閑話⑤ 生クリーム後編 ~リンカ視点~
次回から1日1回の更新になります
「じゃあ……お前、そのままじっとしてろよ?」
アロンはそう呟くと、私の首に回された両腕のホールドを気に留める様子もなく、ゆっくりと私の顔の前へと近づけてきた。
距離が近づくにつれて、私の心の内側からは、甘美で心地よい気持ちと、胸を焦がすような尋常じゃない羞恥心が同時にドバドバと沸き上がってくる。
あまりの熱量に全身がムズムズと歓喜に震える……
しかし、これが良い……アロンの体温をこれほど近くに感じられる時間が、最高に良い。
アロンは瞳のまま私の口元を見つめ、人差し指を伸ばすと、クリームをひょいと掬い取った。
が、あいつは指についたそれを拭うこともせず……何のためらいもなく、そのまま自らの唇の奥の口内へと含んだのだ。
「……ん。……うん、確かに中々のクオリティだな。生クリームの甘みが強くて美味いな」
「……んん、っ!」
その、指先を舐めとる一連の滑らかな動きをまじまじと見た私は、あまりの背徳感の熱さに全身を激しく震えさせるしかなかった……
触れられた場所から身体中がカッと熱くなり、胸の鼓動が最高潮になる。
このままだと、この激しすぎる心臓の音が密着した胸からアロンに気づかれてしまう……今すぐこの密着を解かなければならない……
頭の片隅ではそれが正解だと完璧に分かっているのだが、私の身体は、どうやっても離してはくれなかった。
その瞬間、私は強烈な歓喜が巻き起こった。
私は、いつも、いつだって直前で日和ってしまっていた。
自分から誘っておきながら、最後の最後に逃げ出すなど、最も恥ずべき振る舞いであり、あまりにも無様の極み……
これまで二人の関係性を進めるためのチャンスは何十回とあったはずなのだ……
そもそも、私自身のヘたれさが無ければ、とっくに今の『相棒』という関係をさらに超えた、真の二人になれるというのに……
誰も邪魔者のいない、最高の夜が何度も訪れていたはずであろうに……
しかし、今の私は違う……己の未熟さを受け入れた。
これが、ここからが、本当の私だ────
ぺろ……
「………は?」
次の瞬間、自らの成長に打ち震えていた私の柔らかな口元が────直接、生温かい何かによって滑らかに舐め上げられた。
他でもない、目の前にいるリーダーのアロンによって。
「うん……。やはり指で取るよりも直接の方が残さず取れるな……グリブリというこの街限定デザートも爽快で美味かったが、やはりこういう王道の甘味スイーツも一切の外れがないとは……恐るべしセイドウ街」
アロンは私の目の前で、ぶつぶつとそんな退屈そうな独言を真顔で話している……
が、そんな男ののんきなセリフなど、今の私の耳には微塵も届いてはいなかった。
……え? 今、私は、何をされた……?
私は……? 何を、されたのだ?
今……舐められた?……私の口元を、直接……?
私は指先をゆっくりと動かし、口元を触る……そこには微かだが、生温かい熱で確かに濡れていた。
「あっ! えっ!? まっ!!……お、お前……、お、お、……っ!!!」
「ん?……どうしたんだ、リンカ?……ああ、安心しろ…綺麗になったぞ?」
「な、な、な……何を言っているんだお前はっ!!! おまっ、この、大馬鹿野郎がっ……!!」
一気に顔面から火が噴き出した私。
弾かれたようにアロンの膝の上から真後ろへと飛び退いた。
その動きは、ダンジョンで見せる動きとも似つかないほどの速さであった。
「何をやっているんだ?」
「う、ううううう……!!……うるさいっ!!! も、もう寝るっ!!」
私はそれだけ叫び声を上げると、テーブルの上の残りのロールケーキを抱え込む余裕すらなく、自らのベッドの中へと真っ逆さまに逃げ込んだ。
そして、布団を頭から完全に被って激しすぎる全身の熱を必死に隠す暗闇の中で。
自分の破裂しそうなうるさい鼓動の音だけが、さっきのあいつの唇の生温かい触感をじっと噛み締めるのだった。
「おい、甘いものを食べてすぐ寝るな……」
「………」
「仕方ないやつだ……口を開けろ、磨いてやる」
「ッッッ!?!??!?」
閑話⑥に続く……
明日の【 17時10分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




