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第13話 エンバリの酒場

3章です


エンバリの酒屋は危ないので新人冒険者は訪れないように…



爆発────



それは、力の解放であり、形の崩壊であり、秩序の終焉である。

一点に蓄積された魔力が、限界を超えた瞬間に空間を裂き、熱と衝撃を撒き散らす。


その現象は、破壊であると同時に創造でもある。

何かが終わるとき、何かが始まる。

爆発は、その境界に立つ。



魔法における爆発は、最も単純で、最も制御が難しい術式の一つとされる。

火の魔法、雷の魔法、衝撃波────それらの応用はすべて、爆発の原理に通じている。

だが、爆発は“目的”ではなく、“結果”である。


何かを壊すために使われる時もあれば、壊れた時に生まれるものでもある。

それは意図ではなく、限界の向こう側にある現象である。



爆発は、怒りの象徴でもある。

抑えきれない感情が、魔力という形で世界に放たれる。

それは術者の意思を超え、時に無差別に、時に精密に、破壊を選ぶ。

爆発は、感情の言語であり、沈黙の叫びである。

言葉にならない痛みが、熱と衝撃に変わる。




爆発は、恐れられている。

それは予測できず、止められず、理解されない。

人々は爆発を“暴力”と呼び、同時に“美”と呼ぶ。

その一瞬の閃光と轟音に、人は畏怖し、魅了させる。

爆発は、破壊であると同時に、表現でもある。



爆発は、語らない。

ただ、そこにある。

ただ、起こる。



そして今、ある者が爆発を使う。



それは術式ではない。

それは復讐でもあり、報復でもある。







 解雇から、一週間。


 季節は変わっていなかったが、街の空気はどこか違って見えた。


 僕は今、ギルドの窓口に立っている。

 手には、封蝋の施された革袋───それが“報酬”と呼ばれるものだった。



「……ほんとに僕が、受け取らないとダメですか?」



 職員は困ったように笑ってみせたが、言葉は変わらない。



「正式な記録によれば、階層ボスを撃破したのはあなた。異議申し立ては2人から共に却下されております」


「いや、でも……それ、なんか違うと思うんですけど……!」


「記録は記録ですので」



 事務的な笑顔ほど、心が冷えるものはない。

 ため息をつくと、その革袋を渋々両手で抱える。



「……こんなの、もらっても嬉しくない……」



 誰にともなく漏らした声に、誰も返事はしなかった。




---




 ───話はさかのぼる…


 ダンジョン深層からの帰還の後、ギルド本部が動き出した。

 “未踏破ダンジョンの初到達パーティー”としての報酬授与───それが、規定されたルールだった。


 当然、功績の多寡など問われないはずだった。が────



「は?報酬?いらないが?」



 真っ先に口火を切ったのはアロンだった。

 ギルドへの通達に対し、驚くほど真顔で言い放ったらしい。



「俺が活躍してないのに、貰うのは流石に違うだろ?俺達は気を失ってたぞ?」



 係員がどう取りなしても、アロンは首を縦に振らなかったという。


 その話を聞きつけたヘリックも、すぐさま抗議に来た。



「待ってください! 僕に報酬を押しつけるのはやめてください! 意味分からない理屈で“譲った”とか、そんなの僕だって受けたくありません!」



 ギルド側の職員たちは苦笑して言った。



「……ですが、情報は既に届いております。最下層のボスを倒したのは、あなただと」



 もはや逃れようのない記録だった。

 その場にいた全員が認めており、公式記録として提出されている。



「……それを……言われちゃ………」



 ヘリックはぐったりと肩を落とし、押しつけられるように報酬を受け取った────というのが、事の顛末だった。


 今、彼の手の中にあるのは“冒険者としての勲章”なのか、それとも“バツ印の記念品”なのか。

 本人にも分からなかった。





────

───

──





 その酒場には“昼”という概念が存在しなかった。


 窓はなく、灯りは常に暗く、空気は黴と煙草と鉄の匂いを溶かしたように濁っていた。


 壁際には酒瓶よりもナイフの方が多く並び、カウンターは薬物売買の中継地点と化している。

 ギルドでさえ健全に思えるこの“吹き溜まり”こそ、街の最深部だった。


 その中央付近、ひと際場違いな空気で酒を飲む男と女がいた。



「……なあ、これ見てみろ。地図のこの部分、明らかに“描き直した感”ないか?」


「誤魔化してるな。罠があるか、あるいは通ってほしくない理由があるか……」


「もしくは、“描いた奴がマヌケだった”か…」


「それもそうだ」



 リンカが淡々と返し、アロンは納得した顔で頷く。

 その手元には皿の上でくたびれた肉と、酒で色が曇った地図。

 食欲と知略が、同じテーブルで共存していた。


 そこに理屈はない。が、妙なバランスがあった。



「……で、次のダンジョンだけどな。西の荒野にある“無明の層”ってとこ、面白そうなんだが」


「死人が出まくってるって噂のあそこか。確か入ったきり消息不明のパーティーが後を絶たないとか……」


「良いだろう?…まるで俺に攻略されるのを待っているかのようだ」


「あぁそうだな、自殺願望があるなら1人で行ってこい」



 リンカがグラスを傾けながら淡々と告げる。


 静かだったが、笑いはあった。

 賑やかではなかったが、会話の熱は絶えなかった。

 くだらない話と真面目な話が、一つの杯の中に同居していた。


 アロンとリンカにとって、これが“いつもの日常”だった。




第14話は、本日【 17時10分 】に投稿いたします。


ついに始まった3章…アロンとリンカに待ち受けるのは…


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、夕方の更新でお会いしましょう。

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