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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第52話 言葉




「くぅ〜〜〜!! これだよ、これこれこれ! まずは冷たいポタージュを飲み干して仕事のストレスで熱くなった身体の芯を優しく冷やし、直後に激辛のステーキで再び血流を爆発させて身体を熱くさせ、最後にこの極上のグリブリ(グリーン・ブリザードの略)が冷徹に冷やしてくれる……! この熱と冷の感覚が、最高にたまらん……!」



 オルテは木製の椅子に深く背中をもたれかけさせ、誰に見られるでもなく全身でくねくねと至福に悶えていた。


 その皺の刻まれた顔に浮かぶ表情は、セイドウの治安を預かる厳格なギルド長などでは断じてなく────

 ただただ、自分の大好物の美味いものを心の底から食べて、お腹も心も幸せいっぱいに満たされている、等身大の一人の男そのものであった。


 ギルド本部に山積みにされた極悪な激務の書類を放り投げてでも、このレストランでのほんのわずかな一言のひとときがあるからこそ。


 オルテは毎日の過酷な組織の運営を、限界を迎えながらも何とか今日まで続けていられると言っても、決して過言ではなかった。

 いや、むしろ逆に言わせてもらえば、もしもこの贅沢な名物グルメの時間が失われていたならば、オルテはギルド長の面倒くさい仕事など一週間も持たずにとっくの昔にどこかへ投げ出しているだろう。



 だがしかし────この単品の組み合わせ、財布への打撃が非常に高い。



 一般の冒険者たちや観光客、住民が群がるお昼のランチタイム中であれば、ギルドの予算でも賄えるほどにリーズナブルなセット価格でまとめて食べられるのだが……


 オルテがその過酷な仕事の合間を縫って、ようやくこの店に滑り込んで昼食を取れるのは、決まって一般の時間を大幅に過ぎた時間外の過疎タイム。



 当然、ランチタイムはとっくの昔に終了しており。


 テーブルに並ぶ極上の三品は、どれもこれも正規の単品価格で個別に頼むしか道は残されていない。

 そしてその単品の合計金額は、通常のランチタイムの倍ほどもする、主婦が白目を剥くほど高価な代物であった。



 しかし、オルテはメニュー表の数字を見ても全く気にすることなく、臆する素振りすら一切見せずに堂々とこれらを毎回単品でフル注文する。




 なぜなら、オルテはギルド長だから。


 なぜなら、オルテはこの巨大なセイドウの街の全権を握るギルド長だから。


 なぜなら、オルテは偉いギルド長だから。




 ……別に、街の最高権力者だからという不純な特権で、店側から特別に代金を安く割引してもらっているわけでは決してない。


 単純に、セイドウのトップであるギルド長は、毎月組織から貰える基本給料が驚くほどに良いのだ。

 むしろ、それだけの破格の給料が国から保証されていなければ、このセイドウに滞在する血気盛んで理不尽な冒険者たちの面倒くさい揉め事など、一秒たりとも見ていられるわけがない。



 オルテはスプーンでグリーン・ブリザードを最後の一口だけ贅沢にすくい。

 その繊細な緑の氷を口に含んだ瞬間、すべてのストレスから解放されたように優しく目を細めた。



「……はぁ……生き返る……。このために生きてるな、俺は……」



 ポツリと漏れ出た声は、まるで現世の激務を忘れて天国の上質な雲の上を味わっているかのようだった。


 このレストランの木製の扉を押し開けて一歩でも外に出れば、この幸せな至福のひとときはすべて夢のように終わりを告げ、またあの血生臭いギルド長室の書類の山へと戻らなければならない。

 だからこそ、オルテは理不尽な食事をすべて終えた後の、この静まり返った店内に漂う心地よい余韻の時間が大好きだった。



 目の前にある白い皿の上には、もうナイフですくい取れる料理は何一つとして残っていない。

 だが、自分の舌の細胞にまだ微かに残っているスパイスの残り味と、胸の奥深くにじんわりと広がっていく温かい満足感が、最高に心地よかった。



 透明なガラス越しに見える、昼下がりのセイドウの街の穏やかな景色───

 日差しを浴びながら、歩行者たちがゆっくりと通りを歩き、笑いながら会話し、互いに平穏を喜び合う姿。


 セイドウのトップとして、その当たり前の『日常』の営みを特等席からただ見守るのが、オルテは何よりも好きだったのだ。




 ……だが、無明の層が現れたここ一年で、セイドウの街の空気は決定的に変わってしまった。




 通りを歩く誰も彼もが、どこか心の奥底に暗い影を落としたような、怯えた絶望の表情で肩を落として歩いている。


 親しい者同士で無理に笑い合っていても、その目の奥だけは決して笑っていない。

 底なしのダンジョンが街に与える呪縛の影響は、目に見えない毒のように、セイドウの街全体へとじわじわと冷たく確実に広がっていた。





『……本心では、お前も、誰かに助けを乞うていたんじゃないか?』





 昨日、ギルド長室で傲慢なアロンに真っ正面から言い放たれた不躾な言葉が、再びオルテの胸の奥底にトゲのように深く突き刺さる。


 ガラスの表面にぼんやりと映り込む、激務で深く皺の刻まれた自分の顔。

 そのガラスの向こう側を、未来に影を落としたセイドウの街の人々が、今日も不安そうに足早に歩いていく。




 この街に生きる全員が、口には出さずとも、心の中でこの最悪な現状から救い出してくれる誰かの助けを求めている。



 そして────



 このセイドウを預かる最高責任者である自分自身もまた、その救いを求めて足掻いている哀れな人間の一人なのだと、今ならはっきりと自覚できた。


 昨日は、あまりにも自分の心の図星を完璧に突かれたからこそ、己のプライドを守るために大声を上げて怒鳴り散らしてしまったのだ。


 アロンの残していったあの言葉は、オルテの胸の真ん中に重く残り続けている。



 あれからずっと………



第53話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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