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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~終幕編~
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第115話 心当たり




「ご、誤作動?」


「だよな……?」


「誰かのいたずら?」


「だよな……? 今は誰も無明の層に入れてないし」



 魔導監視盤の前に集まった周囲の職員たちは、誰もが顔を青白く引きつらせ、現実から目を背けるようにして口々にそう呟きだした。



 誤作動、あるいはタチの悪い悪戯。



 誰も生きて帰れなかったダンジョンが突如として攻略されたなどという現実離れしたことを前にすれば、彼らがそう考えてしまうのも無理はなかった。


 ────だが、そんな周囲の混乱したざわめきがオフィスに響くたびに、私の胸の奥底からは、ドロリとした冷たい汚泥のような戦慄を伴って、ある一つの考えが、急速に這い上がってきた。



「(う、嘘……嘘でしょ? ちょっと、待ってよ……まさか、そんなわけないじゃない……っ!!)」



 あの日、窓口の正面で、締まりのない薄汚い笑顔を晒しながら「無明の層だ」とおめでたいドヤ顔で言い放っていた、あの最高にイタくて視界の邪魔だった男。



「(あの、あのドブネズミが………本当に、あの誰も生きて帰れない奈落を攻略したっていうの……!?)」



 ガタガタと、私の全身が、自らのすべての常識とプライドを内側から爆破されるような恐怖と戦慄によって激しく震えだした。


 喉の奥がカラカラに干からびて声が出ない。嫌な冷たい汗が背中をダラダラと伝って、制服が肌にべっとりと張り付いていく。



 頭を激しく振り乱して狂いそうになりながらも、いや、でも───あり得た。


 全ての辻褄が、ガチガチに噛み合っていってしまう。



 あの日、ギルド長室から出てきたオルテ様が、あのゴミどもの動向を【極秘】として不自然に処理したこと。



 今日の昼頃、オルテ様と秘書のミーウ様が、血の気の引いたような尋常ではない焦燥を剥き出しにして、まるで世界の終わりでも見たかのように慌てふためいてギルドを飛び出していったこと。


 あの時は、無様に死んだ自殺志願者どもの手遅れな死体の後処理にでも向かったのだとばかり思っていたのに、全ては逆だったのだ。



 そして何より───確かあの底辺パーティーは、今日、何やら『重要な階層』へと向かうことになっていたはずだということ。



「(死体の後処理だと思って、心の底からあざ笑っていたのに……まさか、攻略の知らせが届いて、あのオルテ様たちが迎えに走ったとしたら……!?)」




 これは、まさか……本当に……本当にやってのけたとでも言うの……!?!??



 「ご、誤作動だよ」


 「まったく、ビビらせやがって……」



 青白い顔を血の気のない苦笑いに歪めながら、一人の職員がそう言って魔導機器から手を離そうとした。


 そう、誤作動だ。

 今は誰も無明の層に潜っていない……ならば、この絶対的な結果はただのシステムのバグでなければ説明がつかない。


 そうやって、誰もが自分たちの都合の良い平穏へと逃げ込もうとした、その瞬間────


 

「ま、待ってください!!!」



 ギルドのバックヤードに、私の張り詰めた大声が鋭く響き渡った。



「(う、嘘……まさか、本当に……!? 本当に、あの無明の層が、攻略されたというの……!?)」



 大声を張り上げ、詰めかけた職員たちの視線を真っ向から受け止める。


 胸の奥底から急激に湧き上がってきた、信じがたい熱い予感によって小刻みに震える。



「い、一度、オルテ様に確認したいんですが、誰か連絡先知りませんか?」


「確認って……十中八九、誤作動だよ」


「誤作動って……こんなこと、以前にありましたか?」



 私の言葉に、男の職員が「いや、なかったけど……」と言葉を詰まらせる。


 そんな不具合など、ただの一度も起きたことはないのだ。



 脳裏にこびりついて離れない、あの日窓口で『無明の層だ』と言い放っていたアロンのドヤ顔。そして、昼頃に血相を変えて飛び出していったオルテ様の姿。



 もしも本当にあの奈落を、あの男たちが攻略したのだとしたら……


 それは、この街を一年間縛り続けていた、あの底知れない絶望の呪いが、ついに今、完全に打ち破られたという、この上ない奇跡の証明に他ならない。



 押し寄せる圧倒的な歓喜の予感に、私はただ、涙目になりそうなほどの胸を突き上げる衝撃を必死に噛み殺して、自分の白い指先をガタガタと震わせながら、白髪の混じった老職員へと縋るような視線を向けた。



「エルバさん……確か、ギルドに務めて50年とか言ってましたよね? こんなこと、ありましたか?」


「いやぁ……なかったけどさ……」



 名前を呼ばれたベテランの職員────エルバさんは、深く刻まれた目元の皺をさらに困惑に歪めながら、やれやれと首を横に振った。



 半世紀もの間、このセイドウの街のギルドの栄枯盛衰を見守り続けてきた生ける辞書 。



 そのエルバさんですら、過去に一度として「未攻略ダンジョンの転送陣が誤って発生する」などという異常事態は、経験したことがなかった。



「でも、さすがにダンジョンの侵入を禁止にしてて、攻略している冒険者の心当たりがないのに発生するのは……やっぱり機器の誤作動じゃないかな?」



 エルバさんの、酷く真っ当で、酷く常識的な言葉。


 その言葉の通り、ギルドの認識では、現在『無明の層』への立ち入りは厳格に禁止されているのだ。



 誰も潜っていない。攻略しているパーティーの心当たりなど、誰一人として持っていない。


 だからこそ、それは「誤作動」だと結論づけるしかない────




 しかし………




「……じ、じゃあ……も、もしも……その、冒険者がいたとしたら……どうなりますか?」





第116話は、火曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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