第108話 ペナルティ
『リンカ先生と学ぼう!楽しい冒険学!! 〜ランク編〜』
リンカ「ここで冒険者のランクについて一つ話しておこう」
リンカ「冒険者カードにはその者の冒険者ランクが描かれている」
下から
ルーキーランク (駆け出し)
Fランク
Eランク
Dランク (ここから中堅、冒険者の大半がここ)
Cランク
Bランク (ベテランの域)
Aランク
Sランク (現存冒険者の5%)
SSランク (数名いるのみ)
リンカ「ギルドに登録すると、まずはルーキーランクと設定される」
リンカ「なにも問題を起こさなければ、5日後自動的にFランクへと昇格となる」
リンカ「そこからは魔物を討伐したり、クエストをクリア、ダンジョンを攻略したりしていきランクアップを目指していくのだ」
アロン「俺のSSSランクがないが?」
リンカ「茶化す生徒は廊下に立っとけ」
「勿論だ……言ったろう? 俺はSSSランク冒険者だと」
「…………!」
オルテは、完全に言葉を失って絶句した。
戯言だと思っていた。
最初に出会ったあの日から、口を開けば「俺は優秀だ」だの「俺はSSSランク冒険者だ」だの、大真面目に口走っていた。
オルテはアロンのことを…………
確かに何か裏のある奴だが、中身は完全に誇大妄想を拗らせたイタい奴だ。
ただの締まりのない日常を周囲にまき散らし、かろうじて言葉が通じるだけのおめでたい変質者。
そう結論づけていたのだ。
だが、その男の背後で、確かに脈動を続けているポータルの淡い緑色の輝き。
誰の耳にも届かない声で必死の命乞いを叫ぶ若者たちを、ただ大人しく見殺しにするしかなかったあの理不尽な最奥。そこへ眠っていた魔法装置の厳格な起動の証拠こそが、一微塵の嘘偽りもない現実の質量として眼前に佇んでいる。
意味不明な戯言としか思えなかったあの痛々しい自負の言葉こそが、規格外の証明だったという現実。
────
───
──
余談だが、彼らがダンジョンへと潜るにあたって提示されたアロンたちの冒険者カードを、オルテは以前に読み取ってランクを調べようとしたことがあった。
その時、隣に立つリンカの冒険者ランクが「D」と明確に表示されていたのに対し、アロンのランク表記の欄だけは、不気味に黒塗りにされた【■■■】となっていたのだ。
だが、別段これは珍しいものではなかった。
冒険者ギルドのシステムには、自身のランクを他者に伏せる権利……秘匿権が正式に認められている。
ランクを隠すことで、実力による不条理な差別を排除したり、逆にランクが高いことを理由に群がってくる金魚のフンのような、あるいはハイエナのような冒険者を最初から弾くことができたりと、秘匿する側にとってはメリットが多いポピュラーな機能だった。
さらに言えば、このランクの秘匿機能は、単に金魚のフンのような同業者を弾くだけのシステムではない。
それは同時に、冒険者を管理統べる立場にある『ギルド側』に対する、強力なカウンター……
────すなわち、絶対的な牽制としても機能していた。
一番分かりやすい例を挙げるならば、この機能を有効化している間、冒険者はダンジョンやクエストに厳格に設定されている『ランクによる参加条件』を、無視して突破することが可能になるのだ。
このシステムが特に有効になってくるのは、冒険者が自らの命綱である冒険者カードを『紛失』してしまった場合だった。
原則として、冒険者カードを一度でも紛失してしまった場合、ギルドの厳格な規約により、以前と全く同じランクのカードを再発行することは絶対に認められていない。
どれほど血の滲むような修羅場を潜り抜け、高ランクまで上り詰めた実力者であろうとも、問答無用で最低値である『ルーキーランク』からの再スタートを余儀なくされるわけである。
積み上げてきた執念の歳月も、輝かしい武勇の爪痕も、その一枚を失ったという過失だけで、一瞬にしてすべて消し去られてしまう冷徹な規約。
これに対するギルド側の言い分は、
「自分の冒険者カードすらまともに管理できずに無くすような奴は、実力に関わらず、精神性がルーキーランクと同義だろ」
ギルド側としては、そうして重いペナルティを課すことで、カードの管理を徹底させようという思惑があった。
しかし実際には、もともとルーキーランクの冒険者が参加を許可されるクエストや安全なダンジョンは著しく少ない。
ただでさえ新人に許された椅子の数が限られているというのに、カードを紛失して最低ランクへ叩き落とされた実力派のベテランたちが、その本来であれば本物の初心者が扱うべき僅かなクエストを食い散らかしてしまうのだ。
格下の依頼を効率的に蹂躙し、新人から成長の機会を根こそぎ奪い去っていく最悪の二次災害。
