第49話 侵入
「例えば、人間の住む家の大黒柱や、空間を支えている強固な固定礎石などを無闇に破壊すれば、確かに建物全体が崩壊する……だがしかし、この俺はダンジョンの魔力の流れや構造線を一瞥するだけで、ここが『破壊していい安全な壁』か『破壊してはならない危険な壁』かくらい、最初の1秒で完璧に判別がつくんだ」
アロンは目の前にある無明の層の立体模型を指先でコンコンと軽く叩きながら言う。
しかし……
「分かんねーよ、分かりたくねーよ、破壊していい場所なんて。ってか、そもそもダンジョンは公共のモノだ。それを壊すんじゃねーよ」
「それはそれだ」
「どれがそれだ」
アロンとオルテの口論が再びヒートアップしていく……
その状況に、ミカは両手を胸の前でぱたぱたさせながら、慌てて二人の間に割って入る。
「ストップ! その辺で終わりにしませんか!?アロンさんも今回はその破壊行為はできるだけしないって事で、ね?」
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───
──
「……はぁ、お前のそのふざけた破壊思想はひとまず置いておくとして、最後にもう一度だけギルド長として警告を言うぞ? 少しでも危険だ、これ以上は進めないと本能的に察知したら、プライドなんか捨ててすぐに帰還しろ。良いな? まだこれくらいなら大丈夫とか、俺なら持ちこたえられるとか、傲慢なことを絶対に思うなよ? 冒険者がダンジョンに潜る上での、絶対の第一の心がけを忘れるな」
オルテは目の前のアロンに向けて、諭すように低い声を絞り出した。
「第一の心がけ、か……ダンジョンに潜る上での第一の心がけって、一体なんだ?」
リンカは首を傾げ、隣にいるアロンに問う。
「“とりあえず探索”だ」
「“かもしれない探索”だ!!」
オルテがアロンの言葉に被せながら怒鳴る。
「いいか!? この曲がり角の先に狂暴な魔物が潜んでいるかもしれない、この床の下に即死級の毒罠があるかもしれない、この壁の奥に進んだら二度と出られない暗闇に閉じ込められるかもしれない……! 常に心がけながら、油断なく慎重に探索しろって話だ!! そんな基本中の基本、ギルドに登録したての初心者冒険者でも知ってるぞ!!!」
「うるさいかもしれない」
「ウザいかもしれないな」
アロンとリンカの二人は、微塵も動じる様子はなく真顔のまま、淡々と返す。
その瞬間───
オルテの額の真ん中に、見たこともないほど太い怒りの青筋がありありと浮かび上がった。
「お前ら二人、本当の本当に、今ここで俺の魔剣でまとめてブッ飛ばすぞ?」
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不毛な西の荒野に現れたダンジョン、無明の層……その入り口前。
時計の針が天を真っ直ぐに指す、時間はちょうど昼……
遮るもののない青空から降り注ぐ、まばゆい地上の暖かい陽の光が、荒野の吹き抜ける冷たい風にさらされていた三人の頬を、優しく穏やかに温める。
だが、その三人の眼前に立ちふさがる、巨大な石造りのアーチは、天からの光のすべてを内側の暗黒へと吸い尽くさんばかりに、まるで生きた人間を丸呑みにするために口を開けた巨大な飢えた獣のように、不気味に、静かに荒野の真ん中に佇んでいた。
一歩でもその境界線を越えれば、二度と生きては帰れないという奈落が、静寂の中で三人の影をじっと見下ろしている。
「……よし、ではそろそろ行こうか」
アロンはいつも通りに傲慢に胸を張って、だがその瞳の奥には確かな油断のない鋭さを宿して言った。
「そうだな」
「は、はい……っ! アロンさん、リンカさん、足手まといにならないように全力で後ろを付いていきます!」
アロンの言葉に、リンカが静かに頷き、ミカがその小さな拳をぎゅっと握りしめて必死に声を重ねる。
そして三人は、地上の温もりを背中に残したまま、ゆっくりと、光が一切届かない無明の層の暗闇の中へと、力強く足を踏み入れたのだった。
────ここは、光を不気味に吸い尽くす奈落の底、無明の層の地下第1階層。
かろうじて背後の入り口から不自然に差し込んでくる地上の淡い陽の光が、薄暗くうねった不穏な通路の先端を、弱々しく冷たく照らし出している。
周囲を囲む壁は、どこまでも無機質で硬質な灰色の岩肌。
足元の床は、長年にわたって数多の足跡で固く踏み固められただけのただの平坦な土。
内部の湿気は驚くほどに少なく、肌をなでる空気の温度はひどく不自然なほどにカラリと乾いていた。
───目に見える光景のすべては、一見すると、至ってどこにでもある普通のダンジョンそのものだった。
第50話は、【 17時10分 】に投稿いたします。
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それでは、次の更新でお会いしましょう。




