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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~逆オファー編~
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第43話 心理魔法使用の絶対条件




 店を一歩外へ出ると、夜の吹き抜ける冷たい夜風が3人の頬を静かに撫でた。


 セイドウの街灯の鈍い明かりが淡く広がり、アロンたちは長く伸びた影を引き連れて、静かに並んで歩き出す。



「じゃあ、アロンさん、リンカさん。私たちは明日、夜が明けたらそろそろあの“無明の層”の最深部へ直行するんですか?」



 ミカが、どこかこれからの冒険に期待を寄せるような、少し弾んだ高い声で無邪気に尋ねる。



「いや……ギルド長が、明日朝一に“無明の層”に関する情報をまとめてくれるっていう約束の話だからな」



 アロンは夜の道を歩きながら、淡々と答える。



「ダンジョンの構造答えを事前に聞いてから、安全に死地へ挑もうと考えている」


「へぇー、そうなんですか」


「あぁ……だからお前は明日の朝9時に、遅れずにギルドのロビーに来い」



 それだけを事務的に告げると、アロンは軽く右手を後ろへ振り、隣のリンカと共に夜の喧騒の奥へと歩き出す。


 ミカはその二人の大きな背中を静かに見送りながら、薄暗い闇の中で、表情の割れない顔で静かに深く頷いていた。





────

───

── 





 それからしばらくの間、お互いの足音だけが静かに響く無言のまま、宿泊先である宿屋へ向かって暗い夜道を歩くふたり。


 不穏な沈黙のなか、リンカがぽつりと、アロンにだけ聞こえるような低い口を開く。



「……で、リーダー。本当にミカをパーティーの仲間に入れて良かったのか? 誰が見ても、確かに戦力としては最高に弱そうで無能ではあるが」



 歩みを進めるアロンは、手元の魔導ランタンの光を見つめながら、細い目をさらに冷酷に細める。



「お前もあの女を見て、何か胸の奥に引っかかる節があったようだな……流石は副リーダー」


「お前“も”ということは、やはりお前も、あの女に対して何かしらの奇妙な違和感を感じ取っていたのか?」


 

 アロンは進む足を一歩として止めることなく、漆黒の前方の道を見つめたまま、声音の温度を冷たく落として答える。



「当然だろう。あいつが俺たちの目の前で披露して見せたあの魔法は────現代の最新の魔法理論上、絶対に実現不可能だという話だ」


「心理魔法のことか? 他人の脳内の記憶を読み取っていたが」



 リンカの声が、一瞬にしてプロの前衛としての低い警戒の色を帯びていく。

 冷たい夜の空気が、これからの地獄を予感させるように、ふたりの歩む空間の間に静かに沈み込んでいった。









 先ほどビストロの席でミカが自信満々に見せた、あの“心理魔法”────。


 一見すれば、対象となったリンカの昼間の行動を完璧に言い当て、場の全員を驚かせるに足る見事な奇跡の技だった。


 だが、アロンだけは、その瞬間から拭いきれない致命的な違和感を強固に覚えたままでいた。


 もしもそこにいるのが普通の凡百の冒険者ならば、彼女の能力に対して何一つとして疑問を持つことはないだろう。

 この世界の魔法の種類は多岐に渡り、個人の歪んだ特性や生まれ持った才能の波調によって、未知の属性が発現することなど日常茶飯事だからだ。


 だからこそ、ギルドの有象無象どもは誰もが「へえ、珍しい便利な魔法もあるもんだな」という薄い感想だけで、思考を放棄して済ませてしまう。



 だが、世界の常識よりも自身のほうが正しいと本気で思っているアロンという異常者だけは、決定的に違っていた────



 彼はミカの放ったその美しい術式の光の中に存在する、明確にして冷酷な“嘘のバグ”を、最初の1秒で完全に見抜いていた。



 アロンは世界のすべての魔法の術式を網羅しているわけではない。

 だが、目の前の人間が放った術が“この世界には絶対に存在し得ない偽物の魔法”であるかどうかを冷徹に判断するための、膨大な『魔法理論』の知識を、彼はその身に完璧に宿しているのだ。



 アロンは常に、現象を「おめでたい直感」ではなく、冷徹な“魔法理論の根拠”から逆算して考える。



 世界の魔法には、魔力の性質上、実現可能な領域と、神の規約によって絶対に不可能な領域の境界線が明確に引かれている。

 それは体内の魔力の構造、空間への術式の展開速度、そして干渉する対象の生体性質────そのすべてに、物理的な矛盾のない絶対的な魔法学的根拠が必要とされるからだ。



 例えば、現代の最高峰の魔法学において、実現不可能な絶対の魔法の代表例として広く知られているのが、



 『生身の生物を直接の対象とする、浮遊魔法』だ。





 浮遊魔法は“完全静止状態の物体に限り、浮力場を定着させることができる”という魔力原理に基づいている。

 人間のような生体は、常に内部で振動・血流・神経伝達などの活動を行っており、術式に必要な静的エネルギー条件を満たすことができない。

 その結果、浮遊魔法の力場は人体に定着せず、術式は即座に崩壊するか、対象を拒絶する作用を示す。

 よって、飛行船や浮遊具などの“非生物的かつ静止可能な構造体”には適応できるが、生身の人間に対しては理論的にも実用的にも適用不可能である───



 (西大陸魔法技能大学助教授 ナルミヤ 著 

 『理論魔法学原論:奇跡と幻想の排除による体系魔法の構築』より引用)





 ミカが食卓の上で披露してみせた、あの他人の心を読み取ることができる魔法……“心理魔法”────



 一見すれば、隠密の探知枠としてはこれ以上ないほどに珍しく、そして見事な魔法の奇跡だった。

 だが、魔法理論の深淵に立つアロンの目にとっては、決定的に違っていた。


 彼はすでに魔法学の観点から、彼女の放った奇跡の正体を完全に剥ぎ取っていた。

 それは魔法などでは決してない、巧妙に演出された、世界の理論に反するだけのただの「ペテン」だ。


 手品のように観客の視線を誘導し、あたかも超常の力があるかのように見せかけた、お粗末な規約違反の行為。


 他人の精神の波調を読み取る心理魔法そのものは、確かにこの大陸の歴史に実在はしている。

 だが、構造上の“絶対条件”が存在する。









































 ────対象となる物体に、直接自らの指先で触れなければならない。





第44話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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