122 温泉のスロープ
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「は? あーもう朝か―」
『カナ、カナ、パンちょうだい、おはよー』
「リトくん、もう起きたよー」
『カナ、カナ、まだ起きてないよー、おきなさーい』
「えーっ、もー、わかったよー」
リトくんには、かなえがベットにいる間は、寝ている事になるようだ。
居間まで歩いて行くと、ポーチからご褒美パンを取り出す。
「はい、リトくん、どれにする?」
『うーんとねー、ぼくきいろいパンがいい』
ああ、これね。
リトくんが選んだのはコーンが練り込まれたパンだ。
「はい、どーぞ」
パンをちぎって渡すと、リトくんは嬉しそうに食べ始める。
「おいしーな。あまいパン。きいろいパン」
リトくんは口に合ったようで、喜びのダンスを見せてくれる。
ピーちゃんの所へ戻って行くリトくんを見送ると、かなえも出掛ける準備をする。
「シロン、ジジさん達はどうしてる?」
「はい、流れる温泉の歩道で牛達と話しています」
ジジさん達は面倒見が良いから、いろいろアドバイスをしているのかな。
後で顔を出そう。
かなえは先にジミーさんの家の庭へ行き、食事の準備をする。
みんなの食事を並べ終わったところで、リリララ姉妹がやって来る。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
リリララ姉妹は朝から元気だ。
ジミーさんも家から出て来て、みんな揃ったので朝食を食べ始める。
今朝は、トマトとキュウリのオープンサンド。ひよこ豆のパテが乗っている。
付け合わせに、プロの実ソーセージ、赤ピーマンのソテー。
ブロッコリーのキッシュとグリーンサラダ。
フルーツのメロンに、飲み物はバナナパイナップルジュースと、クランベリーティー、ジミーさんにはカプチーノにした。
「ララねー、起きたらねー……」と、ララちゃんは起きてからここに食べに来るまでに、リリちゃんから何回注意されたかを話し始める。
「もー、ララが毎回同じ事ばかりするからでしょー」と、リリちゃん。
リリちゃんは、しっかりララちゃんの面倒を見ていて偉いなー……。
「私は今日は、アランさんの所へ出掛けて来るよ」とジミーさん。
「今、気が付いたんですけど、アランさんの所へ行くんでしたら、ジャンプミラーを使って南門の温泉からなら歩いても行けますね?」
「ああ、そうだった! 私はいつも動物ギルドから行っていたが、南門の温泉からなら確かに近いな」
これでジミーさんも、職人達の所へもっと楽に会いに行けるだろう。
早く気が付けばよかったな……。
食事を終えると、リリララ姉妹は教室に向かい、ジミーさんも出掛ける準備をしに家の中に入って行った。
かなえは子猫と、バニーちゃんの様子を見に行く。
子猫達は島に出られるようになってから、もう小屋の周辺では遊ばなくなってしまった。
シロンによると、ここから離れた砂浜で遊んでいる時が多いそうだ。
バニーちゃんは、黒猫のクーちゃんの隣でじっとしていた。
「バニーちゃん、クーちゃん、おはよう。調子はどうかな?」
『あたしは元気さ。このウサギは退屈しているみたいだけどね』と、クーちゃん。
『だって―……」と、バニーちゃんはどうしていいかわからないらしい。
「バニーちゃん、別に子猫達がいなくても外に遊びに行けばいいじゃない? 色々おいしい物も見つけられるかもよ?」
『うーん、そうだけど……』
『この子は若いのに、全く好奇心が無いようだよ』と、クーちゃん。
そんなことは無いだろうけど、ここでじっとしているだけでは、つまらないだろう。
「どこか行きたいところがあれば、連れてってあげるよ。ドームシティーの温泉にでも行ってみる?」
『えー、ドームシティーの温泉?』
「そうよ。ドームシティーには動物用の温泉があるのよ。小型、中型の動物用の温泉もあるから、行きたかったら連れて行ってあげるけど?」
『でも途中でお腹が空いたら?』
「一度、外に出れば牧草も生えているし、トイレもあるのよ」
『ふーん、それなら行ってみようかな』と、バニーちゃんは行く気になったようだ。
『クーちゃんも行こ―』と、バニーちゃんがクーちゃんを誘う。
『何を言ってるんだい。ここに温泉も美味しい食べ物もあるのに、外なんか行きたくはないね。あんただけで行って来な』と、クーちゃん。
『うーん……』
「バニーちゃん、行ってみなよ。途中で様子を見に行くから、嫌ならここに戻ってくればいでしょ?」
『うん、わかった。行ってみる』
バニーちゃんはやっと行く気になってので、かなえはバニーちゃんの気が変わらない内に、西門の温泉へジャンプで連れて行く。
「バニーちゃん、ここが入口だからね。お友達が出来るといいね」
『うん』
バニーちゃんは温泉の入口の、トンネルシャワーの中に入って行った。
大丈夫かな、バニーちゃん……。
まぁ、何とかなるだろう。
かなえは牧場の牛舎へジャンプして行く。
牛舎と牧場にウオッシュを掛けて、自分にもウオッシュを掛けジジさん達の所へ移動して行く。
ジジさん達はまだ温泉に近い、流れる温泉の歩道にいた。
『ジジさん、ババさん、おはようございます』
『あらー、カナカナ、おはよう』
『ああ、おはよう』
何だか、ジジさんもババさんも生き生きしてるなぁー。
「何か、問題はないですか?」
『いや、大丈夫だ。まだ泳ぐ事を不安がっている牛がたまにいるから、コツを教えてやっていたんだ』
「そうですか、それは助かります。何処か変更して欲しい所とかはありませんか?」
『うーん、今のところは無さそうだな』
『思ったんだけど……ここと、上の温泉をつなげる事は出来ないかしら? 一度外に出て、またトンネルシャワーから入るより、直接行き来出来たら楽じゃない?』
なるほど……かなえには思いつかなかった。
「そうですね、ちょっと考えてみます」
「シロン、温泉と流れる温泉はつなげられるの?」
「はい、出来ます。上にある温泉を広げて、この流れる温泉の歩道から登って行くスロープを付けてください」
「でも結構急な坂になりそうだけど?」
「直線ではそうなりますから、緩やかなカーブを付けて牛達が登り易い傾斜にしてください」
そうか……それなら出来そうね。
「ジジさん、ババさん、出来そうなので今から道を造ってみます」
『まぁー、ありがとう』
『ああ、よろしく頼むよ』
ジジさん達はまた、外からトンネルシャワーで入って来た牛に泳ぎ方のコツを教え始めた。
かなえは地図を取り出し考える。
うーん、どこからつなげた方がいいかな?
