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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~逆オファー編~
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第37話 感情豊かなリンカ




「それ相応の凄惨な報いを受けてもらう…………アロンの手によってな」


「俺がやるのか……」


「当たり前だ。私に罰を与えるだけの力は持ち合わせていない…返り討ちに遭ってしまう」


「悲しいなぁ」




「ふふ…」




 目の前で繰り広げられるアロンとリンカの不条理な言い合いのやり取りに、緊張で張り詰めていた近くに立つ若い女は、ほんの一瞬だけ緊張を緩めて微笑んだ。


 彼らが交わす会話を、ただの仲の良い冒険者同士の冗談の応酬だと思ったのだ……



 しかし、それこそが彼女にとって、この夜最大の痛恨のミスだった。



「……なにを、ニヤニヤと笑っているんだ?」



 リンカ一言が、穏やかだったレストランの空気を一瞬にして冷酷にひっくり返す。

 スッと冷たい視線を上げて、正面の女の瞳をまっすぐに射抜いた。



「今の会話の、一体どこが面白かった? 面白いところなどあったか?」



 若い女はびくりと華奢な肩を大きく揺らし、全身の血の気が引くのを感じた。

 アロンはフォークに突き刺さった肉の切れ端を見つめ、心の中で静かにつぶやく。



「(怖い……)」



 逃げ場を失った女は、視線だけで助けを求めるように、隣に座るアロンの方へちらりと縋るような目を向ける。

 しかし、その救いを求める視線も、リンカの胸の内のさらなる火種に油を注ぐ結果となる。



「……人の話の最中に、一体どこを向いて目を泳がせているんだ?」



 リンカの低く冷淡な声が静かに響く。

 その声音の音だけで、彼女の絶対零度の瞳が、再び若い女の喉元を正確に捉えていた。



「お前と今ここで話してるのは、アロンではなくこの私だろう? 私に真っ直ぐに向かって、抱えている事情とやらを話せ。早く」



 もはや彼女には、このレストランの片隅から立ち去る退路は一ミリも残されてはいなかった。

 腰をかける優しい座る場所もなければ、これ以上の言い訳の言葉も一切通らない。


 この状況で許されるのは────ただ、自分の知るすべてを洗いざらい話すことだけだった。


 

「す、すみません!本当に、お二人のせっかくの素敵なデート中に話しかけてしまって! でも、私はどうしても────」









































「……待て」









































 唐突に突きつけられた、刃物のような鋭いリンカの言葉。

 若い女の必死の弁明の言葉が、途中で無理やりピタッと停止させられる。



「……え?」



 リンカの氷のようだった白磁の表情が、ここで初めてわずかに動いた。

 それはいつもの冷徹な無表情などではない。

 激しく揺れているような、奇妙な動揺だった。



「今……なんて言った?」



 女に向けて問いかけたそのリンカの声は、乾いてはいたが、確かに隠しきれないほどの巨大な“感情の温度”を帯びていた。



「……デート」



 リンカの薄い唇が、静かに、そして慈しむように若い女の口走った言葉をその場で反復する。



「お前、今私の目の前で、確かにそう口に出して言ったな」



 若い女はあまりの空気の変質に、びくりと肩を小さく震わせながら、消え入るような声で答える。



「は、はい……」



 リンカは不自然な一拍の沈黙を置き、やはり無表情のまま、けれどどこか弾んだ声音で問いを重ねる。



「お前の目には…私たちのこの食卓が……そうやって、その、デートの光景に見えるのか?」


「は、はぁ…………ち、違うんですか? どう見てもお似合いの……」



 若い女にとっては、答えるというよりは、あまりの恐怖からほぼ反射でその場を生き残るために返した言葉だった。









































 その言葉が応接室の空間に響いた瞬間、場はしばしの奇妙な沈黙に包まれる。



 そして────



「そうかそうか……そう見えたか」


 

 リンカは手元の肉をすべて綺麗に切り終えると、カタンと音を立てて皿の端に無造作にナイフを置いた。

 相変わらずその白い顔には人間らしい感情の色は浮かんでいない───のだが、

 その薄い口元に浮かんだ僅かな、満足げな笑みは、アロンに対する時と同様、どう逆立ちしても隠しきれてはいなかった。



「よし。お前、そこの空いている椅子をこっちへ持ってこい。そんな場所で立ち話のままじゃ、話す方も疲れるだろう」



「「は?」」



 声が、完璧に真っ正面から重なり合う。

 怯えていた若い女はおろか、アロンも同時に最高に素っ頓狂な困惑の声を漏らしていた。

 ついさっきまで、処刑すると言わんばかりの“氷点下の視線”を投げていた傲慢な女が、なぜか急に手のひらを返して、軽快な口調で客人を温かく迎え入れ始めている。


 リンカは自らの艶やかな髪をそっと細い耳にかけ、嬉しさを噛み締めるようにつぶやいた。



「なんなら、お前の分のメニューで何か好きな料理でも頼んでもいいぞ、奢りでな。今の私は、最高に機嫌が良いからな」



 アロンは銀のスプーンを右手に握りしめたまま、隣に座るリンカのその現金すぎる横顔をまじまじと見つめ、ようやく呆れ果てた言葉を漏らす。



「……お前、怒ってたんじゃないのか?」


「言っただろう?私は感情の起伏が、他人よりも豊かな女なんだよ」


「激し過ぎるだろ」



 リンカは自分の言いたいことだけを言って満足げにふんぬと頷き、琥珀色のスープの入ったグラスを口元へとお洒落に運んだ。





第話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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