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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~探索編~
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第51話 セイドウ街の名物料理




 アロン、リンカ、ミカの三人は、地下第1階層の突き当たりにある、地下第2階層へと冷たく続く下りの石階段の正面へと辿り着いた。


 ここまでの道のりは楽であり、魔物も狂暴ではないため、ギルドに登録したての初心者冒険者であっても、息を切らすことなく何一つ苦労せずに安全に攻略できるほどだった。




 ───そう、その“冒険者”並みの、最低限のまともな体力さえ、その身にあればの話だが。




「…………おい、副リーダー。どうやら次の階層へ続く入り口は、あそこみたいだな」



 アロンが指先で、その目の前にある緩やかな下り階段の場所を退屈そうに指差す。

 それを見たミカは、ようやく次の階層へ進めるのだと、ぱっとその涙目の表情を明るく輝かせ、アロンたちの前に立つように勢いよく前へ出た。



「じゃあ……この勢いのまま、さらに奥にある地下二階層へと一気に進みましょうか!」




 しかし────




 その彼女の熱い気合の入った背後の真ん中で、アロンとリンカの二人が、まったく同時に何のためらいもなく、くるりとその踵を真後ろへと返した。



「じゃあここまでだな……帰るぞ」


「そうだな…もう体力0だ、背負え」




 くるり、と。




 本当に、まるで日差しの柔らかな日曜日の散歩の帰り道のような、恐ろしいほどの自然さとマイペースさのノリで、二人は今来たばかりの地下1階層の道を戻り始めた。



「……え……ええ、えぇぇぇぇ!? ちょ、ちょっと待ってくださいお二人とも!!?!!???」





────

───

──





 オルテは、本部の喧騒から遠く離れた街の一角にあるお気に入りのレストランで、少し遅い昼食を静かに食べていた。


 ギルド長という仕事は、通常の窓口職員がこなす事務作業などよりも、肉体的にも精神的にも遥かに激務の極みだ。

 山のように積み上がる公式の許可書類、各組織からの緊急報告、荒野の調査依頼、さらには血気盛んな冒険者たちが起こす暴力沙汰の仲裁────昼食の時間など、まともに確保できる日は普段の生活ではほとんど無いのが現実だった。



 ましてや今回は、アロンという者が無明の層へ潜るという異常事態が発生した。

 


 徹夜での情報集め、進入許可の資料整理、過去の消息不明者の記録の洗い直し……オルテが処理すべきタスクは、いつもの数倍という殺人的な仕事量にまで膨れ上がってしまったのだ。

 そのため、このランチタイムが大幅に遅れた昼食という時間だけは、オルテにとって“組織の重圧と激務をすべて忘れられる、唯一の至福の時間”なのであった。



 一般向けランチタイムは既に終了している。

 店内には、セイドウに住むマダムたちが、数人で行儀よく集まって優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる穏やかな空気が流れていた。

 そのマダムたちの高い笑い声が響く空間の中で、オルテは一人長椅子に深く腰掛け、運ばれてくる料理を誰にも邪魔されずに静かに味わっていた。




 ────セイドウ街の名物料理、三品。




 まず前菜としてテーブルの上に美しく運ばれてきたのは、スープ料理『オアシス・ポタージュ』。



 セイドウ近郊の過酷な地下水脈の奥深くからしか採れない、非常に希少な植物である“青藻”を贅沢に使った冷製スープだ。


 器の中に満ちた淡いエメラルド色の液面が、窓から差し込む陽の光を受けて、まるで本物の宝石のようにほんのりと美しく輝いている。

 銀のスプーンをそっと入れると、さらりとしたシルクのような滑らかな質感が、指先へ心地よく伝わってきた。



 それをゆっくりと口に含めば───

 驚くほどミルキーで優しく、それでいて荒野の塩分を補うようなほんのりとした塩味。

 豊かな海藻の濃厚な旨味が舌の細胞の隅々まで一気に広がり、喉をゆっくりと通る頃には、乾ききった体の奥底まで滋養となって染み渡っていく。


 荒野の乾燥した空気によって弱った肉体を内側から優しく癒す最高の滋養食としても扱われ、セイドウを訪れる凄腕の冒険者たちが「これ一杯で死にかけた体が完全に蘇る」と口を揃えて絶賛する、至高の一杯だ。




 次に、タイミングを見計らったように運ばれてきたのは、メインの主菜『砂塵ステーキ(サンドダスト・ステーキ)』。



 過酷な西の荒野に群れをなして生息する、強靭な肉体を持つ巨大獣「サンドバイソン」の新鮮な肩肉を使用した、豪快な肉料理だ。


 バイソンの肉は通常であれば顎が疲れるほど固い肉質だが、シェフの手による長時間の精密な低温燻製の手間をかけることで、ナイフが吸い込まれるほど驚くほど柔らかくなる。

 その極厚の肉の表面に、“砂塵スパイス”───荒野の限られた岩場にしか自生しない、燃えるような辛さの“レッドスコーチ唐辛子”をたっぷりとまぶし、限界まで熱した強火の鉄板で一気に焼き上げる。


 目の前の皿にどっしりと置かれたまさにその瞬間、スモーキーな香ばしい香りが肉汁と共に激しく立ち上り、目を閉じれば雄大な荒野の赤土の風景が脳裏にありありと浮かぶようだった。

 ナイフを斜めに入れると、肉塊は一切の抵抗なく滑らかに切れ、

 噛めば噛むほどに肉本来の野生的な旨味が口内ではち切れんばかりに溢れ出し、鼻腔を抜けていくのはワイルドな燻製の残り香。


 この街を訪れるすべての冒険者たちが「この肉を食べるためだけに、俺はわざわざセイドウへ来るんだ」と豪語するほどの名物メニューだ。




 そしてコースの最後に、絶妙な冷たさで運ばれてきたのはお楽しみのデザート……

 『サボテン蜜の冷製デザート “グリーン・ブリザード”』。



 灼熱の荒野に自生する、内部に膨大な水分を蓄えた“甘味サボテン”の芯から採れる極上の天然蜜をふんだんに使用。

 それを魔導技術によってシャーベット状に細かく凍らせ、もぎたてのフレッシュなレモン果汁と合わせた、清涼感あふれる爽やかな一品。


 小さなスプーンで優しくすくうと、淡い緑色の氷の結晶がきらきらと光を反射して輝く。

 それを舌の上に乗せた瞬間に、熱中症寸前だった体温がすっと心地よく下がるような、劇的な清涼感が全身の神経へと広がっていく。


 サボテン蜜特有の甘さはすっきりと控えめで、後味を引き締めるキレのある柑橘の酸味。

 激しい食事の後に、誰もが必ず追加で頼むという不動の人気トップメニューであり、それはギルド長であるオルテにとっても、決して例外ではなかった。



「くぅ〜〜〜!! これだよ、これこれこれ! まずは冷たいポタージュを飲み干して仕事のストレスで熱くなった身体の芯を優しく冷やし、直後に激辛のステーキで再び血流を爆発させて身体を熱くさせ、最後にこの極上のグリブリ(グリーン・ブリザードの略)が冷徹に冷やしてくれる……! この熱と冷の不条理な無限ループの感覚が、最高にたまらん……!」





第52話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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