114 温泉見学
『カナ、カナ、アサですよー、パンですよー』
「うーん、リトくん……」
『カナ、カナ、パンちょーだい、おはよー』
「もー、リトくん、起きてるよー。今日も元気ねー」
『カナ、カナ、ぼく、げんきだよ。おきなさい』
「もー、おきなさいって……」
リトくんはかなえが起き上がるまでは、納得しないようだ。
渋々ベットから起き上がり居間まで歩いて行くと、リトくんもすぐ後ろから飛んで来て椅子の背にとまる。
「はい、リトくんどれにする?」
かなえはご褒美パンを取り出すと、リトくんに選んでもらう。
『ぼく、あかしろパンがイイ』と、リトくんが選んだのはクランベリーの実と、マカデミアナッツの入ったパンだ。
『パン、パン、パン、おいしいパン』と、リトくんはパンを食べている時は上機嫌だ。
「リトくんまたねー」
かなえは窓の隙間から飛んで行くリトくんを見送ると、自分も出掛ける支度をして、牧場にジャンプして行く。
あら? ジジさん達がいない。
今まで毎日欠かさず、この丘の上でかなえが来るのを待っていたのに……。
「シロン、ジジさん達はどうしてるの?」
「今は温泉の前で、牛達に話しをしているようです」
そうか……ジジさん達は牧場の温泉かー。
かなえは様子を見に行こうと思ったが、リリララ姉妹達が教室に行くのが遅れるので、先に朝食を済ますことにする。
庭にジャンプして行くと、ジミーさんがテラスの椅子に坐って待っていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
朝食の準備をしているとリリララ姉妹も自分の家からやって来る。
「おはようございます」
「おはよう!」
みんな揃ったので、食べ始める。
朝食はほうれん草とマッシュルームのソテー、プロの実ボールのオレンジソース。パンプキンスープに焼きたてクロワッサン。それにフルーツグラノラヨーグルト。
飲物はグアバジュースにココア。ジミーさんにはカフェラテにした。
今日のみんなの予定を聞くと、ジミーさんは仕事場で色々試作品を作り、リリララ姉妹はいつものように、午前中は教室で午後からはドームシティーの温泉に行くそうだ。
かなえは今の所、いつもと同じで動物達の世話や掃除をする予定だと伝える。
そうだ、牧場の温泉をメラニーさん達にも見てもらわなきゃな……。
食事が終わるとかなえはリリララ姉妹を見送り、子猫達の様子を見に行く。
『ワァー』『キャッ、キャッ』『いくぞー』と、子猫達とバニーちゃんはシャワードームの中で思いっきり飛んだり跳ねたりしている。
フフッ、みんな元気だなー……。
バニーちゃんは子猫達と楽しそうに遊んでいる。
楽しすぎて、バニーちゃん、家に帰るのを嫌がらないといいけど……。
ここに来るまではダンさんの所で、餌はタップリもらえたみたいだけど楽しかったのかな?
かなえはドーム周辺にウオッシュを掛けると、猫達の様子を見に行く。
猫達の温泉では湯船に浸かったり、休憩場でくつろいでいる猫達。
外のキャットタワーの台の上も猫達には人気の様だ。
みんな、調子が良さそうなので、軽くウオッシュを掛けて牧場に向かう。
まずは牛舎の掃除を済ませよう。
かなえは、中に入って行くと、ミルクタンクのある部屋から、一番奥の餌や水の置いてある部屋まで順番にウオッシュを掛けて行く。
牛舎が終わると、スクーターを取り出し牧場にウオッシュを掛けて行く。
すると温泉の周りには、ジジさんババさん達の周りに牛達が集まって来ているのが見えた。
あらー、すごい勢いだなぁー。
かなえはスクーターで下まで降りて行き、ジジさんババさんの横に着ける。
「ジジさん、ババさん、どうしたんですか?」
『まー、カナカナ大変なのよ。みんなが温泉に押し寄せて来たから、順番に並べって行ってるのにー』
『おい、お前たち。入口は小さいんだから順番に入らなきゃだめだ!』
へー……もしかして凄い人気って事かな?
