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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第57話 穴




「い、いえ!! そうじゃなくて!! あの! その! ………そうそうなんでリンカさんは、わざわざ過酷な冒険者になんかなったんですか!? リンカさんなら、もっと別の、安全な職業の方がよっぽど天職として向いていると思うんですけど……」



 急激な、誰の目から見てもあまりに露骨すぎる話題の方向転換だった。



 完全に悪手……

 かえって周囲の不自然さを際立たせる結果となり、前を歩いていたリンカの眉を、あからさまに不機嫌そうに跳ね上げさせる結果となってしまった。



「いや!! 悪い意味で言ったわけじゃなくてですね!! リンカさん、本当に綺麗ですから!! それこそ劇場の華やかな歌姫とかのほうが向いてるのになぁ、とか私の素人目で思っちゃって!! あははは、あはははは!!!」






 キツい……






 自分で言っておきながらこの誤魔化しは最高にキツすぎる……


 必死の笑顔のまま引き攣った声を張り上げておきながら、ミカは自らのその言葉のあまりの軽さと雑さに、内心で激しく動揺していた。



 確かに、リンカのその容姿は、驚くほど完璧に整っている。

 ただ整っている、などという生ぬるい言葉では到底足りないほどに。



 ミカがこれまでの短い人生の中で出会ってきたどんな高貴な人間よりも、群を抜いて、飛び抜けて、その顔立ちの輪郭やパーツは一つの芸術品として完成されていたのだ。

 

 闇に映える端正な横顔の輪郭、強い意志と知性を感じさせる美しい瞳。

 さらに付け加えて言えば、そのスラリとした手足のスタイルさえも、王都のモデルか何かのそれのように、どこから見ても隙すら存在しない。

 

 だが、それにしても今の話の変え方は、いくら何でも幼児の言い訳並みに雑が過ぎた。

 慌てて無理に相手を褒めちぎり、不純に機嫌を伺っていると思われても何一つ言い訳は立たない。




「(終わった)」




 ミカはギュッと両の目を瞑り、これから脳髄に浴びせられるであろうリンカの小言の嵐に備えて、自らの細い身を硬くしてフリーズした。

 




 だが────





「ほーう……中々見る目はあるじゃないか」



 怯えるミカの耳を優しく揺らしたのは、冷酷な怒号でも、すべてを突き放す冷笑でもなかった。

 ミカが恐る恐る、片目ずつ小さくその瞼を開けると、そこには────


 松明の橙色の炎に妖しく照らされながら、ニコニコと上機嫌そうに頬を緩めて悦に浸るリンカの顔があった。



「実はな、私のこの世界の規約を超えた圧倒的な美貌のせいで、王都の大きな劇団の人間からたびたび街頭でスカウトされるんだよなぁ、本当に困ったことに……ふふふ」


「全然困ってる顔には見えないんだが?」



 その髪先を弄んでいる表情は、世界のどこをどう切り取って観察してみても、『困っている』者のそれとは程遠い。

 あまりに分かりやすい態度の豹変を前にして、ミカの思考回路は完全に宇宙へと置き去りにされて停止した。



「じゃあ……スカウトが来ているのに、なんで歌姫の道に転職しないんですか……?」



 ミカの純粋な問い。

 リンカは満足げに、そしてわざとらしいほどに芝居がかった大げさな仕草でサラリと美しい黒髪をかき上げ、アロンの背中で不敵に笑ってみせた。



「ふっ……それはな───」









































 彼女がその『真の理由』を口にしようとした、その瞬間だった。



「そろそろ、件の壁に着くぞ」



 アロンの低い声が、弛緩しかけた空気を一瞬で切り裂いた。

 松明の橙色の光が届く限界のその先に、ただ事ではない異質な『沈黙』が影となって横たわっていたのだ。


 うねった地下通路の突き当りを右に折れた、まさにそのすぐ先。

 本来ならば、オルテが言う「魔力の流れがおかしい灰色の岩壁」があるはずの場所だった。



 だが────



「なに……、これは……?」


「ほう……これは中々に、不純な変化だな」



 アロンとリンカの二人が、まったく同時に足をピタリと地面に止めた。


 松明の橙色の不気味な炎によって照らし出されたのは、オルテの報告にあったような無機質で特徴のない灰色の岩肌などではなかった。


 そこには、巨大な『未知の穴』。

 大人一人が何一つ屈むことなく容易く通り抜けられるほどの、あまりにも人工的で不自然な引き裂かれた亀裂。


 オルテの極秘資料には一言の記載もなかった、異常事態。

 新しく現れたその穴の奥底には、底知れない墨を流したような本物の暗闇が奈落のように広がっており。


 アロンが松明の火の炎をいくらか前へと近付けてかざしてみたところで、その微かな橙色の光条は、大穴の奥の重苦しい闇に一瞬にして貪り食われるように吸い込まれて消え去った。



 それは、まるで────









































「『口』だな」



 アロンが、低く、冷めきった氷のような声音でそう呟いた。

 歪に引き裂かれた向こう側に、ひっそりと息を潜めて蠢く何かが、地上からやってくる新たな獲物を今か今かと待ち構えて喉を広げているかのような、禍々しい静寂。



「どうする? アロン」



 リンカはアロンの背中で大きく上体を仰け反るようにして、松明の光を頼りにその未知の闇の奥を冷徹に観察しながら、隣の相棒へと問いかける。

 アロンの脳内にある、十日間徹底して守り抜いてきた『安全と効率』の絶対の天秤が、不穏な空気の中でゆっくりと左右に揺れ動いた。



「……どうするも何も、だれが見ても異常事態だ。まずは一度引き返してオルテに報告するしかないだろうな……とりあえず一旦地上に────」



 アロンが踵を返し『撤退』の安全な判断を下そうとした、まさにその瞬間であった。




 ゴクッッッ!!!!!!!




 第七階層に満ちていたすべての空気を、空間の概念ごと丸ごと一息に飲み込むかのような、『嚥下音』が、深淵の底から地鳴りのように鳴り響いた。




 ────衝撃。




 足元が、世界が、音を立てて激しく爆ぜた。

 穴の奥から噴き出したのは、暴風などではない。

 それは、獲物を胃袋へと引きずり込むための、暴力的なまでの『吸引』。





「な……!」


「ッ……!!」




 声が、闇の中に溶けていく……





第58話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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