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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~許可編~
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第31話 本心




「禁止の規約を敷く前に、この俺自身も何度も死を覚悟して、剣を握ってあの穴の奥深くへと向かった! ギルドの誇る最強の第一線調査チームも、何度も最新の装備を渡して出動させた! なのに……あの光の届かない闇の奥からは、生きた人間はおろか、死体の破片すらも、なにも出ないんだ!!」



 オルテ自身の喉を引き裂くような咆哮のあと、応接室の全体に冷たい絶対の沈黙が下りた。

 ソファーに身を預けたままのリンカは、立ち上がりもしない気だるげな動作のまま、アロンの喉元をじりじりと威圧していたその光り輝く“魔力剣”の刃を一瞥した。



「……その、命懸けの調査で、何一つとしてデータすら出ない、か」



 オルテの剣を握る右手に破れんばかりの力を込めたまま──血を吐き出すような悲痛な口調で、言葉を続けた。



「そうだ……調査チームの報告書では、“ただのどこにでもある普通のダンジョン”だった……! 内部の隅々まで何度も調べ尽くした! 魔力の異常もなし! 空間の歪みもなし! だからこそ、俺は苦渋の決断の末に、攻略禁止を一度は解いた」

 

「………」


「だが、一度中に入った連中は誰一人として地上へ帰ってこない! だからまた攻略禁止を敷く! そして再調査! また別の理由で許可! そしてまた全滅して禁止! 調査……許可……禁止……!! ──その血の滲むような繰り返しの間、俺は何十もの優秀な冒険者パーティーをあの穴へ送り出した! だが……その誰一人として、破片すら戻ることなく全員が消息不明となったんだ!!」



 アロンを睨みつけるオルテの、剣を握る無骨な手がガタガタと酷く震えている。

 男としての声音が、背負ってきた絶望の重さで完全に割れている。



「もう……俺たちギルドの力では、あの理不尽な闇に対してどうすることもできないんだ……!」



 限界を迎えた言葉と共に、突きつけられていた鋭利な魔力剣が静かに解け、青白い光の粒となって、応接室の空気の中へと虚しく消えていく。


 そして───溢れ出る無力感に耐えかねたように、オルテはそのまま冷たい石床へと両膝をついた。

もう怒声の叫び声もなく、ただ血が滲むほどに拳を強く握り締めて、白い地面を見つめてうつむく老練な姿。

 先ほどまで彼から放たれていたセイドウのギルド長としての威言も役職の覇気も、そのガタガタと震える哀れな背中には、今はただ暗い影を落としているだけだった。


 部屋の全体に漂うのは、押しつぶされそうなほどの重い“後悔”と“無力”。

 それは、どんな大仰な魔法の言葉よりも、深く、冷たく室内に響き渡った。





 そんな重苦しい沈黙の中、床に膝をついたまま動けないオルテの頭上へと、アロンのどこまでもマイペースで冷淡な声が静かに落ちてきた。



「……お前たちの力では、どうすることもできない、か」


 アロンはゆっくりと、まるで自分の名声を高めるためのパズルを組み合わせるように言葉を繋ぐ。



「だが、オルテ。そんなお前たちの無能な足踏みの状況に、完璧な終止符を打つ方法が、今この瞬間ここに存在するとするなら……お前はどうする?」



 アロンのその不敵な言葉に、床を見つめていたオルテの肩が、ほんのわずかに驚きで揺れた。



「……なにを、言っている……?」



 アロンはゆったりと身を預けたまま、オルテに向けて、まっすぐに底の割れない視線を送った。



「俺たちだ。最強の俺たちが、その誰も解き明かせなかった『無明の層』の謎を、指先一つで完全解明してやろうと言っているんだ」

 

 その躊躇のない絶対的な確信の言葉に、オルテの鋭い瞳が驚愕で見開かれる。



「お前は、さっきの俺の言葉を聞いていなかったのか……!? お前たちみたいに自分の強さに酔いしれて挑んでいった者たち全員……誰一人として地上へは戻ってこなかったんだぞ!」



 血の滲む拳を床についたまま、オルテは喉を震わせて叫ぶように言い放つ。



「俺は、もうこれ以上……自分の敷いた規約のせいで、若い冒険者たちが死ぬのを見るのは……絶対に嫌なんだ!」

 


 だが、アロンはその叫び声に一切動じることなく、至極淡々と、冷淡な正論を返した。



「では、この街のギルド長であるお前が、ここで“何も解決しないで指をくわえている”のが、組織としての正解なのか?」

 

 

 冷徹な言葉が、応接室の凍りついた空気をパチンと叩く。



「お前が本当に、守るべき一般の冒険者や住民のためを思うなら。……ここで引きこもるのではなく、命を懸けてでもその原因の完全解決を目指すべきじゃないのか?」


 

 部屋の空気が、これ以上ないほど張り詰めていく。

 アロンの正論のナイフの前に、オルテの床を殴りつけていた拳が、少しだけ力なく緩む。



「……本当の本心では、お前も、この最悪な状況を壊してくれる誰かに、心の底から助けを乞うていたんじゃないのか?」



 アロンの言葉は、静かだったが───だからこそ、オルテが一年間隠し続けてきた心の急所に、深く、鋭く突き刺さった。



「この狂った停滞の状況を、変えてくれる者……お前は待っていた。だから、ただの受付の手続きだというのに、わざわざ“自分から俺たちのツラを観に、足を運んだ”んだろ? この最悪な状況下でも、堂々と“無明の層”へ挑もうとしている俺たちを、見極めるためにな」

 


 図星を突かれたオルテは、耐えかねたようにゆっくりと床から顔を上げる。



「……お前たちなら、本当にできるというのか? ギルドの総力を挙げてもダメだったあの不条理を、お前たち二人だけで完全解決できるとでもいうのか?」



 アロンは一微塵の躊躇もなく、ニヤリと不敵に唇を吊り上げて言い切った。



「あぁ、もちろん」


 

 その絶対的な確信に満ちた強い声が、ギルド長の瞳を、今度こそ大きく激しく揺らす。


 

「……いや、それでも、やはり信用ならん」



 オルテの声に、深い哀しみと、諦めの色が歪に混じる。



「何度も言うが、お前たちみたいに自信に満ち溢れた冒険者を、俺は痛いほどに見てきたんだ……。だが、現実の結末は全員、二度と戻ってこない。……ダンジョンの現実は、お前たちが思っているほど甘くはないんだよ」


「お前の安い信用なんて、俺たちに必要ない」



 アロンは視線を逸らさずに、喉元にいた魔力剣の残熱を睨みつけ、最後の決定的な言葉を告げる。



「俺たちに必要なのは、お前の“許可”……ただそれだけだ。それさえあれば、俺たちは自分の足でどこまでも進める」



 そして───応接室の全体に響き渡るように、低く、だがはっきりと……



「お前はただただ、俺たちの成功の知らせをこの安全なギルドの特等席で、ふんぞり返りながら優雅に待てばいい例え俺たちが失敗したとしても、お前たちギルドからすれば、ただ“言うことを聞かない生意気な冒険者が一組、世界から静かに消えただけ”……そうだろ?」





第32話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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