少なくなる依頼やクエスト…………しかし、それとは逆に増え続ける紛失者の数。
ギルド側が提示したペナルティは、冒険者カードをなくすような輩には全くもって無意味だったのだ。
組織が用意した鉄のルールなど何の手足の枷にもなりはしないのだった。
やがてギルドの元へと生まれ出たのは、本来の低ランク冒険者たちからの、切実で凄惨なクレームの嵐だった。
「適正のランクが低いクエストが、落とされてきたベテランどもに軒並みクリアされてしまって、何も受注できない」
「カードの表記上は同じランクのくせに、自分はベテランであると言って、露骨に馬鹿にしてきたり……なんなら、ダンジョンの中で囮として使い潰されました」
「採集や討伐の依頼場所にベテランの集団が居座って、獲物を横取りされます」
「手本になるべきがベテランが同じ難易度に紛れ込んでいるせいで、新人が少し失敗しただけで執拗に煽られて、依頼の報酬すら強引に巻き上げられました」
「冒険者の民度って、なんでこんなに低いんですか? 失望しました、冒険者辞めます」
数字や規則の上では「ルーキー」として処理されているにもかかわらず、その内側で交錯する実力の絶対的な非対称性。
ただでさえ少ないはずの初心者用の椅子を強者たちが一方的に食い散らかし、理不尽に新人を蹂躙していく。
そんな歪んだ現場を前に、若者たちの心は、へし折られていく。
新人の育成と確保こそが組織の生命線であるギルドにとって、ルーキーたちの離脱と失望の声は、まさに組織の根幹を揺るがす深刻な大問題だった。
実力とカードの表記ランクが乖離した『偽の低ランク』がのさばる、歪んだ縮図。
ペナルティの隙間で、ベテランたちが限られた新人を一方的に貪り尽くす不協和音。
これを是正するために、幾度もの議論を重ねて改正された後に生まれたのが、まさにこの【■■■】というランクの秘匿を認める現行のルールだったのだ。
言ってしまえば、これはギルド側が崩壊を防ぐために敷いた、苦肉の『救済措置』に他ならない。
本来の実力に見合った高難度のクエストへと、カードの表記を無視して直行してもらうための抜け穴。
この抜け道により、ベテランたちの横暴による初心者の被害は激減し、ギルドの頭を悩ませていたクレームの数々も、ようやく減少の一途をたどることとなったのである。
ただし、ギルド側もただ甘やかすだけの組織ではない。
この現行ルールには、制約が一つだけ追加されていた。
────仮に自らの意志でランクを伏せた冒険者が、本来の適正以上のクエストやダンジョンに潜り、そこで怪我を負うか死亡した場合……
ギルドからの『保険適用』の対象外されることになる。
治療費の支給も、遺族への補償金の支払いも、その全ての対象外。
実力を隠して制限を突破するならば、その先にあるすべてのリスクは、己の命で支払え────
そして、このルールが存在している理由は、何も新人の引退を防ぐための『救済措置』だけが目的ではなかった。
前述されたように、これは本来、暴走しがちな管理者である『ギルド側』の思惑に対する、強力な牽制として機能するための盾なのだ。
これは、しばしば中央から離れた地方───すなわち、実力者がめっきり少ない『田舎の街』において、ランクC~Bの中ランク冒険者たちに対して深刻に起こる被害だった。
中央の監視の目が届きにくい辺境の土地だからこそ、本来は公平であるべき組織の歯車が、地域の存続という大義名分の下に、時に歪んだ暴走を始めてしまう。
防衛戦力の絶対的な不足が引き起こすギルド側のドス黒い焦燥。
そんな地方都市の閉塞感で、数少ない中堅の実力者たちへと理不尽に突きつけられるのが、組織の保身と利権を優先したあまりの、あまりにも一方的な搾取の構造だった。
それは、地元のギルド側が利権や街の防衛を優先するあまり、高難度のクエストや危険なダンジョンへ、本人たちの承諾を一切得ないまま無理やり参加させられる、といった理不尽な強制徴用事案だった。
本来ならば、冒険者を守るべき盾であるはずのギルド側。
過酷な戦場への斡旋や提案をすることはあれど、本人の明確な承諾なしにクエストを受注させることは、ギルド本部の規約でも厳格に禁じられている。
しかしながら、これらの規約違反が地方で横行する背景にあるのが、田舎ゆえの圧倒的な高ランク冒険者の枯渇。
そして、本来の適正を無視して、中ランク冒険者たちに対して寄せられる、組織の都合による『過度の期待』。
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それでは、次の更新でお会いしましょう。




