表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~許可編~
28/101

第23話 明かりが届かない場所

第4章です!!




暗い過去と強さの関係は、古くから語られてきた。


失った者は、守る力を得る。

裏切られた者は、信じる力を鍛える。

否定された者は、証明する力を磨く。

拒絶された者は、世界を拒絶する力を持つようになる。



痛みは、魔力を濃くする。

怒りは、術式を鋭くする。

孤独は、判断を速くする。

喪失は、覚悟を深くする。



人は過去を背負い、過去に意味を求める。

その痛みが深ければ深いほど、その力は強くなる。

その喪失が大きければ大きいほど、その意志は揺るがない。

過去が重ければ重いほど、立ち上がる姿は美しく、戦う姿は尊く見える。



強さは痛みの証明であり、過去の重さの代償であると人々は疑わない。

誰もが自分の傷を誇り、誰もが他人の無傷を疑う。



無傷の者は、過去を隠していると思われる。

何も背負っていない者は、何も乗り越えていないと見なされる。

そして、何も失っていない者が強くあることは、どこか不誠実に映る。

それは、苦しみを経た者たちの努力を否定するように見えるからだ。

だから人は、こう信じるようになる。



強者であるためには、まず苦しんでいなければならない────









































だが、必ずしもその限りではない。







 息が、あまりにも荒い……


 極限の疲弊によって視界はガタガタと酷く揺れて、瞳に映る不気味な光がドス黒く滲む。

 静まり返った暗闇の中、自分自身の途切れ途切れの悲痛な呼吸音しか聞こえないはずの空間なのに、鼓膜の奥だけは、先ほどまで絶叫を上げていた誰かの凄惨な悲鳴の残響によって、今もなお熱く焼かれていた。



「……おい、待てよ……! なんだよ、これ……っ! なんなんだよ、お前……!!」



 闇の奥に向けて叫ぶ俺の声には、底知れない恐怖の震えと、絶望に掠れた擦れ声が歪に混じり合っていた。


 だがもう、その必死の叫び声に対して、まともに応じる仲間は一人として残されてはいない。

 冷たい石床の上には、血塗れになって転がる無惨な身体。粉々にバラバラになった無機質な金属装備。


 そして、もはや生前の原型の欠片すら残っていない哀れな肉塊────

 つい先ほどまで自分が誇り高く率いていた俺の仲間だった者たちの無惨な成れの果てだった。



「っ、く……!」



 俺は血に濡れた地面に辛うじて片肘を突きながら、ずるりと重い体を這わせて前方の闇を激しく睨みつける。

 自分の右腕は、すでに断たれていた。

 そればかりか左脚の膝下も完全に失われ、傷口からとめどなく溢れ出る血が止まる気配すら一微塵もない。



 体内の魔力は完全に空っぽ。

 傷を塞ぐ回復の術も、奇跡を叫ぶ声すらも、俺の身体にはもう一滴も残されてはいなかった。



 自分は、間違いなくここで惨めに終わるのだ。

 力尽きて暗闇に消える者として、無数に転がる死体の側に、静かに並べられるだけ。



 ……そうして、己の意識が途切れる最後に、呪詛を込めて睨みつけるは────

 目の前にただ静かに佇む一人の女。



 さっきまで、生死を共にする仲間だったはずの女。

 ともにこの最悪の未踏のダンジョン……“無明の層”へ足を踏み入れたはずの女。

 だが、今その女は、床に転がる俺の醜態に対して、何の感情も、哀れみすら浮かべぬ氷の顔で、ただ冷酷にこちらを見下ろしている。


 俺はもう、喉から掠れた声すら絞り出すことはできなかった。

 ただ、狂いそうな両の眼だけで、彼女の無関心に問いかけた。



 “なぜ”自分たちを裏切ったのかと。

 “どうして”こんな残酷な真似ができるのかと。



 ……だが、その問いに対する答えは最後まで俺の耳に届かないまま、冷たい絶対の暗闇が、俺の細い視界をゆっくりと完全に覆いはじめた。





─────

────

──




 その巨大な拠点の街の空気は、ほんの1年前まで、どこまでも美しく“澄んでいた”。


 昼時には眩い陽光が活気ある路地の隅々を満たし、夜を迎えば優しい魔導の灯りが人々の穏やかな眠りを静かに撫でていた。

 行き交う人々の笑顔に暗い疑念の色はなく、市場に響く商人の威勢のいい声にも、誰かを陥れるような刃の気配は微塵もなかった。


 それが、今やどうだ。この変わり果てた有り様は。



 『セイドウ』



 かつて近隣の国々から「平穏と清潔の街」とまで称えられ、誰もが憧れた西方の栄華ある拠点都市は、今では不自然なほどに重苦しい沈黙を、ガランとした街路の全体に漂わせていた。

 

 そう、この栄えた街の天秤が急激に傾いた理由は、たった一つ。

 街から西の不毛な荒野へ数キロほど進んだ先。そこにぽっかりと、世界を睨むように“空いた巨大な奈落の穴”がある。

 その底知れない大穴の名を、集まる冒険者たちは恐怖を込めてこう呼ぶのだった。




 無明の層────




 そう名付けられた理由は極めて単純、そして圧倒的だ。

 内部には、世界のいかなる光も届かないのだ。



 天から降り注ぐ太陽の光が────魔術師が放つ眩い明かりのすべてが、その大穴の闇に吸い尽くされる。



 持ち込んだあらゆる明かりが“一切効かない”という、ただそれだけの理不尽な環境のせいで、多くの優秀な探索者たちが、二度と地上へ戻ることなく闇に失われた。



 名も、そうして街の恐怖と共に定着した。

 「無明」とは、すなわち何も見えぬということ。目に映る闇に光を奪われ、その心の奥底までを冷酷に喰われるということ。




第24話は、本日夕方【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、この先の毎日更新の波に備えて、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、夕方の更新でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