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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第64話 魔物呼び込み君




「まあ、良いですよ……今はそんな風におめでたく囀っていればいい。そのムカつく余裕の顔が、恐怖と絶望に叩き落とされて絶叫に変わる瞬間が、今から本当に楽しみですからね……」



 照らされたミカの顔から滲み出てきたのは、無数の冒険者たちの遺骸が転がるこの深淵の底にふさわしい、本物のドス黒い死の香りであった。

 だが、そんな底知れない闇の威圧を正面から浴びせられても、リンカはアロンの背の近くで、特製デザートのスプーンを弄ぶかのようにただ気だるげに唇を動かした。



「……あの口ぶりから察するに、相当おかんむりのようだな。アロン、これはまたお前が過去に不当解雇した奴の報復じゃないのか?」



 その質問に対して、アロンは片手に持った松明をゆっくりと前方の暗闇へと掲げ直した。

 不気味に爆ぜる橙色の炎が、アロンの横顔をぼんやりと赤く浮かび上がらせる。



「いや…ミカなんて名前の冒険者を仲間にした覚えは一度もないね…だが、本人に直接聞いてみるのが一番手っ取り早いか。おい、俺たちに対して恨みでもあるのか? 最初から心理魔法などという嘘をついてまで、俺たちに寄ってきて」



 アロンは右手に持った松明を前方の暗闇へと大きく掲げ、対峙するミカの瞳へと鋭く突き刺した。



「あれ? 私のあの心理魔法が、最初からただの嘘だって気が付いていたんですか? それなのに私をパーティーに引き入れるなんて。隣に大きなお荷物まで抱えていらっしゃいますし、飛んだお人好しですね……アロンさんは」



 アロンたちの前に立つミカの声のトーンから、先ほどまで地上で両手を胸の前でぱたぱたさせていた、あの「初心な少女」は消えていた。



「そんな甘いからあなた達はここで無様に殺されるんですよ」



 アロンの問いかけのすべてを嘲笑うかのように、ミカは要領の得ない返答を、ただ氷のように冷たく投げ返した。



「……なるほどな。その言い草からに、私たち個人に対して私怨や恨みを持っている訳ではなさそうだな」



 リンカは冷めた声で呟く。



「はい、その通りです……アロンさんとリンカさんの二人が選ばれた理由は、ただの不運な偶然。まぁあえて言うなら、あなた方の自業自得ですよ」




「ほう?」




「あなた達が、ギルド本部の規約を破ってまで、とっくに探索が全面禁止されているはずのこの『無明の層』へ探索なんかするからですよ……だから、ここで殺されるんです」



 ミカの声には、一人の人間をこれから陥れることへの一切の迷いも、余計な感情すらも残されてはいなかった。

 ただ機械的に、あらかじめ決定された冷酷に告げる姿は、まさに死神のそれであった。



「……つまり、この無数の死体の山に転がっている冒険者たちは、すべてお前が殺していると?」



 アロンの問いに対して、ミカはまるで美しい花が不気味に綻ぶかのような、それでいて背筋が凍りつくような薄気味悪い愉悦の笑みをその薄い唇に浮かべた。



「えぇ……私が、この無明の層の秘密へと近づこうとしてやってきた愚かな人達を、残さず全員殺してます……と言っても、私が直接手をかけた訳じゃありませんが……」



 そう冷たく言い捨てると、ミカは自らの懐から、一本のスプレー缶を無造作に取り出した。

 そして、それをアロンたちが並んで立っている方へと向かって投げ放ち……缶が中空を舞ったまさにその刹那、自らの手元でナイフの鋭い刃をギラリと閃かせて、その金属の缶を正確に一瞬で破壊した。


 

 プシュッ、と不快なガスが噴き出す音が響き渡り、引き裂かれた缶の内部から猛烈な圧力で噴き出してきた濁った液体が、細かい霧の雨となってアロンとリンカの二人の頭上へと降りかかる。

 


「……なんだ、この液体は?」


「この鼻腔を突く最悪な独特の匂いは……『魔物呼び込み君スプレー』か」



 アロンとリンカの二人が、衣服に付着した霧の匂いから即座にその正体を看破した、まさにその決定的な瞬間だった。




 ズズズ……、ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!




 地下全体を激しく揺るがす、凄まじい地響きのような獣の唸り声の嵐が、四方の暗闇の奥底から一斉に湧き上がってきた。


 一体、二体、あるいは一つの群れなどという生ぬるい話では断じてない。光を拒絶する底なしの暗闇の奥から、数え切れないほどの凶悪な紅い眼の光が無数に灯り、完全に理性を失って狂乱した魔物たちのドス黒い足音が凄まじい質量となってアロンたちの座標へ向けて一直線に殺到し始める。





 それは、実戦を通して自らの力を極限まで強大にしたいと願う、狂気的な上位の冒険者にのみ例外的に販売が許されている物品。


 ひとたび空間に噴射されて付着すれば、地上の場合は半径一キロ、ダンジョンの場合においては、出現階層を問わずすべての魔物たちを一時間もの間、完全に理性を破壊された凶暴な活性化状態で強制的に呼び込み続ける『魔物呼び込み君』。



 それは文字通り、周囲の360度の全方位の景色を、狂える敵のみで埋め尽くす死の芳香。



 「クソみたいな冒険者は、ここで死ねば良いんですよ」



 ミカは狂乱する闇の先で、冷たく、そしてゾクゾクするような底なしの愉悦を孕んだ言葉を最後に投げ捨てた。





第65話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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