第71話 回想⑦ 粉々に砕かれた夢 ~ミカ視点~
「本当に長いのよ、あんたたち。一体どんだけ出したら気が済むのよ……まぁいいわ。終わったなら、そろそろ仕上げと行きましょうか」
仕上げ……?
その地獄の終わりを予感させる冷酷な言葉に、私は、鉛のように重く強張った自らの身体を、冷たい土の上で小さく震わせた。
すべてを奪われ、体温を吸い尽くされた肌に、床の赤土の冷たさがじわじわと刺さるように伝わってくる。
すぐ真横では、アミとノルンが、もう涙すら涸れ果てた焦点の合わない死んだ魚のような目のまま、ただ浅い呼吸を繰り返すだけの人形のように横たわっていた。
かつてあんなにキラキラした瞳で私を「凄い」と信じて笑ってくれていた二人の、光を失ったその無残な横顔を見た瞬間、私の胸の奥底が内側からバリバリと音を立てて引き裂かれるような、猛烈な激痛が全身を駆け巡った。
「あら? そっちの嘘つきの悪い子は、まだしっかりと意識があるみたいね。中々お丈夫じゃない、感心するわ」
松明の橙色の不気味な炎を掲げたあの女が、床に這いつくばる私に向けて、まるで道端の汚物でも見るかのような冷ややかな視線を投げ、その薄い唇を歪に歪める。
その歪んだ笑みが、揺れる火光に照らされてただただおぞましかった。
首を動かすことすら満足にできない私は、ただ下からその冷酷な顔を見上げるしかなかった。
「まぁ、別に今さらお前に意識があろうがなかろうが、どうせあなた達は全員ここで死ぬんだし」
……し、死ぬ?
私たちは、ここで、殺されるの……?
肉体も心もすべて壊された絶望のどん底で、その冷たい言葉だけが、私の脳裏へと鋭利な刃のように深く突き刺さった。
あまりの恐怖に心臓が激しく脈打ち、喉の奥がカラカラに張り付いて、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうになる。
「そうよ……これだけ派手にやらかした事実、万が一にでもバレたら私たちが捕まるしね。あなた達を口封じに、一人残さず殺さなくちゃ」
「……な、……なん……で…………そんな、……こと……っ」
床に顔を押し付けられたまま、私はかすれる喉から、ようやくそれだけの音を絞り出した。
どうしてそんなことが平然と言えるのか。
なぜ私たちは、こんな暗闇の底で全てを奪われ、その命まで消されなければならないのか。
涙と汗が赤土と混じり合って、目を開けていることすら痛いのに、女の言葉は無慈悲に続く。
「なんで…ってねぇ…何も……特に意味は無いわ。強いて言うなら、このダンジョンにいたから。それだけ」
女の唇から放たれる言葉の響きには、一人の人間をこれから排除することへの一片の慈悲も、余計な熱すらも残されてはいなかった。
ただ道端のゴミをどこかへ投げ捨てるのと何も変わらない、あまりに平坦で、あまりに冷酷な残酷さ。
その徹底的な拒絶の響きが、私の残された微かな希望を冷たく踏み潰していく。
「そうそう、俺たちは別に悪いことはしてねーよ? 女三人でダンジョンに行くからこうなったんだろ?」
「ダンジョンって最高だわ……犯してその後殺しても、事故って言えばいいだけだし」
「お前たちも実はそういう願望あったんじゃないのか? あははは!!」
男たちの下卑た笑い声が、耳元で生々しく、死の恐怖が満ちる暗闇に木霊する。
その下劣な言葉の一つ一つが、泥を投げつけられるかのように、私たちの尊厳を何度も何度も踏みにじっていく。
……そ、そんなこと。そんなこと、私たちは最初から1ミリだって考えてなんかいなかった……
私たちは、ただ純粋に強くなりたくて。
この大好きな幼馴染の三人で、地上の温かな光の中で、これからもずっと肩を並べて笑い合いたくて、ただここに、一生懸命に歩いて来ただけなのに。
ただ、三人で一緒にいたかっただけなのに。
「冒険者なんて、ぶっちゃけ全員そういうの目当てだろ? じゃなきゃわざわざ死ぬ恐れのある職業なんて選ぶかよ」
私の身体を弄っていた男の一人が、衣服を整えながら冷酷にそう言い放ち、私たちのすべてをナメ腐ったような下卑た笑い声を空間に響かせる。
その笑い声が止むことはなく、暗闇の奥へと不気味に吸い込まれていった。
この冷たい暗闇の時……
この時間……
私の……私たちの……抱いていた眩しい夢が……
世界のどこにも救いを見出せないまま、あまりにも無慈悲に、あまりにも虚しく、音を立てて壊れた。
壊れた夢の破片が、冷え切った私の心の中に、ただ冷たく、重く沈み込んでいくのだった。
第72話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




