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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第76話 回想⑪ 穴 ~ミカ視点~




 その日も、私はいつものように『嘘』を重ね、別の誰かの偽りの名前を騙り、素顔も、ギルドに登録されている冒険者カードの身分のすべてすらも偽造して別の人間になりすましながら、獲物となる冒険者を油断させて殺そうとしていた。



 あいつらと同じような下劣なクズの冒険者。

 そんな薄汚い存在を、一人でも多くこの世から綺麗に消し去るために。



 今回私のターゲットとなったのは、この迷宮へ、富と名声を独占しようと驕り高ぶって単独で足を踏み入れてきた、ソロの男の冒険者だった。


 私は光の効かない暗闇の通路の途中で、恐怖に怯える哀れな女の身分を完璧に偽ってその男へと近づき、涙を浮かべた笑顔を張り付けてその懐へと深く潜り込んでいた。



 そして、心理魔法を密かに発動……

 男の浅ましい思考の波長をそのままとらえた瞬間、私の胸のすべてが氷のように冷たく静まり返った。



 ここで、この男が私のことを本気で心配して、ただ一人の人間として助けてくれる温かな規約を持っているのなら、殺すつもりは本当になかった。

 もし、世界に一人でもそうじゃない冒険者がいるのなら、私はその瞬間にナイフを捨てて、この復讐から撤退し、自首する……心のどこかで確かに持っていたんだ。



 しかし、指先からかすかに流れ込んできた、その読み取った心の中身は────「運良く女のソロを見つけたぞ。誰も見ていない暗闇だし、自分の都合のいい玩具にして存分にヤれそうだ」



 という、あの時の男たちと何一つ変わらない、吐き気のするクズの思考そのものだった。


 もう私は男の命を奪うことに対して、何の躊躇も、一微塵の憐れみすらも湧いてはこなかった。

 私をただの弱者だとナメ腐り、最高に下卑た油断をその顔に浮かべた、まさにその決定的な一瞬の隙を狙って────私は袖口から隠し持っていた鋭利なナイフを迷いなく突き出し、その無防備な喉元を力任せに一瞬で深く掻っ切った。



 ドス黒い鮮血が床の赤土へとドバドバと溢れ出て、男が言葉にならない掠れた絶命を上げながらのたうち回るのを、私は温度のない冷たい瞳でただじっと見下ろす。


 男の手が床の土を掻き毟る音がやがて止まり、完全に息の根が止まったその死体を、色彩をすべて貪り食う迷宮の暗闇の奥底へと引きずり、誰の目にも届かないように無造作に沈めていく。


 私の心の中がドロドロとした、もう二度と這い上がれない濁った復讐の闇に染まりきった、まさにその決定的な瞬間だった────

 私のすぐ目の前にある灰色の石作りの通路の壁に、あの日と同じ、あの巨大な『穴』がぽっかりと空いていた。



 衣服を汚した返り血を静かに拭い、全ての処置を終えた後にようやく私がその壁の異常に気が付いたのは、周囲の戦いの物音や男の掠れたうめき声が完全に消え去った直後のことだった。


 光を拒絶する重苦しい静寂の中で、唐突に、その約束の時は訪れた。



 ゴクッッッ!!!!



 私の腹の底にまでビリビリと不気味に響き渡るような、あの日と同じ音。


 通路の空間全体の空気が一瞬で引き絞られ、肌に直接冷たい嫌な鳥肌がせり上がってくる。

 次の瞬間、通路のすべての空気を一息に吸い込むかのように、すべてを深淵の奥底へと引きずり込もうとする、あの凶暴な暴風の嵐が通路に激しく吹き荒れた。



 ゴゴゴゴゴと地鳴りを立てて荒れ狂う風の暴力が、衣服の隙間から私の肌を激しく叩く。



 私はあの日と同じように、死に物狂いで冷たい地面の赤土にしがみつき、指先を岩肌の僅かな隙間に強く食い込ませて、その恐ろしい風が止むのをただじっと耐えて待った。


 風速は増し、空間の重力さえも力技で書き換えるような、凄まじいモノへと変貌していく。

 私が今しがた殺してそこに転がしていたばかりのソロの冒険者の死体は、床の土の上をずるずると滑り、大穴へと吸い込まれてそのまま組み合わせのまま飲み込まれていったけれど、地面に低く這いつくばった私は、割れた指先の痛みに耐えながら、何とかその超重力の吸引に耐えきることができた。



 やがて、通路を狂わせていた暴風は嘘のように静かに止んだ……けれど、壁に穿たれたその暗黒の穴は、あの日とは違って、まだ閉じようとせずに静かに口を開けたままでいる。



 火光が消え去った暗闇の中で、その大穴の輪郭だけが不気味に浮かび上がっていた。



 今だ。私のこの手が、ようやく条件を掴んだ。

 あの激しい風によって奈落の底へと無慈悲に消え去ってしまった、大切なアミとノルンの二人の亡骸をこの手で地上へと連れ戻すため、自らこの暗い穴の下へと降りていく決意をした。



 二人の亡骸だけは、せめて私の手の届く場所に置いておきたかった。

 これ以上、あの冷酷な男たちと同じ闇の底に、二人の身体を置き去りにしたくはなかった。



 用意していた一本の頑丈なロープだけを壁の岩肌にしっかりと固定し、その感触を何度も確かめる。

 それを唯一の命綱として頼りにして、奥底へ、ゆっくりと自らの身体を沈めていく。



 ロープを握る手のひらに冷や汗をじわりとにじませながら、私は一歩ずつ、静かに深淵の底へと向かって降りていった……





第77話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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