第42話 心理魔法
「え、えーと……つまり、アロンさんは優秀で強い人じゃなくて、弱い人を仲間にしたいってことですか?」
「まぁ……端的に、デリカシーなくまとめると、だいたいそんな感じのニュアンスでOKだ」
「は、はぁ……」
長い沈黙の末に絞り出されたミカのその弱々しい返事は、もはやアロンの言葉に対する感想などではなく、目の前の狂人の生態を“確認”するためのものだった。
「だから最初に言ったろ? コイツの話をいちいち真に受けずに聞き流して構わないんだ」
リンカはアロンが熱弁を振るっている間に絶妙なタイミングで運ばれてきた、果実のソースが艶やかに彩られた食後のデザートを小さな銀のスプーンで上品に掬いながら、さらりとそう言った。
しかし口元は、アロンのいつものムーブを聞いて、安心したようにほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
「……で、お前は? 実際のところどうなんだ? 優秀なのか? 何か隠してるのか?」
アロンはデザートには目もくれず、椅子の背もたれに体を預けたまま静かに問いかける。
「い、いえ! 滅相もないです! 私はそんな、アロンさんが心配するような優秀な才能とか、世界を驚かせるような強い魔法の力なんて持っていません!」
審査の方向性を180度見誤ったミカは、自分が優秀ではないことを証明するために慌てて首を横に振り、両手をバタバタと軽く振って必死に全否定する。
その絵に描いたような頼りない反応に対して、アロンは少しだけ楽しそうに細い目をさらに細めた。
「ほう……そこまで堂々と自称するとは見所があるね。じゃあ、参考までに君が普段得意としている魔法の系統は一体何?」
その直球の問いに対して、ミカはすぐに大きく深呼吸をして表情を綺麗に整え、その薄い唇を開いた。
「私の得意な魔法、ですか……そうですね……」
大切な言葉を慎重に選ぶように、少しの沈黙の間を置いてから、目の前の二人の顔を見つめて言葉を続ける。
「私、実はこう見えて細々と占い師をやってるです。だから……他人の精神の波調に干渉する『心理魔法』が一番得意ですね」
「ほう、心理魔法か。治癒や攻撃魔法ではなく、精神に干渉する魔法……なかなかに珍しいな」
アロンの低く凪いだ声の中に、わずかながら明確な戦闘職としての興味の温度が混じる。
「面白そうだね、少しここでその魔法をやって見せてくれないかい?」
「は、はい……っ! やってみます!」
ミカは緊張のあまり勢いよく椅子から立ち上がりかけたが、レストランの静かな雰囲気にハッと気付き、すぐに落ち着いて座り直す。
そして、アロンからのプレッシャーから逃れるように、そっと隣のリンカの方へと視線を向けた。
リンカは手元のご褒美デザートのスプーンを美しい口元へと運びながら、一切の姿勢を崩さず、冷淡な目だけで正面のミカを見つめた。
「……私になのか」
少しだけ呆れたように眉をぴくりと上げるが、彼女はその不可思議な魔法の要求を拒否することはしなかった。
ミカは目の前に並ぶスイーツの香りを胸いっぱいに深く吸い込み、そっと両の目を閉じる。
震える細い指先を対面のリンカへと向け、静かに、丁寧にその手のひらをかざした。
数瞬の、息の詰まるような神秘的な沈黙────
そして、ゆっくりと目をあけたミカの薄い唇が、確信を持って動いた。
「なるほど、なるほど……リンカさん。あなた、今日のお昼頃に、アロンさんが買った甘いチュロスを食べていますね」
デザートを運ぼうとしていたリンカの細い指先の動きが、その場でピタッと完璧に停止する。
「ほぉ……なかなか見事に当たっているじゃないか」
隣で話を聞いていたアロンが、流れるようなその心理探知のキレ味に驚いたように細い目を丸くする。
「過去の行動の記憶の波を正確に読み取ったか……流石は占い師って言ったところだな」
リンカは手元のスプーンを白い皿の上へとコトンと静かに戻しながら、隣に座るアロンの正面へと向き直る。
「なかなか退屈を紛らわせるには面白い能力じゃないか、どうする?パーティーに仲間に入れるのか?」
そのリンカの問いかけの言葉はアロンの顔に向けられたものだったが───彼女の冷淡な瞳の奥には、これから起きるであろうことが、すでに100%見えているようだった。
アロンは相棒の視線を受け取り、フッと不敵に唇を吊り上げて軽く笑うと、正面で結果を待つミカへと視線を向けた。
「今度はその心理魔法とやらで、この俺が今頭の中で考えている思考を綺麗に読み取ってみろ。それが答えだ」
「は、はい……っ……!」
ミカはごくりと唾を飲み込み、再びその両の目を静かに閉じる。
今度は、底の割れない空気をまとう男───アロンの強固な心髄の奥底へと向けて、自らのすべての意識を集中させたのだった。
第43話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




