第108話 パズル
「………お前、ランクはなんなんだ?」
オルテの声は、自分でも驚くほどに低く、そして掠れていた。
荒野の乾いた風が、無明の層の入り口に佇む二人の間を吹き抜けていく。
以前は「誇大妄想の周囲に吐き散らかすイタい奴」と切り捨てていたアロンのことを……
オルテは今、一人の人間として、真っ直ぐに凝視していた。
「ランク? SSSランクだが?」
それに対し、アロンはまるで「海の色は何色?」とでも聞かれたかのような、なにをそんな当たり前のことを聞くんだといった顔をする。
いつもの「ふざけた戯言」にしか聞こえなかった。
「ふざけ────」
いつものように、その傲慢な妄想に対して、真面目に答えろと怒鳴り散らそうとした、まさにその刹那。
オルテの言葉の引き金は、喉の奥で音を立てて完全に静止した。
激昂のままに開かれかけた唇が、微かな戦慄を伴って不自然な形のまま凍りつき、熱を帯びていたはずの喉がひどく冷たく爆発を拒絶する。
声を荒げる前に、彼の肉体と理性が、静止を呼び掛けた。
SSSランク冒険者────
そんな馬鹿げたランクなどない。
そもそも、冒険者ギルドが創設されて以来、世界の最高峰は「SSランク」と定められているのだ。
アロンの言っていることを分かりやすく本に例えるならば……
全100ページまでしか存在しないはずの本を前にして、「856ページに書いてるこのシーン面白いよね?」と大真面目にのたまっているようなものである。
存在しないページを、さも当然の日常であるかのように口走るその様子は、客観的に見れば頭がいかれていると思われても仕方のない……いやそれを通り越して、不気味と思われてもおかしくないのだ。
ただの戯言だ。頭の狂った俗物の戯言。
しかし、しかし────
オルテの脳内で、ひとつひとつのパズルピースが埋まっていく……
ギルド長である自身すら開示することができない、冒険者カードデータ。
王都の上層部が、国家機密として彼の身元を完璧に隠蔽しているのではないかということ。
そして完全攻略してみせた、この目の前にある現実。
誰も生きて帰れなかったはずの絶対の闇が、光となって現実に眼前に佇んでいるという、圧倒的な結果。
全ての疑問符が……一つの答えに向かって、パチパチと音を立てて噛み合っていく。
────しかし、万が一……
────アロンの言っているあの、馬鹿げた『SSSランク』という戯言が、あながち間違いではなかったとしたら……?
じわり、と。
荒野の容赦のない太陽が照りつけるなか、オルテの額から、凍りつくような冷たい汗がひと筋、ふた筋と流れ落ちた。
頭上を支配する灼熱の光線が肌を容赦なく焼き焦がしているというのに、自身の内側から湧き上がる戦慄の質量だけが、まるで全身の血液が急速凍結されていくかのように冷徹極まりない冷気となって指先までを支配していく。
SSSランク────
そんなものは存在しない真っ真っ赤な嘘であり、アロンという男のくだらない妄想の戯言だ。
それは間違いない。
だが───
もしも、この目の前で佇んでいる男の、本当の、隠蔽されたランクが────
乾いた喉がひどく軋み、最悪の推論を形にしようとする唇が不自然に震える。
ランクが…まさか………
肺の奥底に溜まった熱い空気が、心臓を直接鷲掴みにされたかのような強烈な衝撃によって、音もなく凍りついていく。
現在、この世界に片手の指で数えるほどしか存在していないと噂されている───
生きる伝説の『SSランク冒険者』であるとしたら……?
第109話は、火曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。
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それでは、次の更新でお会いしましょう。




