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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~逆オファー編~
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第38話 ミカ




 メインディッシュの大きな皿が手際よく下げられ、木製のテーブルの上には新しく淹れられた香り高い紅茶の芳醇な香りと、まだ運ばれてはいない食後のスイーツの高雅な気配だけが静かに残されていた。


 アロンとリンカの二人は高級な椅子の背もたれに軽く体を預け、レストランの贅沢な食後の余韻に静かに浸っていた。

 そんな心地よい静寂の中、アロンがふと若い女へと視線を向ける。



「……で、君の名前は?」



 女は少し驚いたように丸い目をさらに丸くし、すぐにハッとしたように不自然に背筋を正す。



「は、はい……っ! 遅れて申し訳ありません、私の名前はミカです! よろしくお願いします!」



 アロンはふんぬと大着に頷きながら、隣で紅茶を優雅に啜るリンカを指先で示す。



「ミカか……俺はアロン、で、こっちの横にいる女が副リーダーのリンカだ」


「フフフ、よろしく」



 先ほどまで親の仇でも見るかのような絶対零度の殺気を放っていたリンカは何処へやら……

 リンカは紅茶の温かいカップを両手で持ったまま、髪を耳にかけ、これ以上ないほど柔らかくご機嫌な笑顔の表情でミカに挨拶を返す。

 

 そんな形式的なお互いの自己紹介が終わった瞬間、再びカタンと少しだけ冷たく張り詰める。

 アロンは手元のカップをソーサーに置き、まっすぐにミカの瞳に目を向けた。



「……で、お前がそこまでして俺たちに伝えたかった話というのは、一体全体なんだ?」



 ミカはアロンの鋭い視線の前に一瞬だけ躊躇し、乾いた喉を鳴らしたが、すぐに意を決したようにその小さな口を開く。



「はい……! さっき、あなたたちが“無明の層”への突入について話をされているのを、こっそり聞いてしまって……もしかして、本当の本当に、あの生きては帰れないダンジョンに挑むつもりなんですか?」


「ああ……さっきギルド長から、公式の許可もしっかりと取ってきた所だ、それが何だ?」



 アロンの躊躇のない言葉に、ミカの双眸が激しく揺れ動く。

 そして、次の瞬間────彼女は座っていた椅子をガタンと派手に後ろへ突き飛ばして立ち上がり、テーブルを挟んでアロンたちの前に、大きく深くその頭を下げた。



「不躾で、身の程知らずの最悪なお願いかもしれませんが……お願いします! 私を、あなたたちのパーティーに入れてください! 頼みます、一緒に無明の層へ行かせてください!!」



 叫んだ彼女の声は、恐怖と緊張でガタガタと酷く震えていた。

 だが、その頭を下げた細い背中からは、決して引かない強固な意志の温度が確かに伝わってきた。


 そのあまりにも理不尽で予想外な突撃の姿に、アロンは太い眉を少しだけ楽しそうに動かす。

 リンカは温かい紅茶を静かに口元へと運びながら、一切の声を出すことなく冷徹なミカのその必死な佇まいをじっと見つめていた。


 注文した極上のスイーツは、まだ二人のテーブルには来ない。

 だが、夜のテーブルの上には、先ほどまでの甘酸っぱい空気を一瞬で吹き飛ばすような、誰かの血の匂いが漂う“全く甘くない話”が、すでに不気味に並び始めていた。



「取り敢えず、その無様に下げた頭を上げろ。話はそこからだ」



 アロンの冷淡な声に、ミカはびくりと華奢な肩を揺らしながら、涙目のままゆっくりと顔を上げた。



「あ…は、はい!……っ、本当に取り乱して、すみません……」



 リンカは紅茶のカップを静かにテーブルに置き、ミカを見つめる。



「……どういうことだ?」


「え?」


「“無明の層に一緒に行きたい”などと、正気の沙汰とは思えない。お前も噂くらいは聞いたことあるだろう?なら危険であるということは嫌というほど知っているだろう?」


「………」


「これまでに挑戦したパーティーは、誰一人として戻らず、全員が例外なく消息不明になっている呪われたダンジョン……そんな自殺志願者の集まる最悪の場所に、なぜお前が自ら進んで行こうとする?まさかお前もこいつみたいに自殺願望があるのか?」


「失礼だな…俺は───」


「お前の発作は後だ」



 リンカの口から放たれたその問いの言葉は、恐ろしいほどに冷静で、だからこそ鋭く急所を突いていた。


 普通の実力のある冒険者でも、そんな危険なダンジョンに挑もうとしている狂ったパーティーなど、関わり合いたくないと全力で避けて逃げ出すはずだ。


 だが、目の前のミカは、逆に「同行させてほしい、荷物持ちでも何でもやる」と、自ら死地への切符を願い出ている。

 副リーダーとしてのリンカのその疑問は、至って常識的だった。



「あそこがどれだけ危険で、二度と戻れない場所なのかは、私だって痛いほど分かってます……! でも、私はどんな罠があろうと、死んでもあの闇の奥へ行かなくちゃいけないんです……っ!」



 ミカの声が、溢れ出る感情の波で激しく引き攣るように震える。

 だが、アロンを真っ正面から見つめるその琥珀色の瞳には、死への迷いよりも、すべてを投げ打つ覚悟の決意がガチガチに宿っていた。


 

「数か月前にダンジョンに潜ったパーティー……そこにいた、私の大好きな自慢の兄が……! 今も帰らない、兄の本当の安否が、私の手でどうしても知りたいんです!」





第39話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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