かなえは思いがけない光景にボーっとしていると、
『ちょっと、カナカナ何かこの牛達を並ばせるいい方法は無いの?』
うーん、そうだなー。
「シロン、何かいい方法は無い?」
「はい、グミの用意が出来ましたのでどうぞ」
かなえはポーチを開けてみると、袋にびっしりと小さなグミが入っていて注意書きには『精神安定効果のあるグミ塩味、闘争心のある牛用』と表示されている。
なるほど……今の状態に丁度いいわね。
かなえは、袋からグミを取り出すと、牛の口に次々と入れて行く。
「はーい、温泉に入る前においしいグミをあげますよー」
そう言うと、牛達は喜んで口を開けて行く。
どうやら、ここの牛達にはかなえの飴やグミが美味しいと評判のようだ。
『わー、これが噂のグミかー。この塩味がたまらないな』
『そうねー。いい味だわー』
温泉の入口に集まっていた牛達は、グミの効果か落ち着きを取り戻し、ジジさん達の言う通りに順番に並び始めた。
「みなさーん、安心してください。温泉は広いですからここに居る牛さん全員が入れますよー」
『そうかい、慌てる必要は無かったな……』
『そうね、急いで来なくても良かったわね』
「そうですー。まず入口のトンネルシャワーから入って下さいねー。お湯が出て来て気持ちが良いですよー」
かなえは入口に立ち、ジジさんババさんと一緒に牛達が順番に入って行くのを見守る。
何とかみんな無事に温泉に入れたみたいね……。
木の間から温泉の中の様子を覗くと、牛達は気持ち良さそうに湯船に入っている。
シロンの出してくれたグミの効果か、興奮した牛は何処にも見当たらない。
ジジさんババさんは、ほっとしたようだ。
『カナカナ、ありがとう。一時はどうなるかと思ったけど、みんな無事に温泉に入ったわね』
『まったく、牛は興奮すると聞く耳を持たんから困ったもんだ』
「でもどうして急にこんなに集まって来たんですか?」
『どうやら昨日温泉に入った牛が、他の牛達に話したらしい』
やっぱり、そうか……。
「もう牛さん達は落ち着いたみたいですね。ジジさん達はこれからどうしますか? シャワードームに行くならお連れしますけど?」
『そうしたいところだが、さすがに今日はここの温泉で仲間の様子を見守ることにするよ』
「そうですか、わかりました。また明日様子を見に来ますね」
かなえは後でまたスミス夫妻を連れて温泉を見に来るかもと伝えると、温泉の中に入って行くジジさん達を見送る。
かなえはスミス夫妻の玄関の前にジャンプで移動して扉を鳴らす。
「カンカン」
「はぁーい」
元気なメラニーさんの声が聞こえて扉が開いた。
「かなえ、丁度良かったわ。今ケーキの試作が出来上がったから、食べて行ってくれる?」
「えっ、はい。お邪魔します」
かなえは温泉を見てもらいに来たつもりだが、焼き立てのケーキの魅力に誘われお邪魔する事にした。
「わぁー、良い香りですね」
キッチンの方から香ばくて甘酸っぱい香りが漂って来る。
「うーん、でも今日のは気に入ってもらえるかしら?」
メラニーさんは奥からお皿に乗せた白いケーキとハーブティーを運んで来る。
「はい、どうぞ」
メラニーさんはかなえがケーキを食べるのを見守っている。
あっ、このケーキはもしかして……、
口の中に入れるとチーズの甘酸っぱい味が広がる。
「これはチーズケーキですね。おいしいです」
さすが、メラニーさん。チーズケーキも抜群に美味しいな……。
「そう? 良かった! 温泉で売るケーキの試作をしていたのよ。せっかくミルクドームにいるんだから、乳製品を使ったお菓子を作った方が良いと思ったの」
メラニーさんは森のドームでも、ララちゃんやジョンソンさん一家と一緒にパイを作り、みんなからアドバイスをもらったそうだ。
もうメラニーさんは、いつからでも温泉の売店でお菓子やケーキを販売する事が出来るそうだ。
その後もこれからどのように売店で商品を売るかと言う話になる。
丁度良いので、かなえは職人達の計画をメラニーさんに話す。
「……ですから、メラニーさんのお店の名前のシールや袋を作って、商品を包む袋に付けたり、カタログを作ったりすれば良い宣伝になると思うんです」
「まぁー、凄いわ。それなら早速お店の名前を考えなきゃ……」
フフッ、メラニーさんも乗り気になって来たな。
お店の名前かー。
「例えばですね『ミルクドームのお菓子屋さん』とか、『メラニーおばさんのパイ』なんかはどうでしょう?」
「えっ? 私の名前を店の名前にするのー?」
あら? この世界では珍しいのかな
