119 牧場の改装
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「……」
『カナ、カナ、パンちょーだい、おはよー!』
「うーん、リトくん……今日も早いねー」
『うん、ぼく、早いよー。おきなさーい』
「もー、その起きなさいはやだなぁー」
今朝もリトくんに起こされたかなえは、渋々居間へ歩いて行く。
「はい、どれにする?」
かなえはご褒美パンをリトくんに見せると、
「うーん、ぼくねー赤い実パンがいい!」と、リトくんが選んだのはクランベリー入りのパンだ。
「はい、これね」
かなえは、だんだん中心の穴が大きくなって来たパンを、ちぎって渡す。
『あまいなー、すっぱいなー』
リトくんは、嬉しそうに羽をパタパタさせる。
リトくんを見送り、かなえも出掛ける準備をして牧場に行こうとしたが……。
「シロン、ジジさん達はどうしてる?」
「今は、牧場の温泉の前にいます」
今日もアニマルドームには来れないのかな……。
ジジさん達の所は後で行こう。
かなえは砂浜にジャンプして来る。
「シロン、子猫達はどうしてる?」
「マリーが砂浜に出て行く子猫達を追いかけています」
「あー、そうだ。マリーに話さないと」
かなえはジャンプで子猫達のいる砂浜へ移動する。
目の前では子猫達が砂浜でじゃれ合っている。
「マリー! ごめんね。子猫達の事説明してなかったね」
『あー、かなえ! そうよ。朝起きたらこの子達が首に何か付けているし、柵が開いていて外に走って行くから驚いたわー!」
「他の猫が出て行くのを見て、子猫達が外に出たそうにしてたから……」
『そうだったの。それでこの首輪は何なの?』
かなえはマリーに、首輪を付けておくと島の中だけで遊べて安全だと説明する。
『ふーん?』
マリーはちょっと面白くなさそうだ。
「島の中だけならいいでしょ? それより先はマリーが居る時に連れて行ってくれる? その時は首輪を外すから」
『ええ、そうするわ』
子猫達は、どんどん砂浜を走って行く。
『フフッ、もーあの子達ったら、あんなに楽しそうに……』
マリーは目を細めて子猫達を見守って居る。
「私も子猫達の様子をたまに見に来るから、マリーはリキさんがいる間は一緒に行っていいよ?」
『うーん、そうね……わかった、じゃー行くわ』
マリーは待ち合わせでもしているのか、リキさんの小屋の方へ走って行った。
「あっ、急がないと!」
かなえはジミーさんの庭にジャンプして来ると、もう3人がテラスの椅子に坐ってかなえが来るのを待っていた。
「ごめんなさい。遅くなりましたー!」
「いや、そんなに遅くはないよ」
「はい、大丈夫ですよー」
かなえはテーブルにウオッシュを掛けて、急いで食事を並べながら、子猫達とマリーとのやり取りを話す。
「そうですかー。あの子達はどんどん成長してるんですねー」と、リリちゃん。
「ララねー、もう子猫捕まえられないよー」と、ララちゃんは言うが、あのすばしっこさでは、大人でも捕まえるのは大変そうだ。
「はい、では食べましょう!」と、今朝もみんな揃っての食事だ。
かなえが用意したのは、トマトやチーズが入ったホットサンドにオクラやプロの実、その他野菜たっぷりのガンボスープ。コーンマフィンとグラノラヨーグルト。
ドリンクはキウイジュースとソイラテ、ジミーさんにはコーヒーだ。
リリちゃんは、かなえが遅れたせいか、いつもより急いで食べているように見える。
「リリちゃん、今日は私がジャンプでオクタゴンまで送って行くから、急がないくていいよ」
「はい、もうすぐ出ればぎりぎり間に合います」
「わかるけど、今日は私に送らせて? そうしたらもう少しゆっくり食べられるでしょ? ララちゃんも急がせるのはかわいそうだし」
「ララねー、急いだら咳が出るんだよー」
「はい、わかりました。それではお願いします」
リリララ姉妹は教室へは、いつもジャンプミラーで動物ギルドまで移動し、そこから徒歩で通っているそうだ。馬車を利用せずに歩くのは節約の為だそう。
「リリちゃんは、まだ子供なのにしっかりしているなぁー」と、ジミーさん。
「ララもしっかりしてるよー」と、口をモグモグさせながら話すララちゃん。
みんな食べ終わったので、後片付けをしてオクタゴンへ向かう。
スクール棟の人通りの少ない上の階にジャンプして、教室に向かうリリララ姉妹を見送ると、せっかくなのでギルド室長に会いに行く事にする。
かなえは商業棟のギルド科の3階にジャンプして、ギルド室長室の前まで歩いて来ると、扉を開けて中に入って行く。
受付の人に「すみません、室長にお会いしたいんですけれど、動物ギルドのかなえです」と声を掛けると、
「あっ、はーい、お持ちくださいね」
受付の人が奥の室長室に入って行く。
「はい、どうぞ。お入りください」
かなえは案内されて、中に入ると室長が積み重なった書類の前で、忙しそうに仕事をしていた。
「おはようございます。お忙しいようでしたらまた出直しますが?」
「いやいや、丁度休憩しようと思っていたところなんだ。どうぞ入って」
かなえは室長の机の前に椅子に腰をかける。
今日も大分疲れていそうだなぁー。
室長の仕事は大変だ。
「シロンお願い」
「はい、どうぞ」
シロンが用意してくれたのは、半透明の飴が一つ。
注意書きには「肉体疲労、疲れ目、睡眠不足緩和飴。シニア用」と、表示されている。
「おお、飴かー。ありがとう」
室長は何度かかなえがあげた飴を覚えていたようで、すぐに口の中に入れて舐め始める。
