リリララ姉妹は象を初めて見たようだ。
「あっ、そうか! ごめんね。もう朝食の時間を過ぎたわね?」
「大丈夫ですよ。今日は土曜日なので教室は休みです」
「そう、良かった。でももうここは大丈夫そうだから行くわ」
かなえは動物達に後を頼むと、ジミーさんの家の庭へ、リリララ姉妹と一緒に歩いて行く。
「おはようございます。すみません。お待たせしました」
かなえは庭のテラスで待っていたジミーさんに声を掛ける。
「いや、良いんだよ。そんなに急がなくても大丈夫さ」
「あのねー、象がいたんだよー」と、ララちゃんは早速ジミーさんに、象の赤ちゃんの話しを始める。
リリちゃんに手伝ってもらい、朝食の準備が終わると、
「はぁーい、お待たせしましたー。食べましょう」と、声を掛けみんな揃って食べ始める。
今朝のメニューは、アップルパンケーキにプロの実ソーセージ。キャベツとニンジンのコールスローに、ハッシュドポテト。
野菜がゴロゴロ入ったミネストローネと、レモンを絞ったパパイヤを半分づつ。
飲み物はブルーベリージュースとミントティー。ジミーさんにはエスプレッソだ。
「あの、象の赤ちゃんは、親とはぐれたんですか?」と、リリちゃん。
「うん。でももう体調はほとんど良くなったみたい」
かなえは昨夜、象の赤ちゃんの世話を動物達に頼んだと話すと、
「ほー、そんなことが出来るのかい」と、ジミーさん。
「私も何か出来る事があれば、手伝わしてください」と、リリちゃん。
「ララもお手伝いできるよー」と、ララちゃん。
今日は、ジミーさんはもう少ししたら、スミス夫妻と一緒にミーティングに出発するそうだ。
だが、リリララ姉妹は特に予定が無いらしい。
「それなら、牧場の温泉に見学に来る?」と、かなえが誘うと、
「ララ、行きたーい!」
「はい、見に行きたいです」と、2人は牧場の温泉を見てみたい様だ。
「それじゃぁー、少ししたら出掛けるから準備をしておいてね」と、食事を終えると、かなえはもう一度象の赤ちゃんの様子を見に行く。
小屋の前まで移動して来ると、象の赤ちゃんはミルクを飲んでいる所だった。
その横で子猫達やクーちゃん、それにバニーちゃんが様子を見守っている。
わぁー、さっきあんなに沢山ミルクを飲んでいたのに、もうお腹が空いたのかな?
「クーちゃん、どんな感じ?」
『パオはミルクを飲み続けているよ。いったい何処に入って行くのかね?』
『パオすごいよー』
『パオ、ミルクのみすぎじゃない?』
『パオ、遊ぼうよー』
フフッ、名前はパオちゃんで決まりかな。
ホントだ……さっき大きな哺乳瓶に入ったミルクをあげたばかりなのに、小屋に設置したミルクももう、半分以上飲み干している。
「ねえ、パオちゃん。あなたそんなにミルク飲んで大丈夫?」
『うん、ぼくパオちゃん?』
「そう。みんながあなたをパオって呼んでるけどそれでいい?」
『うーん、イイよー!』
パオちゃんは再びミルクを飲み始める。
「シロン、パオちゃんはミルクを飲み続けているけど大丈夫?」
「はい、もう体力気力が戻り元気です。この象は見た目よりもミルクが必要なようですので、あと二つミルクタンクを準備しておきます」
そう言うと、今パオちゃんが飲んでいるミルクタンクの横に二つ、大きなミルクタンクが入ったスタンドが現れた。
『何だね? パオはまだミルクが必要なのかい?』と、驚くクーちゃん。
「ええ、そうみたい。パオちゃんはみかけよりもミルクが必要みたいなの」
『すごーい! パオ、ミルクいっぱい!』
『でも、おなかいたくならない?』
『早くあそぼ―よー』
子猫のマーブルとレオンはパオに夢中だが、タイガはもう飽きて来たのか遊びに行きたい様だ。
「あなた達、ずっとここに居ないで遊びに行って来れば?」
「バニーちゃんは、どうする? 温泉に行く?」
『あたし、今日はパオの様子を見てる』と、バニーちゃん。
『あたしも、たいしてやることも無いからねー』と、クーちゃん。
「そう、ありがとう。助かるわ。また後で様子を見に来るね」と、かなえは周辺にウオッシュを掛けながら、リリララ姉妹の家へ歩いて行く。




