「敵国へ嫁げ」と命じられましたが、花婿の国王陛下がこちらへ亡命してきました ~わたくしの嫁ぎ先が消えましたので、代わりにこの方を貰い受けます~
最新エピソード掲載日:2026/08/18
わたくしの嫁ぎ先が、橋の上で消えました。
ヴェルゼ王国第三王女エルミナ。十九年、三の姫と呼ばれて育ちました。和平のため敵国カルディアへ嫁げと命じられ、持参金の荷馬車八台を連ねて、国境の橋へまいりました。
橋は一車線、長さ四十歩。そこへ東から一台、西から一台が、同時に乗り上げたのです。
窓を開けたら、声が重なりました。
「「なぜ、こちらへ?」」
向かいに乗っていたのは、わたくしの花婿でした。ただし、その手には譲位の証書が一通。弟君の受領印つきで。つまり今日からは、ただの亡命者でございます。
その方が国から持ち出したものは、証書が一通、出さずじまいの手紙が一通、羽根ペンが一本。そして荷車に、櫃が四つ。
婚礼の支度に紛れて、目録より四つ多く届いた櫃。中身は黒の布と、黒の紗と、蝋燭。花嫁より先に、花嫁の喪服が届いていたのです。
寸法書きには、肩幅と、丈と、袖と――そして、箱の内寸が書かれておりました。
実家からの手紙は、父も、姉も、叔父も、そろって同じ言葉で結ばれております。「一年、耐えればよい」
嫁ぎ先が消えたのなら、仕方がございません。
「……では、代わりに、この方を貰い受けます」
追ってくるのは、敵国の兵ではありません。旗を持たない六騎を寄越したのは、十九年わたくしを育てた家の――わたくしの国の、宰相府でございました。
関守が申します。「まあ、橋も、この小屋も、繋ぎ場も、どっちの国でもないのよ」
どこの国でもない橋の上で、行き先を失くした花嫁と、国を失くした花婿の、勘定合わせが始まります。
行き着く先は、王宮の銀の間。満座の廷臣を前に、わたくしは自分の棺の寸法を並べてご覧に入れます。
ヴェルゼ王国第三王女エルミナ。十九年、三の姫と呼ばれて育ちました。和平のため敵国カルディアへ嫁げと命じられ、持参金の荷馬車八台を連ねて、国境の橋へまいりました。
橋は一車線、長さ四十歩。そこへ東から一台、西から一台が、同時に乗り上げたのです。
窓を開けたら、声が重なりました。
「「なぜ、こちらへ?」」
向かいに乗っていたのは、わたくしの花婿でした。ただし、その手には譲位の証書が一通。弟君の受領印つきで。つまり今日からは、ただの亡命者でございます。
その方が国から持ち出したものは、証書が一通、出さずじまいの手紙が一通、羽根ペンが一本。そして荷車に、櫃が四つ。
婚礼の支度に紛れて、目録より四つ多く届いた櫃。中身は黒の布と、黒の紗と、蝋燭。花嫁より先に、花嫁の喪服が届いていたのです。
寸法書きには、肩幅と、丈と、袖と――そして、箱の内寸が書かれておりました。
実家からの手紙は、父も、姉も、叔父も、そろって同じ言葉で結ばれております。「一年、耐えればよい」
嫁ぎ先が消えたのなら、仕方がございません。
「……では、代わりに、この方を貰い受けます」
追ってくるのは、敵国の兵ではありません。旗を持たない六騎を寄越したのは、十九年わたくしを育てた家の――わたくしの国の、宰相府でございました。
関守が申します。「まあ、橋も、この小屋も、繋ぎ場も、どっちの国でもないのよ」
どこの国でもない橋の上で、行き先を失くした花嫁と、国を失くした花婿の、勘定合わせが始まります。
行き着く先は、王宮の銀の間。満座の廷臣を前に、わたくしは自分の棺の寸法を並べてご覧に入れます。