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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~終幕編~
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第117話 10分




 職員たちが、呼吸をすることすら忘れたかのように、固唾を飲んでその様子を静かに見守る。


 室内に張り詰めた静寂のなかで、全員の視線が私の手元にある魔導具へと集中し、誰もが胸の内でたった一つの駆動音を待ち望んでいた。



 ピピッ、と短い駆動音が部屋に響き────



『はい…こちらミーウですが』



「あ、あの!!! こちらセイドウギルドのミーシャです!!」



『ミーシャさんでしたか、なにか用でも……?』



 通信は、驚くほどすぐに繋がった。


 受話器の向こうからは、ガガガガンッという激しい車の走行音に加え、バリバリと空気を引き裂く猛烈な風切り音と、魔導車の凄まじいエンジン音が凄まじい地響きのようなノイズとなってこちらまで伝わってくる。


 そんな騒音の隙間から聞こえてきたのは、いつも通りに凛とした、静かな声音だった。



「あ、あの!!!……その!!!」



 魔導通信具を両手で痛いほどに強く握り締めながら、私は声を震わせる。


 職員たちの、息が詰まるほどの巨大な期待の視線が全身に突き刺さることで、緊張から私の細い顎はガタガタと激しく震えていた。



「(みんなの期待が、全部私のこの両手に乗っかってる……っ!)」



『ふふふ、大丈夫ですよ? ゆっくりで良いので、話してください』



しかし、受話器の向こうから響いてきたのは、激しい車の激走音を置き去りにするほどに、優しく、穏やかな声だった。


 どんな不測の事態が起きようとも、決して揺るがないギルド長秘書としての絶対の気品。


 その温かい声音に、私は少し落ち着きを取り戻す。



「は、はい……す、すいません……」



『はい……大丈夫ですよ……要件はなんでしょう?』



「至急、オルテ様と代わっていただけませんか!? む、む、無明の……無明の層の……転送陣が、確認されました!!!」



 私は目をきつく閉じ、喉が裂けんばかりの、ありったけの大声を通信の魔導具へと叩きつけた。


 叫んだ声の残響が、完全に静まり返ったオフィスの壁に激しくぶつかり、虚しく吸い込まれていく。


 















































 無明の層…その転送陣が確認された。


 その事実を私の口からありったけの声で告げた、次の瞬間────



『……!? わ、わかりました!! すぐに代わります!!!』



 受話器の向こうの空気が、物理的な音を立てるかのように完全に凍りついた。


 先ほどまで気品を保っていたミーウ様の口調が、一瞬にしてこれまで一度も聞いたことがないほどの驚愕と焦燥に塗みれた慌てようへと一変する。



 ガタガタと受話器が激しくぶつかり合う金属音がノイズ混じりに響き、通信の主が慌ただしく入れ替わる気配が伝わってきた。



『どうした? なにかあったのか?』



 受話器の向こうの主が、ミーウ様からオルテ様へと切り替わった。


 スピーカーから漏れ出る彼の声音は、いつになく険しく、そして張り詰めた焦燥に満ちて低く轟く。



「は、はい……! た、たった今……無明の層の転送陣が、解放を感知しました……!!」


「な!?!!!?!??」



 私の報告が弾丸のように撃ち込まれた刹那、通信越しからでも鼓膜が痛くなるほどの圧倒的な質量で、オルテ様が激しく息を呑む気配がダイレクトに伝わってくる。



 驚愕。


 そして、それ以上に───奇跡を確信したかのような、凄まじい熱量。




『ほ、本当か!!! や、やりやがったのか!!?? あいつらが!!』



『そ、そういうことかと……!! あ、見えてきました!!無明の層!!!オルテ様!!あれを!!!』



 爆走する魔導車の猛烈な風切り音とエンジンの地鳴りに混じって、オルテ様とミーウ様の二人の声が、『歓喜』と『戦慄』に激しく震えているのを、私は受話器を通じてはっきりと感じ取れる。


 それは、一人の人間として、あるいは一人の生存の目撃者として、魂の底から歓喜の雄叫びを上げているかのような生々しい興奮の響きだった。



 その二人の会話を聞いた私はガタガタと興奮する顎を必死に抑えつけ、喉の奥から、ずっと自らを縛り付けていた最後の常識の疑問を、ついに聞いた。



「あ、あの……これは……誤作動……とかではなく……?」



 その私の、祈るような、あるいは怯えるような問いかけに、取り囲む職員たちの間に、パチチと痛いほどの緊張が走る。


 誰もが耳を澄まし、スピーカーから漏れ出る次の音に、街の未来を懸けるようにして固唾を呑んでいた。



『ああ!!! マジでやりやがった!!! あいつら!! マジで無明の層を……いや、しばし待ってくれないか? 最終確認をしたい……10分後、こちらから掛け直しても問題ないか?』



「は、はい!!!」



『では10分後に…!』



 ツー、ツー、と無情な切断音が響き、荒野との通信が切れた。



 刹那。


 固唾を飲んで静まり返っていた職員たちが、まるで爆発でも起こしたかのように、凄まじい興奮の色をその顔面に剥き出しにして私の元へと詰め寄ってきた。




「おい、話はどうだった!?」


「聞かせて!!」


「お願いだ、ミーシャ!!!あいつらは、本当にやりやがったのか!!!」



「ま、待ってください!!!10分後に、オルテ様から折り返しの連絡があるみたいです!!!」




 狂乱する同僚たちの怒涛の問いかけを、私は両手を広げて必死に大声で制した。


 押し寄せる彼らの瞳は、先ほど以上に爛々と輝いており、冷静さなど完全に吹き飛んでいるのが見て取れた。



 10分────



 セイドウの街のこれまでが完全にひっくり返る、その絶対的な『真実』が下されるまでの、あまりにも長く、あまりにも熱く、息をすることすら狂おしいほどの、極限の猶予の時間が、いま、ギルドのなかで静かに、激しくカウントダウンを始めるのだった。





第118話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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