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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第55話 無明の層シャトルラン




 それからアロンたちの「無明の層シャトルラン」とでも呼ぶべき、前代未聞の異常な迷宮攻略が始まった。



 一日に進むノルマは、絶対に「一層」ずつだけ。

 どんなに余裕があろうとも決して無理はせず、進んでは即座に地上へと戻り、オルテの財布で美味いものを食べては深く寝て、また翌朝に万全の状態で潜る。

 


 だが、そんな彼らの地道な足取りを嘲笑うかのように、階層を深く重ねるごとにダンジョンはその隠されていた凶悪な牙を真っ正面から剥き出しにしていった。

 出現する魔物のランクも跳ね上がり、一歩踏み外せば五体が消し飛ぶ巧妙な魔導トラップ、そして何よりも────世界のすべての色彩を貪り食う、圧倒的な「闇」。

 

 まさに「無明」というその名が掲げられた通り、その暗闇の奥底は光を拒絶する絶対の拒絶世界だった。

 通常の他のダンジョンであれば、魔術師が放つ「光魔法」を一つ唱えるだけで一瞬で解決するはずの暗闇が、このダンジョン内では底なしの沼のように光魔法を無慈悲に吸い込み、霧散させて完全に無効化してしまうのだ。

 



 その光の規約が通用しない絶対絶望の暗黒に対する対抗策は、現代の魔導技術から見れば驚くほど単純で、そして原始的なものだった。

 



 木切れの先に油を染み込ませた、ただの松明────

 


 

 暗闇の奥でじちじちと不気味に爆ぜる、心許ない橙色の物理的な炎。

 

 高度な光魔法の数々がすべて封じられたこの異常空間において、唯一暗闇を拒絶して機能するのは、魔力に依存しない「物理的な燃焼」によって生み出される原始的な光源のみであった。


 だが、そんな前時代の松明の微かな明かりでは、どれほど激しく炎を揺らしたところで、ほんの数メートル先にある冷たい岩肌の輪郭を照らし出すのが限界の極み。


 さらに、探索中や戦闘中であっても常に片手が完全に塞がってしまうという、前衛にとっては致命的とも言える最悪なハンデに加え、咄嗟の激しい動きを少しでもすれば風圧で簡単に火が消え去るという、理不尽な制約まで容赦なく課せられる。

 



 現在……効率主義と最速の攻略速度ばかりを重んじる世間一般の若手冒険者たちが、この松明という「時代遅れの不自由」がもたらす泥臭い戦術に耐えきれず、自らの傲慢さゆえに次々と闇の露となって虚空へ消えていった。

 これこそが、セイドウの街で無明の層に潜った淒まじい凄腕の冒険者たちが誰一人として帰ってこない理由の、有力な仮説の一つとしてギルド内部で挙げられている。

 

 

 地下の階層が深く深まるにつれ、地道な攻略であっても一階層あたりの攻略時間は倍々ゲームで延びていき、精神と体力は目に見えない闇の重圧によって容赦なく削り取られていく。

 


 そしてついにオルテが語っていた、不可思議な魔力のバグがあるという問題の「第七階層」へと辿り着いた頃には────

 

 

 

 彼らが初めて第一層の土を踏んだあの日から、時間はすでに十日という日数が経過していた。









































 低く爆ぜる松明の橙色の炎が、まとわりつく湿った粘り気のある闇を、ほんの僅かに切り裂いていた。



 地下最深部の一歩手前、第7階層────



 この無明の層の全体が底なしに湛えている、地上のあらゆる光を貪り食う光の拒絶の魔導呪縛は、この深さに至ってはもはや物理的な質量と重圧を伴って、衣服の隙間から冒険者たちの肌を直にチクチクと刺してくる。



「………ここが、オルテさんが言っていた、魔力の流れがおかしくなる壁があるという第7層ですか……上の階層とは比べものにならないくらい、より一層空気が厳しそうですね」



 ミカのその小さな呟きの声は、空間を支配する凍りついた震える空気にそのまま吸い込まれるように、ひどく小さく弱々しかった。


 だが、そんな奈落の重圧を真っ正面から受けて前を行く大男の背中は、最初から何一つ変わらず、微塵の揺らぎも、歩幅の乱れすらも見せることはない。



「そうだな、光がさらに薄くなっている……おい副リーダー、そっちの調子はどうだ?」



 アロンは行く手の暗闇を見据えたまま、その肩越しに、すぐ近くにある相棒の気配へと向かって低く問いかける。



「ばっちりだ……では、そろそろ私も自分の足で歩くとするか……そこへ下ろしていいぞ」



 アロンの耳元に届いたリンカのその言葉は、いつも通りのどこか気だるげな響きを孕みながらも、けれど同時に、一流の探求者としての凛とした鋭いキレ味を色濃く混じらせていた。


 アロンはその場で力強く立ち止まると、リンカの言葉を1受け入れ、彼女の線の細い腰の輪郭を優しく支え、ゆっくりと冷たい地面の土の上へとその細い両足を下ろした。




 この十日間、地下の暗闇の中でずっと真横で見届けてきた、あまりにも歪な光景。

 だが、ミカの胸の内に溜まり続けていた純粋な疑問は、ついにこの第七階層で、限界を超えた。



「あの……前々からずっと思ってましたけど、一階層進むごとに、そうやっていちいち背負ったり地面へ下ろしたりするのって、めちゃくちゃめんどくさくないですか? どうせ体力がゼロになるなら、最初から最後までずっとアロンさんの背中に乗ったまま攻略していけばいいんじゃあ……」





第56話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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