「……はぁーこの飴は不思議だねー。頭も体もスッキリして、今日1日がんばれそうだよ」
「でも室長、働き過ぎじゃぁありませんか? もう少し仕事を減らした方が良いと思うんですけど」
「ああ、それで私の後釜を今スカウトしている所なんだ。でも中々首を縦に振らなくてね」
「そうでしたか。後釜の人が決まったら室長は時間に余裕が出来るんですか?」
「うーん、だといいがな……それより最近はどうしてるんだい?」
かなえは簡単に近況報告をする。
ミルクドームのメラニーさんのパイが、森のドームの品評会で2等賞になった事とか、職人達とやろうとしている計画とか。
それからリトくんが、いつもお世話になっているのでお礼も言う。
「そうかい、色々がんばっているね。かなえさんの鳥のおかげでピーちゃんも元気になって、毎日楽しそうだよ」
話は尽きないが、朝から長話は悪いので帰ろうと考えていると、
「そういえば、もうすぐギルドの定例会議があるから、かなえさんも参加するだろう?」
「そうですか、わかりました……それでは今日は帰ります」
かなえは最後に、疲れには温泉が良いと室長に勧め、お暇する。
廊下をしばらく歩いて、ジャンプで牧場へ移動して行く。
いつもの様に牛舎の中をウオッシュし、その後、牧場をスクーターに乗ってきれいにして行く。
最近は牛達が温泉に集まって来ているからか、牧草地には牛の数が少ない。
温泉の上空までスクーターで来ると、今日も沢山の牛が湯船の中でじっとしていたり、休憩場でゴロゴロしているのが見える。
やっぱり、運動不足になりそうだな。
「シロン、牛達が運動不足にならない方法はある?」
「そうですねー。シャワードームは場所を取り過ぎますからね。例えば流れるプールを作ってお湯に体に良い効能を付けて、牛達を歩かせたらどうでしょう?」
「うーん、でもみんな歩くかしら?」
「水の流れで体が楽に前に進むようにすれば、歩き易いと思います」
なるほど……試して見てもいいかな。
「シロン、何処から始めればいいの?」
「そうですね、まず何処に流れるプールを設置するかを決め、次はプールの幅と高さを決めて下さい」
うーん、場所は出来れば温泉の周りとかの方が、邪魔じゃないかな……。
「例えば、牛が入れるような大きなチューブを牧場の地面に埋め込むのはいかがですか?」
地面に埋め込むのか……それなら邪魔にならないかな。
「シロン、それならそのチューブの流れるプールの設置方法を教えて?」
「はい、先程と同じです。場所と大きさを決めればすぐに設置出来ます」
そうか……それなら。
まず最初に地図を表示させて、
場所はこの農場の柵の内側をぐるりと、メラニーさん達の家や牛舎の手前までで一周させよう。
これだけ長ければ、この農場の全ての牛達が入っても十分余裕がありそうだ。
大きさは牛が3頭が並んで通れるくらいとして……幅が4メートル高さが2メートルぐらいでいいだろう。
上はカーブさせて、かまぼこみたいな感じだな……。
かなえはプールのフォルダからチューブを選択し、かまぼこ型に成形する。
そして、そのチューブを地図上で柵の内側にずっと伸ばして置いて行く。
1周すると、端と端をつなげる。
「シロン、次はどうしたら良い?」
「はい、次は地面に埋め込んで行きますが、平行になるように気を付けて下さい」
「うーんわかった」
かなえは地図上でチューブを地面に埋め込んでいく。
「シロン、全部地面に埋めた方が良いの?」
「平地の所はチューブの上の部分が見えれば外からの光が入り、中を覗くことも出来ます」
なるほど……。
かなえは、シロンに言われた通り、平行を保ちながらチューブを埋め、何ヶ所か地上から中の様子を見られるようにする。
「これでいいかな?」
「はい、大丈夫です。そうしたら出入り口のトンネルシャワーと、温風トンネルを、数か所設置してください」
「うん、わかった」
かなえは牛舎の側と温泉の側、その他3か所の計5か所、トンネルシャワーと温風シャワーを設置して、チューブにつなげる。
「これでいい?」
「はい、次は浄化装置と空気清浄装置、それに照明を付けて下さい」
かなえは浄化装置と、空気清浄装置はそれぞれのトンネルシャワーの所へ設置し、チューブ自体を光らせ、日中は外の明るさと同じくらいにし、夜は少し照明を落とすように設定する。
「出来たよー!」
「はい、次はお湯を入れて温度設定をしてください」
「うん、わかった」
かなえはお湯を選択しチューブの中へ移動させ、まずは1メートルの高さまで入れる。
お湯の温度は温泉より少し低めの36℃にした。
「後は水流を起こすのね?」
「はい、牛達でしたら、水流3にして見て下さい」
かなえはプールのフォルダの水流3を選択する。
「もしかしてこれで、出来上がり?」
「はい、ほとんど出来上がりましたが、地図を立体映像に変えてズームインして見て下さい」
かなえは言われたとおり、地図の表示を変えると……、
「ああー、そうか、わかった」
牧場の地面に無理やり大きなチューブを埋め込んだので、地面が盛り上がっている場所や木が傾いている所があった。
かなえはその立体地図を見ながら、地面や木を元の姿に戻して行く。
「よし、出来たー! シロン、これで良いでしょ?」
「はい、大丈夫です」
「じゃー、早速ジジさんに知らせて来よう!」
「かなえ、待ってください、もうすぐお昼になりますが、アニマルドームの掃除が終わっていません」
あっ! そうだった……。
「うん。試すのは掃除とお昼が終わってからにするわ」
かなえはチューブの出入り口にシールドを掛け、アニマルドームへ戻って行く。




