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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第86話 回想㉑ 理解不能 ~ミカ視点~

ようやく回想が終わる……




 アロンはその普段の尊大で不遜な言動とは裏腹に、行動の端々ではリンカさんのことを本当に大切に扱っているように見えた。


 もちろん、新入りとして加わったばかりの、この私に対しても。



 リンカさんが我が儘に横柄な態度を取ったとしても、呆れた顔をしながらも当たり前のように付き合って、その歩調を崩さない。

 それは客観的に見れば、まるで仲の良い幸せな恋人たちのやり取りそのものだった。




 だが、私は絶対にそんな上辺だけの優しさなんて信用しない……




 そんなものは、獲物を完全に油断させて懐に潜り込むための、ただの不純なポーズでしかないことは、あの日、冷たい石床の上で、自分の身体を血と白く濁った液で汚されながら身を以て知ったのだから。


 こいつも……こいつら冒険者は全員、服の下には同じ吐き気のする下劣な欲動を隠し持っている。



 優しく微笑みながら、最後に笑って女の身体を虎視眈々と狙っているだけに決まっている。

 誰も彼も、人間の皮を被っただけの薄汚い獣なのだ。



 ただ、このアロンという男は、迷宮の攻略の手順が不自然なほどに慎重すぎて、仕掛ける側としてはその点だけは本当に面倒だった。


 油断の隙がどこにも見当たらない。



 けれど、それも今日で終わり。今日、私のこの手によって、リンカさんはアロンの暴力的な呪縛からようやく救われる。




 地下第七階層……ここに彼らを到達させてしまいさえすれば、私の勝ちなのだ。



 通路の壁を私の殺意で満たした。

 計画通り、彼らはあのおぞましい暴風とともに大穴の『口』の底へと真っ逆さまに落ちていった。



 その轟音を耳にした瞬間、私は自分の復讐のシステムが完璧に作動した全能感に震えていた。


 本当は落下の衝撃からリンカさんだけでも今すぐ助けようとしたけれど、アロンの奴がその異常な反応速度で彼女の細い身体を強引に抱きかかえて、一緒に穴の闇の中へと落ちてしまった。




 ……まぁ、いいです。




 この十日間の探索の中で、アロンの持っている戦闘力がある程度高いことは分かっている。

 あの程度の落下の高さなら、あいつが肉体のクッションになれば、リンカさんも無傷のままで生き延びている可能性は大いにある。




 大穴の底は、私が隅々まで知り尽くした私のための処刑場だ。


 あとは、これまで通り、非常に簡単な処理だ。

 混乱しているアロンの身体を、血の匂いと『魔物呼び込み君』で引き寄せた狂暴な魔物たちに無惨に襲わせて、その命を綺麗に間引く。



 そうしてアロンを消し去ることで、彼女をあの男の不純な支配から完全に解き放つ。

 リンカさんは今、心の中であの男のことが好きみたいだけれど、それだって恐怖で理性が完全にフリーズして、男に依存させられている一種の精神疾患に過ぎないのだ。




 いわゆるストックホルム症候群というやつだ。

 あんな男に依存させられ、心を壊されている。


 あの日のアミたちと同じだ。

 恐怖のあまり、自分を支配する強者を信じることでしか、心が保てなくなっているだけ。


 アロンが消えた後、私が彼女の傍に寄り添い、時間をかけてゆっくりと心を治療していけば、それで一瞬で済む話。



 私が、あの日アミとノルンにしてあげられなかったあの温かな救いを、今度こそこの手で彼女に与えてあげるんだ。


 















































 ────なのに。


 















































 何も問題はない。今まで通り。

 私のこの細い指先一つで制御してきた、いつもと何一つ変わらない、私にとっての楽な殺しだ。


 大穴の力と『魔物呼び込み君』のスプレーの霧を組み合わせたシステムは、誰が相手であっても絶対に破られることはない。


 















































 ────嘘だ。


 















































 楽な、はずだった。



 今まで通りに、暗闇の奥から魔物の醜い牙があいつの肉を貪り食い、骨を噛み砕く、男たちの短い絶望の悲鳴が遠く静寂の中に聞こえてくるはずだった。


 その血の滴る音を耳にして、私はまた一つ復讐を果たした満足感に冷たく浸るはずだったんだ。


 















































 なのに。


 なのに……っ


 一体、これはどういうことなの……?


 















































 ロープを伝って、冷たい冷や汗で手のひらをじわりと滑らせながら、大穴の底を覗き込んだ私の松明の弱々しい橙色の火に照らされた、私のこれまでの認識のすべてを根底から歪ませる、最悪な光景。



 その場に這いつくばった私の頭の芯は真っ白に完全にフリーズし、肺の空気が引き攣って呼吸の仕方が分からなくなるほどの猛烈な戦慄が、全身の皮膚をガタガタと激しく襲う。



 それは、おぞましい魔物たちの爪と牙がアロンの細い身体を容赦なく蹂躙し、その肉を骨ごと食い殺している、いつも通りの凄惨な地獄絵図────


 















































 ────などでは、断じてなかった。




 私の耳元へと直に届いていたのは、人間の絶鳴なんかじゃない────魔物たちが恐怖に駆られて悲痛に鳴き叫ぶ、おぞましい肉の破裂音……



 松明の橙色の不気味な光が揺れる、その奈落の最深部の底に広がっていたのは────


 一振りの刃さえその手に持たぬアロンが、血の匂いとスプレーの芳香に引き寄せられて牙を剥いて殺到する、あの凶暴化した魔物たちの巨大な群れを、一方的に蹂躙している狂気的な光景だった。



 自分の命を懸けてこの未知の深淵を歩いてきたはずの男が、武器すら構えずに、ただ冷酷な瞳で群れを真っ正面から見据えている。



 魔物たちの硬い外殻が、強固な肉が、頭の骨のすべてが、まるで子供の泥遊びのおもちゃのように簡単に粉砕されて、赤黒い汚液とともに四方へと凄まじい質量で飛び散っていく。


 

 私の常識が、私が爪を割って血を滲ませながら構築してきた冒険者殺しの絶対が、ただの素手の暴力という理不尽な現実の前に、通用せずに粉々に踏み潰されていく。




 逃げ場のない圧倒的な力の重圧だけがどこまでも広大に、そして冷酷に広がっていた。




 なぜ……? 




 ただ松明の手を震わせながら、私はその理解不能な状況を見つめていることしかできなかった。





第87話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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