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第21話 贖いの時




 街の門をくぐった瞬間、アロンは天に向かって首を仰け反らせた。



「……暑い。暑すぎるぞ……服の中、汗でびっしょびしょだ……」


「……宿に戻ったら風呂だ、アロン。今この瞬間、命より優先されるのは風呂。風呂以外、考えられない」



 二人は完全に“燃え尽きた”ような足取りで、街の通りを歩いていた。

 誰が見てもそれは“ダンジョン帰りの冒険者”というより“サウナに連続20時間放り込まれた人間”の表情だった。


 そのまま、よろよろといつもの宿屋へ。

 二人が借りている部屋は一室構成。風呂完備。家具は必要最低限。つまり、最適解。


 宿に入って靴を脱ぐ暇も惜しいといった様子で、アロンは襟元をひっぱりながら呟く。



「……水風呂でもいいな。氷くれ。全部の」


「それ風呂じゃなくて、拷問だぞ」


「そっちのほうが生き返る……」



 そんな会話を交わしながら、リンカは足元の荷物を置き、軽くタオルを肩にかけて振り向く。



「……で、どうする?…一緒に入るのか?」



 アロンは壁にもたれかかりながら、うっすら目を閉じて答えた。



「ああ。お前の風呂は毎回やたら長いしな……今日は効率重視でいこう」


「一緒に入ると言うのに、なんだその態度は」


「いや、嬉しいぞ……お前の裸が見られて……大歓喜だ……」


「おい、疲れに任せてとんでもないことを口走るな。寝言は寝て言え」


「むしろこのまま寝たい。風呂の中で」


「……溺れる瞬間は見届けてやる」



 そんな塩気のあるやりとりを交わしつつ、ふたりは静かに浴場の扉を開けた。


 湯気の向こう、しばしの安息がそこにはあった。





---





 エンバリ街・グラン・オルディネールの一室。鏡台の前で、レダは凄まじい勢いで身支度を整えていた。



「なんでよ……!なんであのふたり、生きてるのよ!!」



 声は掠れ、目は見開かれ、手元は震えていた。



「生き埋めにしたはずでしょ!?転送陣も階段も全部、全部爆破したのに!!死ぬ以外に選択肢なかったでしょ!!?!」



 鏡の中に映る自分自身の顔が、怒りで歪む。

 まるで“生存報告”そのものが自分の尊厳を踏みにじったかのように、レダは咆哮する。



「……いいわ、もう……生き埋めじゃ甘かったってことなのよね!?そうよ!!天がどうとか希望がどうとか────最期を見届けなかった私が愚かだったのよ!!」



 目が、紅く染まっていく。



「だったら……今度こそ、私が直接!この手で殺してやるだけ……アイツらの宿ごとまとめて、吹き飛ばしてやるわ!!!」



 満身に怒りを纏ったその瞬間────


 


「そんなに大声出して……何を企んでいるのかしら?」


 


 背後から届いた声は、あまりに静かだった。

 それが逆に、レダの全身に寒気を走らせた。


 ぶわ、と身体中の毛穴から汗が吹き出す。

 背筋が凍り、声が出なくなる。


 ゆっくりと、まるで操られるように振り返ると────











































 そこにいた。



 漆黒のドレス。白磁の肌。血のように赤い口紅。

 何も持たず、何も構えていないのに、まるで“全方位から銃口を突きつけられている”かのような存在感。



「ベ………ベラ……ドンナ」



 その背後には、無言のまま佇む数人の部下たち。

 誰もが目を合わせようとせず、ただレダだけを正面から見据えていた。



「私で良ければ────手伝いましょうかね、レダさん」



 声に笑みはあった。

 だが目には、完全なる“支配”が宿っていた。



「ち、違うのよ……っ! な、何を聞かされてるのか知らないけど……ご、誤解よ! 私は、私は何もしてないっ……!」



 豪華なホテルの一室。

 レダは絨毯の上を這うように後ずさりながら、顔を引きつらせていた。

 脂汗がこめかみから流れ落ち、目は完全に焦点を失っていた。



「悪いのは……そう、アイツらよ! 全部、全部アイツら! 私は知らない、知らな────っ」


 


 ────ドン


 


 小さな破裂音とともに、レダの両膝から下が“消えた”。

 血飛沫がじわりと絨毯に染み、身体が傾ぐ。



「ギィ……あああああああああああああああああああああっっ!!!!!」



 床を転がる。爪を割りながら、何かを掴もうと手を伸ばす。

 だが誰も救いの手は差し出さない。


 ベラドンナが、ゆっくりとその顔を覗き込むようにしゃがみ込む。

 そして、血に濡れた赤色の髪を指先で掴み、無造作に引き上げた。



「誤解?」



 その声は、まるで咎めも疑いもない。だが、温度もなかった。



「知らない?してない?それ……私にとっては、どうでもいいことなの」



 レダの唇がかすかに震えるが、もう言葉は出ない。

 声帯が恐怖で締め付けられていた。



「私が興味あるのは、ただ一つ───たった一つの事実」



 ベラドンナは、目元を一切歪めることなく、呟いた。



「仲介人はね、“信用”が命なの。冒険者との信頼だけで成り立っていると言っても過言じゃないの」



 レダの喉が、ごくりと震える。

 痛みより、恐怖が身体を支配していた。



「……お前は、私の信用を“汚した”」



 空気が沈黙に沈む。

 音は一切なかった。時間すら止まったように────












































「贖え」




3章最終話の第22話は、本日【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、夕方の更新でお会いしましょう。

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