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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~許可編~
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第27話 下りない許可




「無明の層だ」



 アロンの口から放たれたその一言で、受付嬢の顔から人間らしい一切の笑みの表情が完全に消え去った。


 ほんの数秒間、彼女の目が動揺で泳ぐことすらなく、ただその周囲の空間だけが物理的にピタリと“止まった”かのように静止する。



「……え? もしかして寝てる?俺は睡眠魔法なんてかけてないけど」



 アロンが軽く声をかけると、受付嬢ははっと我に返ったように、ガタガタと背筋を不自然に伸ばす。



「あっ……も、申し訳ありませんっ! こちらの聞き間違いの可能性がございますので、も、もう一度だけ申請のダンジョン名をお願いします!」


 

 乾いた喉から言葉を必死に絞り出すように繰り返すその痛々しい姿を、リンカは背後から静かに見つめていた。


 氷のような表情は一切変えず、ただ彼女の空気が一瞬で重く揺れ動いた気配を感じ取った。



「……だから、入ったら誰も帰ってこないという『無明の層』の攻略許可が欲しいのだが」



 再び、受付嬢の全身が彫刻のように静止する。

 だが、今度は、プロとして少しだけ早く硬直から復帰した。だが、アロンを映すその怯えた瞳の奥には、隠しきれないわずかな震えが宿っていた。



「も、申し訳ございません……上への確認が必要となりますので、少々そのままでお待ちください」



 そう言って、彼女は書類を抱えたまま、緊張で肩を強張らせて足早にバックヤードの暗い扉へと消えていく。

 その去り際の小刻みな足音は、まるで床に魔導爆薬でも仕掛けられていて、いつ爆発するか怯えているかのように、ギルドの石床に不自然に高く鳴り響いていた。



「……なんだ、どうしたんだ?もしかして俺のあふれ出ている風格に気圧されて、腹でも壊したのかな?」



 受付の背後にある重厚な木製の扉が静かに閉まってから数十秒、アロンは無人の窓口の前で腕をがっしりと組み、退屈そうにぼそりと漏らす。



「まぁ……これから死地へ向かうと言い出した狂人を前にして、あの反応になるのも、組織の人間としては無理はないだろう」



 リンカは冷たい壁にそっと背を預けながら、視線をアロンから逸らさずに淡々と答えた。



「ほう? お前、何か察したようだな、副リーダー」


「分からないのか? 無明の層は、これまでに何度も凄腕のパーティーが何度も攻略を試みられたが、その全てのパーティーが一人残らず消息不明になっている…言わば絶対禁忌のダンジョンといっても差し支えない」


「それが、俺の申請に関係あるの?」


「大ありだ。そんな全滅確定の最悪の状況で、また新しい冒険者の命をドカドカと送り出すと思うか? ギルド側が」


「なるほど……確かに…ただ無駄死にさせるのは合理的じゃないね」


「危険性が明白なのに、何の見返りもなく許可を出すような愚かな組織ではないからな、ギルドという場所は」



 リンカは確信を込めて、そう言い切る。



「あらかた、“奥から偉そうなギルド長が直接説得しに窓口へ来る”だろうな」



 アロンは頷きながら、カウンターに残された古い書類の端を、ぼんやりと指先でなぞる。



「なるほど、なるほど……ギルド長自ら俺の顔を拝みに来ると……俺のオーラによって来たってわけか」



 バックヤードの重い扉が、再び静かに開いた。



 だが、冷たい空気と共に戻ってきたのは────



 先ほどの、顔を青ざめさせた受付嬢、ただひとりだけだった。

 アロンとリンカの二人の視線が、同時にその一人の影へとぴたりと止まる。



「……ギルド長はどうした。一人じゃないか」


「別に私は、“ギルド長が100%来る”とは断定していない。ただの可能性の話を話しただけだ…だからこっちに怒るな」



 受付嬢はカウンターの前まで戻ると、深く、申し訳なさそうに頭を下げる。

 その整えられた表情の裏には、明らかな気まずさと、何かを隠すような歪な不穏さが滲み出ていた。



「大変お待たせいたしました……ご提示いただきました“無明の層”への攻略許可につきましてですが、誠に申し訳ございません。現在そちらのダンジョンにつきましては、許可申請は一切受け付けておりません……本当に、申し訳ありません」



 静かに、けれど逃げ道の無い明確な言葉で、しっかりと断られた。



「……ほらな、言った通りだろう」



 リンカは再び腕を組みながら、アロンの呆然とした横顔を冷ややかな目で見つめる。



「まぁ……組織としての対応としては、予想通りの反応だ」


「“私の”合理的な予想通りだな、リーダー」


「……そう、お前の言う通り……だが、副リーダー。俺はそんな規約の一本や二本で、簡単にそこで折れて帰るような安いタイプではないんだ」



 リンカのやり切ったようなわずかなドヤ顔を鮮やかにスルーし、アロンは正面の受付嬢へと力強く向き直る。



「おい、ここのギルドの偉いやつ……ギルド長と直接話をさせてくれ。俺を見れば話は変わる」



 アロンのその明らかな傲慢発言に対して、受付嬢は一瞬だけ、憐れむように細い目をさらに細め───だが次の瞬間には、まるで機械のように事務的な表情へと綺麗に切り替えた。



「……ギルド長との直接の面談ですね。分かりました、規約に基づき案内いたします、こちらへどうぞ」



 それは、まるで“アロンがそうやって反発してくることを、最初から全て読んでいた”と言わんばかりの、恐ろしく滑らかな態度だった。

 最初からこうなることを全て悟っていたかのような受付嬢の口調と迅速な応対に、アロンはわずかに眉をひそめる。



「……なんだ? 断られるとおもっていたのだが、やけにあっさりだな」


「まるで、お前が引き下がらずに奥へ進みたがるのを、裏で誰かが完璧に計算して待っているようだな」



 リンカはバックヤードへと続く暗い通路を見つめながら、目線を逸らさず、軽く不穏につぶやいた。





奥へと案内されるアロンとリンカ……


第28話は、本日夕方【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、夕方の更新でお会いしましょう。


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