「はい、お店の名前とメラニーさんの似顔絵をお店のマークにしたらお客さんにも親しみを持たれると思うんです」
「フフッ、何だか恥ずかしいけど……良いわね」
「はい、ジョンさんにも相談してゆっくり考えてみて下さい」
「それで、今日伺ったのは……」と、ケーキの話が一段落したので、メラニーさん達を訪ねた理由を話すと、
「アラーッ! もう出来上がったの?」と、驚くメラニーさん。
メラニーさんはかなえがどのように温泉を造るかは知らないから、何日もかかると思っていたようだ。
「ちょっと待っててね。ジョンも呼んで来るから」
メラニーさんは奥に入って行き暫らくすると、ジョンさんと一緒に戻って来た。
「やぁー、かなえさん。もう温泉が出来たんだって?」と、仕事部屋にいたらしいジョンさん。
「はい、昨日完成して今日から本格的に牛達に入ってもらっています」
「ふーん、そうかい。いったいどうやったらそんなに早く出来上がるのか知りたいところだが……まぁー、かなえさんだからねー」
「そうよ、かなえのやる事に今更驚いていても仕方が無いわ」と、メラニーさん。
二人共、すぐに出られるそうなので、一緒に外に出て行く。
カーペット「小」と取り出し、かなえの後ろに椅子を2つ設置する。
「はい。では、後ろに乗って下さいね」
二人はもうカーペットに乗る事に抵抗が無い様で、すんなりと席に着いた。
「それでは出発します」
かなえは念の為シールドとインビジブルを掛け、カーペットを透過させるとカーぺットを上昇させて行く。
「こんな見慣れた私達の牧場なのに、上から見ると雰囲気が違うわねー」
「ああ、そうだな。良い牧場だ」
二人は上からの眺めを楽しんでいるようなので、かなえはカーペットの速度を落として温泉に向かって行く。
「あの林の中に温泉があります」
「えっ? そうなの?」
外からでは木に囲まれているのでわかりにくいが、真上まで移動して来ると、温泉の中の様子が見えて来た。
「ほーっ、これが温泉かー。ハハッ、牛達があんなに気持ち良さそうにお湯に浸かるとはなー!」
「そうねー、あっちのグレーの牛なんて伸びきって寝ているわよー」
「あれは何だね? 泡が出ているようだが……」
カーペットの高度を下げて行くと、温泉の中の様子が良くわかるので、スミス夫妻は夢中の様だ。
ざっと見て50頭余りの牛達が温泉に入っている。
かなえはカーペットを温泉の様子を見渡せるところで停止させる。
そして、入口のトンネルシャワーや色々な効能のあるお風呂。温度調節や浄化作用の事や、出口の温風トンネルで体を乾かすことが出来る事をスミス夫妻に説明する。
「すごいわー、だから牛達も気持ち良さそうにしているのねー」
「こんなに、大規模な温泉なのに世話をする必要が無いのかい?」
「はい、浄化作用でお湯もその周辺も清潔さは保てます。ただ大型の牛達で力も強いですから、劣化はして行くので私が見回りには来るつもりです」
「もー、なんだか夢の世界を見ているようだわー」
「この温泉のおかげで牛達は清潔で、健康でいられるわけだな」
「はい、今までより病気になる牛は減ると思います」
「ねぇ、私達もドームシティーの温泉に行ってみましょうよ」
「そうだな、売店の様子を見に行くついでに行ってみるか?」
「それでしたら、リリちゃんとララちゃんが、午後から西門の温泉にいますから顔を出して見て下さい」
「そうね! そうしましょう」
メラニーさんはおそらく温泉の美容効果に興味を持ったのだろう。
温泉の見学が終わったので、かなえはメラニーさん達を家まで送って行く。
「かなえ、私達アニマルドームへの引っ越しは少しづつする事にしたの。せっかくあんな素敵なお家を用意してもらったのに、ごめんなさいね」と、メラニーさん。
「いいえ、もうあの家はお二人の物ですから、どうするかは自由にしてください。お手伝い出来る事があればいつでも声を掛けて下さいね」
「ありがとう、かなえさん。あなたと知り合ってから色々な事が起こって、私達は楽しいよ。だが年を取るとなかなか変化に追い付けなくてねー」
「はい、急ぐ必要はありません。でもそろそろまたみんなで食事をしましょう」
「そうね、それなら今晩はどう? 私はキッシュとケーキを持って行くわ」
「わぁー、みんな喜ぶと思います。では私もそれ以外のメニューを用意しておきます。また島のスミス夫妻の家の庭でいいですか?」」
「えー、もちろんよ。ねぇーあなた」
「ああ、賑やかでいいな」
かなえは話が終わると、島の砂浜へ移動して行く。




