第41話 俺が優秀なのだから、有能な仲間など不必要
「………ふん。ならば、お前が完璧に覚えるまで、俺の偉大なる考えを何度でも目の前で言ってやろうじゃないか。ミカ君、君も心して聞くが良い」
アロンはソファの上でグッと姿勢を正し、ミカへと向き直る。
その瞬間、リンカはミカのすぐ耳元へとそっと寄せた。
「これからこいつの口から話す内容は、まぁただの『発作』だ。適当に相槌を打って聞き流せ」
すぐ側で囁かれたリンカの冷徹な言葉に、ミカの琥珀色の目が大きく見開かれる。
「君はこれまでの人生の中で、自分自身が優秀すぎて怖いと、そんな風に思ったことはないか?」
アロンは一切の冗談を排した本物の真顔で彼女へと問いかける。
「無いな。私より弱い奴など、この世には生まれたての赤ん坊くらいだ」
背後からのリンカの呟きに、一瞬だけピタッと不自然に黙り込む。
だが、続ける。
「…………同時にこう頭の中で考えたことはないか?」
「……?」
「パーティーを組んでダンジョンに挑む連中に対して───『それはリーダーの実力か、仲間の実力か、よく分からない』と」
「しかし……生まれたての赤ん坊と比べれば、確かにお前の言う通りかもしれんな。私は優秀すぎて怖いと……」
リンカは少しだけわざとらしく考えたふりをして顎を撫で、すぐにいつもの気だるげな声で答える。
だが、アロンはリンカの言葉を無視してそのまま滑らかに続ける。
「そんな日々を送っていた時、俺はついに一つの真理の考えに辿り着いたんだ」
「ちなみに、その赤ん坊相手なら、私は負ける気がしない」
その熱い語りに、これでもかと容赦なく割って入らせるリンカに、ついにアロンの口が完全に停止いた。
「……悪い、ミカ。少しだけ話を中断する」
アロンは目の前でフリーズしているミカに対して軽く丁寧に頭を下げると、冷たい視線をゆっくりと隣のリンカへと向けた。
「お前、さっきから聞いていて悲しくなる話を展開するのをやめろ」
「なんだ? 私は本当のことしか口にしていないぞ」
「それをやめろと言っているんだ……本当のことだと知っているからこそ、俺が悲しくなる」
リンカは呆れたように小さく肩をすくめ、弄んでいた銀のスプーンを皿の端にコトンと静かに置いた。
「……分かった、茶化して悪かった。もうこれ以上は何も言わんから、彼女にちゃんと続きを話してやれ」
「あぁ、よろしく頼む」
リンカのその言葉に背中をそっと押されるように、アロンはふんぬと姿勢を正し、再開した。
「……あー、すまないな、ミカ。どこまで話したか忘れてしまった」
「お前が“ついに一つの真理の考えに辿り着いた”という、ところからだ」
「そうだ、思い出した。俺はついに、答えに辿り着いたのだ……
『俺が優秀なのだから、有能な仲間など不必要』という、絶対の答えに」
「は、はぁ……そう、なんですか……?」
向けられたミカのその弱々しい返事は、完全に自身の常識のキャパシティを超え、思考の処理が追いついていないマヌケな声だった。
だが、アロンはそんな彼女のドン引きの様子など一切気にする様子もなく、さらに生き生きとした楽しそうな表情で語り続ける。
「優秀な仲間といても、俺が優秀とは思われない。無能、無個性、凡人、etc……そういった人材を採用し、勝利する事で俺自身が優秀である事実が絶対的なモノとなるのだ」
ミカはアロンのその突き抜けた理論を真っ正面から喰らってしまった……
故にしばらくの間、脳みそが完全にフリーズしてその場に固まっていた。
頼りなく目をパチパチと瞬かせ、小さな口を開けたまま化石のように固まっていたが、長い沈黙の末、引き攣った顔のままでようやく絞り出すような言葉がその唇から出る。
「え、えーと……つまり、アロンさんは、自分が一緒に戦うために優秀で強い人を探しているんじゃなくて……わざと弱くて使えない人を仲間にしたいってこと、ですか?」
「まぁ……端的に、デリカシーなくまとめると、だいたいそんな感じのニュアンスでOKだ」
「は、はぁ……」
第42話は、【 17時10分 】に投稿いたします。
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それでは、次の更新でお会いしましょう。




