表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/101

第19話 イかれ女・レダ




 八階層目の空気は、ひときわ重かった。


 湿度ではない。魔力でもない。

 もっと───“人間の感情”に似た、粘るような重さ。


 その最奥、広間に繋がるアーチを越えたとき、アロンの歩みがわずかに止まった。



「……誰かいるな」



 その場に、ひとりの女が立っていた。

 腰に手を当て、足を組み、広間の奥で静かに彼らを迎えている。



「久しぶりね、お二人さん」



 妙に明るい声だった。



「……レダか」



 アロンが名を呼ぶ。


 赤い髪。金属細工のアクセサリ。気怠そうな立ち姿と、どこか“爆発前”の空気を孕んだ瞳。

 間違いなく、あのレダだった。



「依頼主が自らダンジョンに潜るって、それもう依頼する意味ないだろ」



 皮肉混じりに吐き捨てたアロンの言葉に、レダはふふ、と笑って返す。



「意味はあるわよ。ねぇ、“餌に釣られる魚”って、どんな顔してるのか……特等席で見てみたかったのよ」



 その言葉が終わるか終わらないかのうちに────


 











































 ────ドォォォンッ!!


 


 咄嗟に耳を塞いでも間に合わなかった。


 背後から響く爆発音が、空間の空気を撹拌する。

 熱と風と轟音が、アロンとリンカの鼓膜を突き抜けた。


 振り向いた二人の視界に映ったのは、崩れた階段口。


 逃げ道が…断たれた。



「……何やってんだ、お前…ほんとに頭、イカれてるのか?」



 アロンの声には、嘲りではなく本気の呆れが混じっていた。



「ふふふ……私は“クリア”よ。透明なの。もう中身は“あなたたちに復讐する”っていう、たったひとつの想いだけ。透けて見えるでしょう?」



 その言葉の温度はまるで狂気を氷に閉じ込めたようだった。

 レダは笑っている。ほんとうに、心の底から愉しそうに。



「途中の盗賊……あれもお前の仕込みか?」



 リンカが冷静な声で問う。空気に温度差があった。


 レダはくすくすと笑いながら、まるで食後の余談のように頷いた。



「ええ、そうよ。まったく役に立たないクズたちだったけど。……母親の顔、見てみたいわね。きっとゴミ。あれはゴミから生まれたって顔だった」


「……イかれてるな。間違いない」



 リンカが淡々と呟いた。

 だがレダの耳に、その声は届いていなかったのか。あるいは届いていたのに、意図的に無視していたのか。どちらにせよ、次の瞬間には彼女の“舞台”が始まっていた。



「でも、まあ当然よね?あなたたちみたいなクズを掃除するのは、私みたいな天使の役目ってわけ。きっと……天もそう言ってる」



 その目に光はなかった。

 代わりに、緑色の光が地に灯る――彼女の足元、転送陣が淡く明滅していた。


 レダは振り返らず、ほんの数歩進んでその中心に立つ。



「じゃ、さよなら。心ゆくまで後悔して死になさい」



 言葉と同時に、レダの姿はふっと転送陣に飲まれ、かき消えた。


 


 そして────次の瞬間、空間が揺れる。


 


 ゴウ、と風が巻き、爆発が広間を叩いた。


 転送陣の中心部が一瞬で崩れ、魔力の裂け目が火花を散らして燃え尽きる。



「……あの女、やりやがった」



 アロンが低く唸る。


 ふと、階段のほうを振り向く───そこにも、黒煙が立ち込めていた。

 耳をつんざくような炸裂音の残響。

 その真下、先ほどまで昇ってきた帰路────崩れていた。




 転送陣、消失…

 階段、爆破…




 つまりこの空間は、完全に閉じた。

 アロンとリンカは今この瞬間、“生き埋め”になった。




第20話は、本日【 17時10分 】に投稿いたします。


ピンチを脱することはできるのか…!


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、夕方の更新でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