第84話 回想⑲ またやって来たふざけた冒険者 ~ミカ視点~
「……ついに、だな」
衣服の上からボロボロのフードを深く目深に被り、これからの自分の復讐の戦術を、乾いた喉の奥を鳴らしながら一人で考えていたその時だった。
私のすぐ数メートル前方の通りを同じように歩いていた、見慣れない男女の二人組の話し声が聞こえた。
「ずっと攻略を待ち望んでいた……“入った誰一人として生きて帰還しないダンジョン”……この俺に相応しいね」
「何が……面白いだ……お前の……そのおめでたい自殺に……私をいちいち……巻き込むな」
男のその世界のすべてをナメ腐ったような不遜な発言に対して、隣を歩いている女は、街の露店で買ったらしきチュロスを真顔で淡々と頬張りながら、抑揚のない声音で、けれど容赦のないキレ味で真っ正面からそう返している。
誰も帰還しないダンジョン────
間違いない。
今こいつらから漏れ出た言葉が指し示しているのは、私が何十人ものクズの命を沈めた、あの『無明の層』のことに他ならなかった。
その言葉の響きを耳にした瞬間、私の胸の奥で、おぞましい戦慄を伴って一気に甦ってきた。
こいつらは今、あの絶対の死の領域を、ただの自分たちの不純な名声を高めるためのゲームの舞台か何かのように扱って、おめでたい会話を気楽に交わしている。
その事実だけで、私の喉の奥はカラカラに干からび、心臓の奥が激しい怒りと焦燥感で不快にドクドクと脈打ち始めた。
二人は、このセイドウの街では一度も見かけたことのない顔だった。
おそらくは、ギルドの禁止令を無視してでも、前人未到の深淵を暴いて大金や歪んだ名声欲しさに目が眩み、遠くの別の拠点からやってきた、典型的な力に溺れた偽物の冒険者。
地上の安全な街の中で、武器を携えてこれからの栄光を気楽に想像しているその佇まい。
それを見つめているだけで、私の胃の底からはどろりとした嫌悪の反吐がせり上がってくるのを抑えられなかった。
こいつらもあいつらも全員同じだ。服の下に醜く膨れ上がった欲望を隠し持っているに決まっている。
そして何より、私が床の冷たい土を爪が割れて血が滲むほどに掻き毟りたくなるほどに、どうしても、どうしても許せなかったのは、その男の隣でチュロスを齧っている女の存在だった。
その女の身に纏う容姿や美しさは、私が今までの人生で見てきたどの女の冒険者よりも、飛び抜けて美しく優れていた。
だが、その男に対する言動や佇まいはどこまでも高圧的で、他人の都合なんて1ミリも考えていないかのように傲岸不遜。
その凛とした美しい横顔と、周囲の人間をすべて見下すかのような冷たい声音。
……あの日、地下第七階層の冷たい石床の上で、松明を掲げて私を悪い子だと嘲笑い、アミとノルンの人生を物のように蹂躙した、あの女の姿を、私は強烈にフラッシュバックさせていた。
衣服を剥ぎ取られて泣き叫ぶ私たちの真ん中で、手鏡を持って歪に笑っていたあの女の、あの底冷えする鋭い声。
それが、目の前のチュロスを齧る女の佇まいと、あまりにも生々しく重なり合って私の脳内を白くハックしていく。
あいつだ。
あいつと全く同じだ。
美しい顔の皮を被りながら、その内側には他人を踏みにじることしか頭にない、醜く歪んだ自己愛と傲慢さを隠し持っているに違いない。
その女の姿をただ一目見たその瞬間に、私の壊れた魂は、世界の絶対の真実として確信した。
こいつらも、あの日私のすべてを壊したあいつらと全く同じ、救いようのない最悪な『クズの冒険者』だ。
そこから、彼らにあの『無明の層』への正式な探索許可が特例で下りたという情報を街のギルドで知るや否や、私は自分の本当の名前も素顔もすべてを欺き、可哀想な占い師の少女『ミカ』としての新しい『嘘の仮面』を被って、すぐさまその懐へと接近した。
こいつらを私の復讐の牙であるあの大穴へと誘い、親友たちの冷たい亡骸が眠るあの暗闇の底へと、真っ逆さまに突き落としてやるために。
それはそうとやはり、彼らに特例の探索許可を出したギルドの大人たち側も、内側から完全に腐りきっている。
おおかた、裏で大きな金を積まれて、その名声の甘い汁を吸うために、冒険者の安全や命のことなんて最初から微塵も考えずに二つ返事で探索の許可を出したんだろう。
地上にいる奴らは、正義の味方のツラをしながら、どこまでいっても自分の利益や体裁のことしか頭にない、吐き気のするクズの集まりだ。
誰も彼も、この世界の人間はどいつもこいつも本当に全員中身が同じだな。
私の心の中の濁った闇は、彼らへの底知れない憎悪の波長となって、さらに深く、冷たく、もう二度と這い上がれない絶望の澱となって、静かに燃え上がっていくのだった。
第85話は、【 17時10分 】に投稿いたします。
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それでは、次の更新でお会いしましょう。




