第77話 回想⑫ 叩きつけ ~ミカ視点~
冷たい暗黒の空間の中、どれくらいの時間が経過しただろうか。
上からも下からも視覚を完全に奪われ、世界の色彩がすべて消失した不気味な虚空の真ん中で、時間の感覚はとうに麻痺していた。
ロープを握る私の左右の手のひらには、冷や汗がじわり、じわりと絶え間なくにじみ、滑り落ちそうになる恐怖で心臓が激しく脈打つ。
もしもこの一本の綱が摩耗して切れてしまえば、あるいは手が滑ってしまえば、私もまた真っ逆さまに貪り食われることになる────そんな底知れない焦燥感に喉をカラカラに干からびさせながら、絶望的な降下の末、私の足の裏は、ようやく地上の誰も見たことのないその大穴の『底』の、乾燥した土へと辿り着いた。
懐から手慣れた手付きで取り出した松明に、小さな火花をパチリと爆ぜさせて火を灯す。
じちじちと不気味に燃える弱々しい橙色の灯りで、静かに辺りの景色を照らし出した。
そこは、上から覗き込んで想像していたよりもずっと広大に開けた場所であり、一切の風が流れることもなく、重苦しい停滞した空気がただ不気味に澱んでいる地獄の底のような空間だった。
私は、あの激しい暴風によって真っ先にこの底へと吸い込まれてしまったアミとノルンの二人の姿を探すため、まず自らの足元の地面をくまなく見渡した。
松明の光が最初に捉えたのは、さっき私が上の通路で喉を掻き切り、大穴の口へと吸い込まれて落ちていったばかりの、あの油断しきっていたソロの男の冒険者のなれの果てだった。
これほどの高さから、何の防護魔法も受け身もなく硬い石床へと強引に叩きつけられたのだから、その凄まじい衝撃によって内臓のすべてが四方へと無惨に飛び散り、肉が裂け、骨が粉々に砕けて、もはや人間の原型すら留めていないドス黒い肉塊と化して床にへばりついている。
さらに松明の橙色の炎を静かに揺らしながら、周囲を取り囲む深い暗闇の奥を見渡すと、その少し離れた冷たい赤土の上で、また別の不自然な影を見つけた。
足元を慎重に運びながら光を近づけると、死後かなりの時間が経過しているらしく、この空間に停滞している乾燥した魔力の残熱のせいで、その皮膚の腐敗のディテールが酷く悍ましく崩れ落ちている。
……それは、衣服の残骸から人間の男の死体だと分かった。
次に、そこから少し離れた薄暗い場所に、もう一つの男の死体。
さらに奥の場所にも、もう一つ。
そのボロボロになった衣服の破片と死体を見た瞬間、最悪な景色をフラッシュバックさせた。
3つとも、着地の瞬間に浴びせられた凄まじい衝撃によって、腰から下の下半身がグチャグチャに、骨ごと見る影もなく粉々に損壊していた。
おそらくこいつらは、足の先からこの硬い石床へと真っ逆さまに落ちたのだろう。
即死することすら許されず、下半身を完全に粉砕されたまま、この地上の誰の目も届かない暗闇の底で、何日間もの間、激痛に叫び声を上げながらのたうち回り、血を流し、時間をかけてゆっくりと衰弱死していったのであろう。
最悪な苦痛の残痕が、白骨化しかけたその歪んだ表情の隅々にまで、消えない呪いのように生々しく刻み込まれているようだった。
自業自得だ……
私の大切だった親友たちの人生を木っ端微塵に踏みにじったこいつらには、これ以上ないほどお似合いの、最高に最悪な末路だった。
胃の底から冷たい歪んだ満足感だけが、静かにせり上がってくる。
けれど、私がこの底で何よりも一番に見つけ出したいはずの、アミとノルンの二人の亡骸だけは、未だ見つけることができていない。
どこにいるの……? こいつらと一緒にこの大穴の底へ落ちてきたはずなのに、なんで二人の身体だけがどこにも転がっていないの────
焦燥感で私がその場に立ち尽くしていた、まさにその時だった。
こいつら男三人組の淒惨な死体たちが転がる、さらに深い、深い奥。
松明の弱々しい橙色の火光すら届かない、完全な拒絶の暗闇の向こう側から。
カサリ、という……。
生きている何かが、不気味に、そして冷酷に蠢くような微かな音の響きが、静寂を切り裂いて私の剥き出しの耳へと直に届いたのだった。
第78話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




