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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第87話 不可視の斬撃




「(なるほど、手こずる訳だ)」



 アロンは、色彩のすべてを沼のように貪り食う絶対の暗闇を裂く、絶え間ない斬撃と狂乱の真ん中で、そう平然と声を漏らした。



 四方八方から容赦なく押し寄せる爪や牙の暴威、おぞましい咆哮の嵐。


 その凄惨な戦場に身を置きながらも、彼の声音には焦りも緊張も、一微塵として存在していなかった。



 強者ゆえの圧倒的な不遜さと余裕が、その佇まいの全面から静かに、そして圧倒的な重圧となって満ち溢れていた。




 ミカの手によって、『魔物呼び寄せ君』のスプレータイプの霧を頭上から無慈悲に浴びせられたことで、この光を拒絶する『無明の層』の深淵に巣食うあらゆる階層の獰猛な魔物が、理性を完全に破壊された狂乱のままに彼に向けて津波のように殺到している。




 スプレーの放つ不気味な死の芳香と、アロンの肉体を感知した獣たちは、暗闇の奥底でその紅い眼を一斉に明滅させ、地鳴りのような足音を立てて一点へと収束していく。


 一振りの刃さえその手に持たぬ男を肉塊へと変えるため、迷宮のすべての悪意が、大穴の底の空間へと一気に集まっていく。


 四方を完全に埋め尽くす怪物の顔ぶれは、この迷宮に挑む地上の者たちにとっては、まさに息の根を止められるような絶対の絶望のカタログそのものだった。




 本来であれば、ダンジョン固有の厳しい生態環境やそれぞれの縄張りによって、階層ごとに明確に棲み分けているはずの怪物たち。



 それが、薬物の暴力的な効果によって強制的に本能を剥き出しにされ、ただ目の前のたった一人の男を食い殺し、その肉を貪り尽くすためだけに、全ての境界線を力任せに踏み越えて一斉に牙を剥いて押し寄せているのだ。


 上層にいるはずの俊敏な獣も、中層を支配する頑強な甲殻を持つ怪異も、すべてが入り乱れて狂暴な一塊の波となり、アロンの立っている場所へと真っ直ぐに突き進んでいく。



 そのおぞましい、通路の壁を内側から激しく揺るがすような無数の魔物たちの足音が通路全体に激しく木霊し、停滞していた空間の重苦しい澱んだ空気を、さらに重重しく震わせていく。


 松明の弱々しい灯りだけでは、迫り来る魔物の大群の先頭すら満足に照らし出すことはできない。

 見えるのは、どこまでも深い漆黒の闇の中から、無数に蠢く巨大な影の輪郭と、血に飢えた獣たちの生々しい息遣いだけだった。


 ただ目の前の命を踏みにじるためだけの凶暴な意思が、暗闇の真ん中で凄まじい質量となって膨れ上がっていく。



 この圧倒的な重圧の前に、地上の大半の冒険者は自らの戦術を組み立てる間もなく、ただ恐怖のパニックによって頭の中を真っ白にフリーズさせられてしまうに違いない。


 だが、魔物の大群の真ん中には、Aランク冒険者の優秀なパーティーですら自らの身に一体何が起きたのかを悟ることすらできずに、一瞬にして肉塊へと変えられる、最凶の暗殺者『闇に潜む者たち』の不気味な影もあった。




 闇に潜む者たち────



 不可視の魔導を操るその最悪な魔物は、一度この迷宮の底なしの影に紛れれば、地上のいかなる優秀な探知魔法を以てしても、その存在を視認することは絶対に叶わない。


 ただでさえ姿が見えないだけでも厄介極まりないというのに、放ってくる爪や牙による攻撃までもが、完全なる不可視。


 死角から迫る死の軌道を先読みして回避することなど、人間にとっては文字通り、不可能に近い。


 さらに『者たち』というその名の通り、あいつらは常に完璧な連携を組んで複数で執念深く狩りを行う。


 右を向けば左の死角から、頭上から、足元から、逃げ場を塞ぐようにして無慈悲に襲いかかってくるのだ。


 これまで地上の何人もの優秀な手練れたちが、その命を暗闇の中に散らしてきた。


 ミカがこれまでの十ヶ月の間、この大穴の底に葬ってきた数々の自尊心の高い強者たちも、最後はこの魔物の不可視の爪によって、完膚なきまでに絶望の淵に沈められていたのだ。


 















































 だが────


 















































 その姿も攻撃も完全なる不可視である絶対の死神たちが、死角から同時にその鋭利な爪を突き出し、アロンの喉元を無慈悲に刈り取ろうと暗闇の空間を肉薄した、まさにその瞬間のことだった。





 バリバリバリバリバリバリバリバリッッッ!!!!!!!





 松明の弱々しい橙色の灯りが一切届かぬ、色彩を完全に失った絶対の闇の向こう側で、

 魔物たちの頑強なその肉と骨を強引に断ち切る、絶え間なく四方に響き渡った。



 それは、暗闇の影に紛れていた魔物たちが空間ごと無差別に切り裂かれた音……

 目に見えぬ無数の鋭利な切断の線が、激しく引き裂きながら、あらゆる魔物たちの肉体へと容赦なく襲いかかる。



 アロンにとっては、地上の冒険者が恐れおののく最凶の魔物であっても、その辺の道端に転がっている路傍の小石と何の大差もなかったのだ。


 姿が見えなかろうが、攻撃が不可視であろうが、感覚を狂わせることなど1ミリだってできはしない。



 死角から音もなく肉薄し、その喉元へと音もなく突き出されたはずの不可視の鋭利な爪。


 それをアロンは、自らの身体を動かすことすらなく、ただ周囲で猛り狂う斬撃によって、その迫り来る脅威のすべてを空間ごと格子状に細切れに断ち切っていった。



 グチャリ、というおぞましい肉の破裂音とともに、魔物たちが彼の周囲に吹き荒れる不可視の斬撃の嵐によって文字通り原型を留めないほどにバラバラに刻まれていく。


 周囲の空気がギリギリと鳴りを潜めるたび、魔物たちの硬い外殻が、強固な肉が、頭の骨のすべてが、簡単に粉砕されて、赤黒い汚液とともに四方へと凄まじい質量で飛び散っていく。



 他の通路を埋め尽くしていた有象無象の魔物たちと全く同様に、ただ一撃。


 あいつがただそこに佇み、不可視の斬撃が絶え間なく吹き荒れている、ただそれだけの理不尽な挙動によって、目に見えぬ絶対の脅威であったはずの暗殺者たちは、悲鳴を上げることすら許されずに物言わぬただの冷たい死骸へと成り果てていく。



 殺到する群れを、ただ淡々と、一方的に塵へと変えていく。

 土の上には、細切れにされた魔物の肉片がうず高く積み上がり、濃厚な血の匂いが重苦しく空間に停滞していく。


 















































 やがて、あれほど迷宮の壁を激しく揺るがしていた無数の魔物たちの咆哮と地鳴りのような足音が、目に見えて弱まり、静かに衰退していく。



 そして……



 襲撃が────



 終わろうとしていた。





第88話は、木曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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