第40話 お前は優秀な人間か?
「……家族、か。まぁ家族は大事だからな」
「……家族のためなら仕方ないな」
ふたりはそれ以上無駄な言葉を交わすことなく、目の前のミカが吐き出したあまりにも重苦しい家族への思いを、それぞれの胸の内で冷徹に受け止めていた。
「じゃ……じゃあ!! 私を、連れて行ってくれるんですか……!?」
一筋の希望の光を見出したかのように、ミカが勢いよく涙のまじった顔を上げる。
だが、アロンはその彼女の熱い熱量を静かに制するように、無骨な大きな右手を厳かに上げた。
「待て……君を我が栄誉あるパーティーに入れる上で、一つ……どうしても事前に聞いておきたい絶対の質問がある…ここが重要だ、これが一番重要なんだ」
男の声の調子が、これまでの呆れたトーンから一転して、底知れない冷徹なものへと激変する。
アロンのあまりの迫力に、ミカのすがりつくような表情が、まるで彫刻のように凍りついて固まる。
「仮にもSSSランクである俺のパーティーに足を足を踏み入れるんだ……今から俺が放つ次の質問に対して────お前は嘘偽りなく完璧に答えなくてはならない」
「し、質問……ですか……?」
「あぁ…今までも俺の前に現れた仲間にしても良さそうな冒険者に、この全く同じ質問を投げかけたんだがな……どいつもこいつも、自分のポテンシャルを隠して活躍しようとする、最悪な噓つきクズ野郎ばかりだったんだ」
「クズ野郎なのはお前では?」
「………」
リンカがわざとアロンに聞こえるようにポツリと呟くが、それを華麗に無視するアロン。
逆に、アロンのその真剣すぎる口調と、底の割れない眼差しを前にして、ミカは完全に蛇に睨まれた蛙のように息を呑む。
「案ずることは何もない」
リンカが温かい紅茶を再び唇に運び、喉を鳴らしながら、至極淡々と冷淡に告げる。
「コイツの質問の内容は、この世のすべての何よりも実にくだらない……お前は戦いそのものが完全な素人なのだろう?」
「は、はい……! 武器の握り方もまともに知りませんし、ダンジョンとかも立ち入るのも、人生で今回が初めてで……」
「なら、合格だ。何も問題はない。お前は満点だ」
リンカの放ったその全肯定の言葉の意味が、ミカの常識的な脳みそには、まったく理解ができなかった。
だが、そんな彼女の困惑を置き去りにしたまま、アロンは一切の冗談を排した本物の真顔のままで、質問を投げかけた────
「お前は優秀な人間か?」
「……はい?」
突拍子もないその不条理な言葉に、ミカの丸い目がパチパチと頼りなく瞬く。
が、目の前のアロンはふざける様子など一微塵も見せず、さらに真剣に言葉を続ける。
「例えば、他人にはない素晴らしい隠された魔力を持っているとか、本当は実力を隠しているとか、歴史上の英雄の末裔だとか、いざという時に本当は覚醒してめちゃくちゃ強いとか……そういうものが、あるか、ないか、その二択を今ここで聞いているんだ」
「え……あ、え?」
ミカの小さな口が、半開きのマヌケな形のままでピタリと止まる。
自分は今、一体何を聞かれているのか。
なぜそんな能力の低さを審査されるようなことを聞かれるのか。
彼女には、本当にまったく理解ができない。
「要するにコイツは、目立ちたがりの異常者なんだよ。自分より弱い奴を下に雇って、その無能さを見下して悦に浸りたいだけのクズって話」
リンカがスプーンを皿の端にカタンと静かに置きながら、横からさらりとその最悪な本質を告げる。
「おい、リンカ…人聞きの悪い言いがかりはやめろ。この高潔な俺が、そんな凡百の男が考えるような低俗でクズなマウントのために人材を選定しているわけがないだろう」
アロンが心底心外だとばかりに即座に大声で反論するが、リンカは形の良い眉をひとつとして動かさない。
「では、お前の中では一体どんな崇高な計算の考えがあると言うんだ?」
「そんなもの、お前にはこれまで何度も説明していると思うが?」
「悪いな。お前の発作は聞いていないんだ」
そのリンカの冷徹すぎる一言に、アロンの肩がわずかにガクンと落胆で落ちる。
ダメージは受けた。
だが、すぐに何事もなかったかのように立ち直る。
「………ふん。ならば、お前が完璧に覚えるまで、俺の偉大なる考えを何度でも目の前で言ってやろうじゃないか。ミカ君、君も心して聞くが良い」
アロンはソファの上でグッと姿勢を正し、ミカへと向き直る。
その瞬間、リンカはミカのすぐ耳元へとそっと寄せた。
「これからこいつの口から話す内容は、まぁただの『発作』だ。適当に相槌を打って聞き流せ」
第41話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




