第22話 オレンジジュース
3章ラストです!!
「ふい〜〜……この瞬間が至極と言ってもいい」
アロンはそう言いながら、ベッドの上にダイブした。全身の関節が布団に吸い込まれるように沈み込む。
「全くだ……」
リンカもタオルを頭にかけたまま、アロンの横に崩れ落ちるように腰を下ろした。
「私とお前とで入るには狭かったが……まあ、それも悪くはない」
「いい湯だったな……命の残り香まで浸かった気分だ」
蒸気が抜け、照明がやわらかく灯る部屋には、ルームサービスで届いたフルーツの盛り合わせが広げられている。
パインの香り、瑞々しいスイカ、そして中央に堂々と輝くオレンジ。
「しかし、あれだな……馬鹿みたいな仕事だったな」
「同意しかない。次から意味不明な事を言い出す依頼主”はNGいれとけ……ってお前、そのオレンジ……それは私のだ」
「ん?何か言ったか───」
「食べるな。おい。食べるなと言ってるだろ…出せ。今すぐ出せ。それ、私が狙ってたやつだ」
「いや…すでに口に……」
「問題ない、さっさと出せ。出さないなら無理矢理口の中に手を突っ込むぞ」
そんなくだらない攻防が続いていたその時────
コン、コン……
窓ガラスが、何かに軽く叩かれた。
「ん?」
アロンがフルーツ越しに目線を向ける。
カーテンの向こう、夜の空気に紛れるように羽ばたく、小さな影。
「魔導鳥……? この羽形……これは……」
アロンは立ち上がり、窓を開けた。
入ってきたのは、魔力で生成された鳥。滑らかな羽、くちばしに刻印。そして瞳に微かな揺らぎ。
「……間違いない。ベラドンナの魔法だ」
鳥はアロンの前に着地し、こちらを一瞥した。
そして、くちばしをゆっくりと開く。
『おふたりさん。……レダのお痛は、どうだったかしら?』
声は、あまりにも優雅だった。
だがその温度は、紅茶に混ぜた氷のように冷たく、よく響いた。
アロンはタオルを頭にかけたまま、鳥の嘴を見つめる。
「なんで知ってんだ? まさか、お前が一枚噛んでたのか?」
『まさか。そんな不利益なことはしないわ……あなた達の帰還が遅かったから、ちょいと調べたのよ』
「はえ〜…凄い早い情報」
『悪かったわね。私が紹介した仕事で、あなたたちが生き埋めにされるなんて』
「次からは依頼主の素行調査も入れろよ……ベテランパーティーですら壊滅しかねない状況だったぞ?」
『次から気をつけるわ……で?そんな状況の中、アンタたちどうやって切り抜けたの?』
ごく普通の────だが不穏なほど情報収集に長けた女が、純粋な好奇心で訊いてくる。
アロンは首を回しながら答える。
「天井をぶち抜いて、地上までロッククライミングだ。暑さで2人ともぶっ倒れる所だったぞ」
『……とんだ作戦ね。もっとこう、クールな脱出劇を想像してたんだけど』
「現実は地味で泥まみれで暑苦しいんだよ。知ってるだろ?」
『ええ、よく知ってるわ……まあ、報酬はちゃんと用意しておくわ。後────』
一拍、間が空いた。
『────私から、“クールな報酬”もあげるわ』
その瞬間────窓の外で、世界が一瞬白く染まった。
ドオォォォォン!!!!!!
かつて街の南側にあった廃倉庫。音の方角からして、そこが爆ぜたとすぐにわかった。
明らかに、“自然の現象”ではない爆発音だった。
本日何度目か聞いた爆発とは“異なる音”……その残響を聞きながら、アロンとリンカはゆっくりオレンジジュースを口に運ぶ。
その味は、やたらと……爽やかだった。
次回更新は明日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、明日の更新でお会いしましょう。




