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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第53話 オルテの本音




 アロンの残していったあの生意気な言葉は、なぜかあれからずっと、オルテの胸の真ん中に重く残り続けている。



 態度も最悪に悪く、美人を引き連れている、言わば、ムカつく生意気な冒険者。

 ……だが、あの男が掲げる言葉には、不思議とすべてひっくり返してくれそうな絶対の説得力が宿っていた。


 時計の針を見つめる。計算が正しければ、今頃アロンたちはこのセイドウの街の呪縛を解き明かすために。

 すべての悲劇の元凶である無明の層へと足を踏み入れ、命懸けの冷徹な攻略を本格的に開始しているはずの時間だ。




『消息不明になったら───その時は俺が、大笑いして盛大に葬式を挙げてやるよ』




 そんな風に自分たちを突き放すような冷たい言葉を吐いていたが……



「……やはり…………アイツらに死んでほしくはないな」



 オルテは誰もいないテーブル席で、静かにぽつりと呟いた。

 

 それはすべての治安を預かるセイドウのギルド長としての打算的なセリフなどではなく。

 ただの一人の、彼らの無事を願う人間としての、偽らざる本物の本音であった。



「今の俺には、祈ってやることしかできないが…………どうか……一人も欠けることなく、生きて地上へ帰ってきてくれ」



 脳裏に浮かび上がるのは、傲慢に笑うリーダーのアロンの顔。

 その隣で気だるげに佇む副リーダー、リンカの顔。

 そして、新米の女、ミカの顔。



 どうかあの三人の未来に、もう一度地上の生温かい光が降り注ぎますように、と。

 オルテが神に祈りを捧げ、窓の外へふと目を向けた、まさにその瞬間だった────









































 渦中の三人……アロン、リンカ、ミカが────

 軽い足取りでレストランのガラスの向こう側の通りを、三人並んでのんきに歩いているのが見えた。



「……そうそう、あんな風に、いつか笑顔で無事に街へ帰ってきてく────って、もう帰ってきた!!!???」



 ガシャーーーンと派手な音を立てて木製の椅子を真後ろへと蹴り飛ばす勢いで、全力でその場に立ち上がったのだった。





---





 セイドウの街路は、穏やかな午後の柔らかな日差しに包まれていた。



「あの、アロンさん、リンカさん……本当に、あんなにすぐ第1階層から帰ってきてしまってよかったんですか……?」



 ミカが、何度も名残惜しそうに後ろの荒野の方向を振り返りながら、不安げに小さな声を漏らした。


 その瞳には、決死の覚悟で挑んだはずの伝説の死地をまるで近所の散歩の途中でにわか雨に降られたかのような圧倒的な軽さで立ち去る二人への、隠しきれない困惑と戸惑いが色濃く浮かんでいる。



「良いも悪いもない。これが俺たちの、世界の規約に囚われない完璧なやり方だ」



 アロンは、その広い背中にぴったりと背負ったリンカの体重を微塵も感じさせない力強い足取りで、前を向いたまま淡々と答えた。



「今回のダンジョン攻略は、突入から攻略までのリアルタイムの速さを競ってるんじゃないんだ。ゆっくり確実に攻略した方が安全……それに、そろそろ副リーダーの体力が、底をつき始める頃合いだったしね」


「そうだ……体力が尽きた」



 アロンの肩口から漏れ出たリンカの声には、心地よい眠気に抗おうとする気だるさが色濃く混じっている。



「へぇ……結構安全を考慮して攻略していく感じのスタイルなんですね」




 不気味な第一層の調査を終え、常識であれば次はそのまま第二層の闇へ────


 誰もがそう思ったまさにその矢先に、何の未練もなく踵を返し、入り口へ戻るという前代未聞の徹底したマイペース行動。

 ミカは、先ほど暗い迷宮の中で起きたばかりの光景を思い出し、自分の小さな肩を思わずすくめた。



「……それにしても、本当に驚きましたよ。二階層への階段の手前で、いきなりアロンさんが何の前触れもなくリンカさんを背中に背負い始めだした時は、何事かと思いました」


「当然だろう。副リーダーの体力はすぐにゼロになるんだ」


「私の体力は幼児と同じだからな」


「……え、リンカさん……それって何か生まれつきの重い病弱な体質とか、そういう種類のものなんですか?」



 ミカの純粋な問いに、リンカはアロンの肩に顎を乗せたまま、誇らしげに鼻を鳴らした。



「そんな訳ないだろう? 私は生まれてこの方、風邪の一つすら罹ったことは一度もない。無駄な抵抗……つまり、生きる上での余計な運動を日常で一切しないからこそ、私の体内では免疫が最高純度のまま純粋培養されるんだよ」



 そのあまりにも堂々とした、「謎理論」を聞いた瞬間、ミカは張り詰めていた表情を崩し、思わずクスッと楽しそうに吹き出した。

 セイドウの街に到着してからずっと彼女の心を縛り付けていた、あの死地への恐ろしい緊張の糸が、拍子抜けするほどあっさりと心地よく解けていく。



 口を開けば豪快で、傲慢で、常に他人の心を逆なでするような態度をとる人────アロン。


 だが、その中身は驚くほどにどこまでも冷静であり、わずかな危険の芽を摘み取るためなら、変なプライドすら一瞬で捨てて即座に撤退を選ぶ。

 その戦況を見極める判断の速さと柔軟さは、ミカのこれまでの短い経験の想像を遥かに超えていた。



 そしてその隣には、ダンジョンでの緊張を一瞬でほぐしてくれる不思議な女性────リンカ。


 ミカに対して、迷宮の怖さが和らぐようなおめでたい冗談を何食わぬ顔で振りまいてくれる。

 その、いい意味で死地のピリついた空気を壊す発言のキレ味は、ミカのこれまでの価値観をある意味で大きく超えていた。


 ミカは、西日の差し込む美しい街路を歩きながら、胸の奥から湧き出た本音をぽつりと呟いた。



「……なんだかアロンさんたちって、思っていたよりもずっと……私の事を考えてくれているんですね」


「当たり前だ。死んでしまったら、何の意味も無くなるからな」



 アロンは決して後ろを振り返ることはせず、ただ前の一本道を見据えたまま、感情を排したぶっきらぼうな声でそう短く答えた。



「生きて五体満足で地上へ帰る……冒険者であるための基本中の基本だ。それができない奴は、もはや冒険者ですらない」



 リンカの声も、午後のセイドウの街の穏やかな気配の中へと、優しく静かに溶けていくのだった。





第54話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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