表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~逆オファー編~
38/104

第33話 自然派のオーガニックか、搾りたてのフレッシュなレモンか




 重厚なギルドの門を出た正面の街路は、美しい夕暮れの茜色の光によって一変して染め上げられていた。

 柔らかく哀愁を帯びた光が白い石畳の全体を真っ直ぐに照らす色彩のなか、アロンとリンカの二人は、長く伸びた影を重ね合わせるようにぴったりと並んで歩いていく。



「……まったく、最後の最後までうるさい男だったな」



 アロンが首をすくめ、小さく呆れたような息を吐いてぼそりとつぶやく。



「まぁ、いいじゃないか。文句を言われようが怒鳴られようが、目的である攻略許可を綺麗にもぎ取れたんだからな」



 リンカは前方の道をまっすぐに見据えたまま、抑抑のない淡々とした口調で言葉を返す。

 その一言だけで綺麗に収まりそうな夕暮れの静かな空気を、アロンの意地悪く細められた視線が、横からつつくように捉えた。



「いや、お前もお前だ、副リーダー。リーダーのこの俺がオルテの正面であれだけ激しく煽られて対峙していたというのに、お前は向こうの言い分に納得するだけじゃなく、乗っかって……そこはもっと俺の味方なんだから応援しろ、応援」


「……がんばれ〜」



 リンカの口から漏れ出たのは、一切の起伏も感情も感じられない、完全なる棒読みだった。

 彼女は気だるげに口元に片手をそっと添える。

 傍から見るとただ形式だけを整えた、心の爪の先ほども籠っていない形式だけのエール。



「………」



 アロンは歩みを止めることなく、瞬きもせずに完全な無表情(真顔)になり、横の相棒をジロリと睨みつける。



「………」



 向けられた冷たい視線に対して、リンカもまた一微塵の迷いも動揺もなく、全く同じ冷徹な無表情を真っ正面からそっくりそのまま返し続けた。

 夕暮れの石畳の上で、十数秒間の、無言のままのシュールな沈黙が二人の間に続く。



「……よし、許す」

「当たり前だ。私の応援を無下に断るなど、この世界において大罪に値するからな」



 そんな、周囲の緊迫した『無明の層』の恐怖を置き去りにするような、いつものくだらないバカ話を交わしながら、アロンとリンカの二人は夕暮れのセイドウの街を悠然と練り歩いた。


 今からわざわざ他の小さな依頼クエストをこなす気力もなく、明日の朝一のギルド突入を前にして、別のダンジョンに向かう気も到底起きない。

 その最善の判断の結果、今日の残りの時間、アロンたちのスケジュールは完全な“オフ(休日)”となった。



「……さて、オフになったわけだが、今夜の夕飯はどうする? 俺とお前の舌を満足させる極上の店がいいな」


「この街の地理にはまだ疎いからな、そこら辺の道行く住民に直接聞いてみるか。ダンジョンの愚痴は多くとも、美味い店のおすすめくらいはいくつか知っているだろう」





────

───

──




 

 街の角で何人かの住人に声をかけ、いくつかの美味そうな店の候補がテーブルの上に挙がった。

 その選択肢の中で、二人が最終的に選んだのは───




 『ビストロ・ド・セイドウ・レストラン』。




 遠くの異国の情緒あふれる贅沢な空気を上品に纏ったそのレストランは、中央のギルド本部から、少しだけ喧騒を離れた静かな場所にひっそりと佇んでいた。


 店内の全体は、琥珀色の柔らかな間接照明の光によって美しく包み込まれていた。

 奥の特等席のテーブルに腰を下ろしたふたりは、手際よく注文の料理を済ませてから、ようやくこれからの戦いに向けて重い口を開く。



「……しかしギルドとしても本当に何度も死を覚悟して調査に向かっていたとはな」


「そうだな。ギルドの誇る最強の精鋭調査チームを何度も内部に飛ばしても、魔力にも構造にも、何一つとして異常や問題は見つからなかった。だが、その後に一般の冒険者が進入すると、破片すら残さず確実に消息不明となる……お前はこの底なしの矛盾をどう見る?」



 アロンは手元の空のコップを指先でトントンと静かになぞりながら、表情を変えずに冷淡に答えた。



「考えうる可能性は、大きく分けて二つだな……一つは、単純にギルドの連中の現場の調査と目ん玉の節穴具合が甘すぎた」


「ほう。すべての戦犯はギルドの無能さにあると、そう言い切るか?」


「調査するのも規約を作るのも、結局はただの不完全な人間だからな。見落としやバグがあるのも、仕方のない話だ……が、何回も念入りに調査しているのにもかかわらず、毎回同じ見落としがあるとすれば───」

 

 リンカが、運ばれてきた深い赤ワインのグラスを美しい指先でゆったりと傾けながら、唇の端を吊り上げて言った。



「よっぽどの、大自然を愛する自然派のオーガニックか、あるいは搾りたてのフレッシュなレモンかの、極端な二択ということだな」



「………」



「………」



「………」



「……はぁ。組織が無能(無農薬)か、あるいは裏で敵と繋がっているスパイ(酸っぱい)かだ……いちいち私の口から高度なジョークの解説をさせるな」


「お前が勝手に言い出したんだろう」



 そんな、相変わらずくだらない会話の中にも、この街を滅ぼそうとする絶対的異常は静かに潜んでいた。



 歴戦のギルドがどれだけ調査しても、内部からは何一つとしてデータも罠も出ない。

 だが、人間が入れば確実に犠牲者だけが出る。



 それこそが、ベラドンナたちが裏で糸を引き、明日アロンたちが挑むことになるダンジョン『無明の層』の冷たい本質だった。





リンカは実はアロン以上のボケ気質です。


第34話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