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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第73話 回想⑨ 飲み込む突風 ~ミカ視点~




「最後はお前だ」


 一人の男が、今しがたノルンを無惨に殺したばかりの、まだ生温かい血がべったりと付着したナイフを、床に這いつくばる私の顔の前へと冷たく突きつける。


 刃先から滴り落ちた親友の血が、私の目の前の土を小さく濡らした。


 その鉄の匂いと、目の前に迫る銀色の死の輝き。

 だが、私の胸の内には、もはや指先ひとつ、髪の毛一本すら動かそうとする生きる意思さえ、一滴も湧いてはこなかった。


 身体を苛む男の重圧も、手首を潰される激痛も、もうどうでもよかった。

 



 アミとノルンが死んだ……




 同じ小さな街で共に育ち、一緒に笑い合い、眩しい未来を語り合っていた、私のすべてだった大切な幼馴染たちが。


 ただ男たちの下劣な欲望のために惨く、おぞましく蹂躙され、最後は言葉の通りただのゴミのように、物のように簡単に殺された。


 私のついた、あのくだらない、優越感に浸りたかっただけの嘘の代償として。


 私にとって、もう、この生きていく世界に価値も意味も、どこにも残されてはいなかった。




 もう、いいや……いっそ…同じように今すぐ殺してよ




 

 これ以上、親友たちのいない冷たい世界で生きていくなんて、そんなの絶望の重圧で頭が狂ってしまう。



 恐怖すら通り越し、ただ真っ暗な、何の痛みもない永遠の安らぎの空間だけを求め、私は静かに、すべてを諦めて瞼を閉じた。


 早くその刃で、私の首を掻っ切ってほしかった。




 ……だが────




 ゴクッッッ!!!!!!!




 突如として、地下第七階層のすべてを支配していた死の静寂を力任せに打ち破る、巨大で禍々しい『音』が、通路の深淵の底から地鳴りのように鳴り響いた。


 それはまるで、この私たちが足を踏み入れた新しいダンジョンそのものが、明確な意志を持って、飲み込もうとしているかのような、あまりにもおぞましい音。


 空間全体の空気が一瞬で引き絞られ、私の閉じた瞼の裏まで、その禍々しい振動がビリビリと激しく伝わってくる。



「な、なんだ、この音は!!!」


「なによ、一体何が起きてるの、これ!」


「え!! おい、地面が割れて───」


「おい、何なんだこれは!! 身体が、大穴の方へ引っ張られ───」



 私を馬乗りにして、今まで自らの欲望のままに私の身体を弄っていた男たちの、そして手鏡を持ってこようなどと平然と言い放っていたあの女の、余裕の消え去った狼狽える叫び声が暗闇の中で激しく重なり合う。


 私の身体を押さえつけていた男の怪力が、パニックによって不自然に解かれた。



 次の瞬間、暴力的なまでの暴風の嵐が、辺りの空間を覆い尽くした。



 吹き荒れる風速は一瞬で跳ね上がり、空間の重力さえも変貌していった。

 床に散乱していた石や、男たちが掲げていた松明の炎が、凄まじい音を立ててその暗黒の口へと吸い込まれていく。




 そして、ついには。



「嫌だ、助け───」

「嘘でしょ、腕が、中に入っ────」



 さっきまで私を、アミを、ノルンを冷酷に蹂躙し、その命を弄んでいたあの男三人、そして女までもが、抗う術など何一つなく、大穴の漆黒の闇の口へと、一瞬にして貪り食われるように真っ逆さまに飲み込まれていった。



 暗闇の奥で、あいつらの骨の砕けるような、短い絶叫の音が聞こえた気がした。



 けれど、大穴がもたらす世界の災厄は、それだけでは決して終わらなかった。


 深淵の底へと吸い込まれていく暴風は、すでに床の上で冷たくなって横たわっていた、アミとノルンの二人の亡骸の身体までもを、容赦なく奈落の最深部へと引きずり込もうとする。



「だ、だめ……っ、それだけは、やめて……っ」



 私は、止めたかった。

 二人の亡骸だけは、せめて私の手の届く場所に、地上に連れて帰るために置いておきたかった。



 これ以上、あの冷酷な男たちと同じ闇の底へ、二人の身体を連れて行かせたくはなかった。



 けれど、男たちに犯され、魔力を完全に失った私の身体は、指先一つ動かすことすら満足にできない。



 私はただ冷たい土の上に力なく倒れていることしかできなかった。



 しかし、幸か不幸か、その地面にしがみつくような低い姿勢のおかげで、私は大穴が放つ超重力の吸引に対して、辛うじてその身を削られずに抗うことができた……



 できてしまったのだ。


「やめて……っ、返して……返してよ……っ」



 かすれた掠れた最後の願いは、暗闇の空間を引き裂いて虚しく吹き荒れる暴風の轟音の中に、何の一片の重みも持たないまま、一瞬で霧散して消え去った。



 どれだけ必死に手を伸ばそうとしても、私の指先は、冷たい土の表面を数センチほど虚しく掻き毟るだけで、アミとノルンの身体に届くことなんて絶対にあり得なかった。



 床の上をずるずると滑っていく二人の動かない肉体が、大穴の淵へと向かっていく。



 アミとノルンの死体が、松明の消えゆく最後の微かな光の先、あの底知れない暗い大穴の向こう側へと、無慈悲に、そしてあまりにも呆気なく吸い込まれ、二度と見えなくなる。



 二人は、完全に消えていった。



 その亡骸のすべてすら、自分の手元に残すことすら許されなかったのだ。


 私たちが一緒に抱きしめて歩いてきた、地上の光の中で笑い合いたかったあの眩しい夢のすべてが、冷たく引きずり込まれて消え去っていく。



 最愛の親友たちの、その光を失った最後の後ろ姿を最期に。




 私の脳内を狂わせるような凄まじい絶望の静けさが、空間のすべてを完全に支配していき、私の意識は、これ以上何も見たくないと世界のすべてを拒絶するような、ひどく深く冷たい闇の底へと、静かに遠のいていったのだった。





第74話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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