流れる温泉のトンネルシャワーの側だと混み合う恐れがあるので、スロープの入口は少し離れたところに造る事にする。
かなえは一旦、上の温泉の中に入り、近くに居た牛達に話しかける。
「今からここと下の流れる温泉をつなげるので、少し動きますけど驚かないでくださいねー」
『へー、また何かやるのかい? おもしろそうだな―』
「いえ、ちょっと広げるだけなんです」
側に居た牛達が興味を示して見ているので、集まって来る前にとかなえは作業を始める。
まず、地図を表示させて周辺の木を片付け、温泉の休憩場を広げていく。
そこから立体映像に切り替え、スロープを選択し流れる温泉の歩道までつなげる。
傾斜はこれで良いとして……もう少し広くした方が良いな。
かなえはスロープの幅を4メートルにして、牛達が余裕ですれ違えるようにする。
素材は温泉に使用したチューブに変更して、流れる温泉との一体感を出させる。
スロープが暗くならない様に灯りを点け、空気清浄機能と、自動浄化作用も付ける。
フロアには滑り止め加工を施した。
実際試して見ないと分からないので、かなえは流れる温泉の歩道から、スロープを登って温泉まで歩いてみる。
坂は緩やかだし歩きやすい。
途中から外の光も入って来て、気分が良い空間が広がっている。
かなえが再び上の温泉まで上がって行くと、牛達が少しづつ集まって来ていた。
『何だい、この道は何処まで行くんだい?』
『ねぇーこれはなーに?』と、質問して来る。
かなえは牛達に向かって、
「この道は下の流れる温泉につなげました。これで温泉との行き来が楽になると思います」
『ふーん、そうかい? じゃあー、行ってみるか』
『そうね、行きましょー』と、牛達がスロープを流れる温泉に向かって降りて行く。
あーあー、初めはジジさん達に歩いてもらおうと思ったんだけど……。
確認はしたから、大丈夫だと思うけどどうかな。
かなえはジャンプで、流れる温泉の歩道まで移動し、降りて来る牛達を待ち構える。
『おお、面白い。ここに出たぞ―』
『地下に川が出来たり、道が出来たり不思議だわー』
少し離れたトンネルシャワーの前の歩道で、牛と話していたジジさん達が、スロープで降りて来た牛達に気が付き近寄って来る。
『おおー、もう上とつながったのかい? こんなに押し寄せてお前たちも野次馬だなぁ―』と、ジジさん。
『おもしろいぞ、泳いでから直ぐに上の温泉に行けるな』
『そうね、便利ねー』
牛達には好評の様だ。
「ジジさん、すみません。本当は先に試してもらいたかったんですが……」
『いや、いいんだ。どうせみんなが押し寄せたんだろう。どれ、わし達も上に行ってみよう』
『そうね、どんな感じになったのかしら』
ジジさん達は歩道からスロープを歩いて上の温泉へ向かって行く。
かなえはもう一度ジャンプで移動し、上でジジさん達が来るのを待つ事にする。
先にやって来たのはジジさん。ババさんもすぐ後ろから来た。
『はぁー、着いたぞ』
『フーッ、そうね』
「どうでしたか? スロープを上るのはきつかったですか?」
『いや、なんのこれしき』
『そうよ、問題無いわ』
「もしきつければ、スロープの間に休憩出来る広場を、造る事も出来ますが」
『いや、この位の坂を上ってもらわなければな』
『そうよ。ここを上れない牛は運動不足って事ね』
まぁー、ジジさん達がこのままで良いならいいか……。
「では、また様子を見に来ますね」
かなえは温泉の外に移動して来ると、木をもう一度植え治す。
途中から丸見えだったチューブ型のスロープが、木で囲う事できれいに隠す事が出来た。
これで、パッと見は普通の林にしか見えない。
取りあえずこんな感じかな。
「シロン、バニーちゃんはどうしてる?」
「温泉で、動物達と話しているようです」
へー、そうなんだ。早速友達が出来たかな?
「シロン、今何時?」
「もうすぐお昼です」
そうか……どうしようかな。今日はジミーさんも出掛けていないし、オアシスカフェは行ったばかりだしな。
「シロン、何処か面白そうなレストランはない?」
「そうですね、それでは最近人気が出て来た『農園レストラン』はどうですか? 農業ドームにあり、新鮮な野菜を食べさせてくれると評判です。
「えーっ! 農園レストラン? 行ってみたい!」
かなえは今日のランチは農園レストランに決めた。




