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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第54話 体力0




「さてと……じゃあ、ダンジョンで腹も適度に減ったことだし、宿に帰る前に軽く何か腹に入れておくか」



 アロンは地上の生温かい風を感じながら、いつもの欠伸混じりにそう低く呟いた。



「私は、歩き疲れたから甘いものが食べたいな……おいミカ、この街で有名なスイーツは何かないのか?」



 アロンの広い背中の上で、リンカが催促するようにアロンの首筋から顔を覗かせて、後ろのミカへと問いかけた。



「はい! セイドウで有名な至高のスイーツと言えば、やっぱりグリブリ! これに限ります、これ以外にありません!!」



 ミカが、ようやく自分の知る地元の知識を役立てられると胸を張り、満面の笑顔で元気よく答える。



「……排便時の擬音みたいなスイーツだな」


「リンカさん!? 女の子が街の真ん中でいきなり何を言ってるんですか!?!??!」



 夕暮れの色に染まり始めたセイドウの美しい街路に、ミカのツッコミの絶叫が大きく響き渡った。

 通りすがりの住民たちが、一体何事かと不審そうにこちらを何度も振り返るが、リンカは一切の羞恥心を排した冷徹な無表情のまま、不思議そうに小首を傾げる。



「……で? そのブリブリとやらは、一体全体何なんだ?」


「グリブリです!!! グリーン・ブリザードの略ですよ!! 灼熱の荒野で採れる甘味サボテンの天然蜜をシャーベット状に細かく凍らせて、レモン果汁と合わせた最高の冷製デザートです!」


「ほほう、なるほど……柑橘の酸味と天然の甘みか、中々に美味そうな響きだな……よし、アロン。私のそれを食べるぞ。今すぐだ」



 リンカはアロンの肩口に顎を乗せたまま、もはや暗闇の奥で獲物を見つけた飢えた猛獣のような冷酷な目で、アロンの横顔をじっと凝視している。



「勝手な奴だ……まあいい、ミカ……そのブリブリとやらの店へ今すぐ俺たちを案内しろ」



 それから数分後、先頭を歩くミカの案内によって、目的のレストランの建物へと三人は到着。

 早速、入店しようと三人が足を揃えた、まさにその決定的な瞬間だった。



「おい!!!!お前たち、そこで何をやっているんだ!??」



 鼓膜を直接ビリビリと激しく揺らすような声。

 その主は、まさに自分たちがこれからブリブリを食べに向かおうとしていた店内から、木製の椅子を真後ろへと蹴り飛ばす凄まじい勢いで上体を立ち上げていた。



 それは他でもない、さっきまで彼らの無事を熱く祈っていたはずの、ギルド長オルテであった……





---





「オルテか……どうした? いきなりそんな、街のど真ん中で大声をあげて俺たちに近づいてくるなんて……何か不測の事態でも?」



 アロンは、耳をつんざくような絶叫を浴びせられたというのに、まるで遠くの路地裏で野良犬が小さく吠えたのを聞いたかのような圧倒的な無関心さで、退屈そうにそう問い返した。



「何かあったのか?………は、こっちのセリフだ馬鹿野郎!! なんでお前らが何食わぬ顔でここに並んでいるんだ!? まさか……お前ら、もう攻略してきたって言うのか!?」


 

 オルテの目は、驚愕とそして微かな「奇跡」への期待に血走っていた。

 だが、アロンから返ってきたのは、無慈悲な一言だった。



「いや……少しばかり歩き回ったらリンカが疲れてきてな。だから今日の分のノルマは終了で帰ってきたところだ」


「…………一階層で……回れ右して帰ってきた? ……え?…おい、待て…え?…なんで?」



 オルテの優秀なギルド長としての思考回路が、不条理の限界を迎えて完全に停止する。

 数秒の凍りついた沈黙の後、彼の震える唇から、ようやく絞り出すような掠れた声が漏れ出た。



「なぜも何も、俺は先ほどから言ってるじゃないか。疲れた、と」


「疲れた? ……一階層だけでか!?」



 オルテの問いに、アロンの目がスッと細くなった。

 温度のない、威圧的な視線。



「おい、今…副リーダーのことを馬鹿にするような発言をしたか?」


「馬鹿にって…………は?」


「私も今、その耳で明確に聞こえたぞ、アロン。この男、私のことを『第一層ごときで無様に体力が尽きる、赤子レベルの無様な女』だと罵倒した」


「言ってねぇよ!!!」



 アロンとリンカの二人による「完璧な被害妄想のコンビネーション」に、オルテのツッコミが炸裂した。



「なんだよ疲れたって! 一体全体どういうことだよ、説明しろ!! あとなんでお前は、さっきからさも当然の義務であるかのようにアロンの背中に背負われてるんだよ!!!」


「何度も同じことを俺に言わせるな。副リーダーの体力がゼロになったから、帰ってきた……それ以上の理由が必要か?」


「私の体力はゼロだからこそ、こうして背中に背負ってもらっているのだ。当然の権利だ」


「なんだその清々しいまでのドヤ顔!? 他人におんぶされてる奴する顔じゃないだろ」



 リンカのどこまでも清々しいまでの厚かましさと不敵な微笑みに、オルテは開いた口が完全に塞がらなくなっていた。



「そもそも第一層のあの一本道で体力ゼロって……嘘だろ? 出る魔物もそこまで狂暴でもなければ、まだダンジョンの入り口からの地上の明かりだって十分に差し込んでる場所なんだぞ?」


「……私はな、ただその場に立って、歩いているだけでも、疲れるんだ。何故なら私は、今もこの瞬間も重力という名の暴力を全身で真っ正面から受け止めているのだからな」


「辞めちまえ!! 冒険者!!!」


「まぁまぁまぁまぁまぁ!!!! オルテさん落ち着いて!! ほかのお客さんたちも見てますから一旦落ち着いて!! アロンさんもリンカさんも、そこまでに!!!」



 結局のところ、無明の層の第一層の攻略に関する詳細な報告は、このレストランで行われることになった。






 もちろん────オルテの奢りで。






第55話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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