第48話 “破壊肯定派”と“破壊絶対反対派”
「……分かった……では、もう回りくどい質問は一切抜きにして、単刀直入に訊かせてもらう。
“何故”その怪しい“壁を破壊しない”」
「「……………は?」」
オルテとミカの二人が、寸分の狂いもなく同時に最高に素っ頓狂な困惑の声を上げた。
会議室の重苦しかった空気が、別の意味で一瞬にしてピタリと完全に停止する。
沈黙が支配した広い室内の真ん中、壁に掛けられた魔導時計のチクタクという無機質な秒針の音だけが、やけに大きく、不気味に響き渡っていた。
「おい……お前いま、壁を…………破壊、と言ったか……? おいおい…え? なーにを言ってるんだだ?」
「リンカさんって……やっぱり攻撃的な人……なんですか?」
その場にいる2人の人間から、同時に“頭のネジが吹き飛んだヤバい異常者”を見るような冷たい目を向けられるリンカ。
向けられた視線に対して、リンカは形の良い眉を不機嫌そうにひそめ、逆に迷惑そうに低い声で言葉を返す。
「おい……なんだ?なぜ私をそんな目で見る」
「リンカさん……あの…………普通の常識として、ダンジョンの壁を破壊したら、ダンジョン崩壊すると思うんですけど……」
ミカが怯えながら手を挙げながら話す。
その声は恐怖で引き攣ってはいたが、彼女が必死に主張しているその内容は、冒険者として至って真っ当な反応であった。
「そんなもの、全体が崩壊しない程度に、絶妙な加減で壊せば良いだけの話じゃないか?」
「はぁ…………」
その理屈に、オルテは今日一番の深いため息を盛大についた。
「あのなぁ……この世にはな、そんな一歩間違えたら、土砂に押し潰されて生き埋めになるような、狂った方法をとる命知らずの奴なんて、どこを探しても一人もいねーんだよ。もし万が一にいたとしても、それはただの自殺志願者か本物の精神異常者だ」
「…………ほーう、なるほどな」
リンカはオルテの激しい言葉を真っ正面から受け流し、ゆっくりと、冷徹な細い目で隣に座るアロンの横顔を見る。
その一連の流れるような動き見た瞬間───
オルテに、最悪な情景が、高速で鮮烈に生成されてしまった。
目の前のアロンが笑顔のまま壁を壊し、
凄まじい轟音と共に天井のすべてがガラガラと崩れ落ちる様を────
そんな光景が浮かび上がったのだ。
「おい……俺は最高に嫌な予感がしているんだが…………お前ら、一応確認だ……一応のな……する訳がないとは思うが、過去に別の迷宮で実際に壁や天井……壊したこと、あるか?」
「壁なんか日常茶飯事でコイツが壊してるぞ?この前は天井突き破ってたな」
「よし!!! 作戦は中止だッ!!!!」
リンカの無慈悲な暴露の言葉がオルテの耳に入った瞬間、
全力の叫び声でそう宣言した。
「最初から思想がかなり危ないテロリスト紛いの奴らだとは思ってはいたが、まさかここまでイかれた奴だったとはな……!ダンジョンの許可も取り消しだ、取り消し!!」
「ちょっと待て、それはおかしい」
「おかしいのはお前の頭だよ!何考えてたらダンジョンを壊す事を思いつくんだよ!!」
横で話を聞いていたミカもその通りだと言わんばかりに、首を上下に動かす。
「しかし破壊しなければ、問題は解決しないだろ?」
「その破壊で大惨事が引き起こるんだが?」
アロンとオルテの二人の激しい言い合いは、もはや組織としての合理的な議論などではなく、
“破壊肯定派”と“破壊絶対反対派”による、相容れない宗教戦争の構図そのものだった。
ミカはその間で右往左往し、リンカは腕を組んだまま無表情。
会議室の空気は、妙な熱気と疲労で満ちていた。
────そして、話し合いという名の、常識人による狂人への必死の説得は、ようやく一区切りの終わりを迎えた。
オルテは、自分の大切な規約をナメ腐ったアロンたちの完全にキレていた。
バン、バン、と長机を激しく叩く無骨な音が会議室の全体に響き渡り、並べられていた大量の資料がわずかに宙へと跳ね上がる。
だが、アロンとリンカは微塵も動じる様子はなく真顔のままだった。
「お前はさっきから生き埋めだの何だのと騒いでいるが、特定の壁や天井を少しばかり物理破壊した所で、ダンジョンが崩壊するわけがないだろう? お前はギルド長のくせに、何もダンジョンの本質に関して分かっていないんだな」
「なにを……」
オルテの深く刻まれた眉の端が、怒りでぴくりと激しく動く。
アロンはそれを無視して、淡々と……しかし妙に丁寧な言葉を続けた。
「例えば、人間の住む家の大黒柱や、空間を支えている強固な固定礎石などを無闇に破壊すれば、確かに建物全体が崩壊する……だがしかし、この俺はダンジョンの魔力の流れや構造を一瞥するだけで、ここが『破壊していい安全な壁』か『破壊してはならない危険な壁』かくらい、判別がつくんだ」
第49話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




