第11話 怒りが悲しみに勝つ瞬間
何分、何十分、どれほどの時間が経ったのかも分からなかった。
自分の中で、世界が一度止まったように感じたのは間違いない。
けれど、止まったままでいるには────あまりに………
「やっぱり、納得いかない…解雇ってどういうことだよ……」
かすれた声が喉の奥に残ったまま、ヘリックは体を動かした。
息も上がっていたし、足もまだしびれていたけれど、それでも────行くしかなかった。
そして、彼はギルドにたどり着いた。
木製の扉をくぐった先、ギルドの中は相変わらずの喧騒に満ちていた。
酒と革と鉄の匂いが混ざり、熱気だけで頭がのぼせそうになる。
けれど、その中で────彼らは、すぐに見つけられた。
アロンさんとリンカさんは、広場中央のテーブルに並んだ依頼情報を見つめながら、冒険者たちをざっと見渡していた。
「んー、あの辺りの赤毛の奴とか良さそうだな。ポテンシャル、低めで性格も大人しそうだ」
アロンが顎に手を当てて分析するように呟く。
「あっちはどうだ?あのガタイの良い奴…腕力特化型っぽいから、多分バカだぞ」
「うーん……いや、筋肉が主張しすぎてる。むさ苦しいオーラがある奴はちょっと……」
「じゃあ、あそこの奴……どうだ?端っこで座ってるあいつ」
リンカが小さく指を動かす。
「……悪くない。雰囲気も地味でパッとしない所が良い。だが……魔力が、ちょっと多いな」
「却下か」
「却下だな」
何の悪気もなさそうなその会話が、ヘリックにはやけに冷たく響いた。
無数の声の中でも、彼らの声だけが、耳に突き刺さった。
「アロンさんッ!!リンカさんッ!!」
その名前を叫んだとき、自分でも声が裏返っていたのが分かった。
ギルドの何人かがちらりとこちらを見たが、誰も気に留めなかった。
その中で────2人だけが、声の方にゆっくりと顔を向けた。
視線が交錯した。
だが、表情は何も変わらなかった。
「ん?ヘリック君か」
アロンはいつもの調子で、ゆるく笑いながら言った。
「どうした?いきなり大声出して」
「……ちょっと、話が……したくて……」
精一杯の声だった。思いは喉元まで来ていた。
“なぜ解雇されたのか”───それだけを、聞きたくて来たのだから。
でも、アロンの返事はあまりにも軽かった。
「なるほど…だが今は忙しいんだ、ほら。俺とリンカは“新たな仲間”を探してるところでな」
「……!」
そのときのヘリックの胸の奥で、何かが静かに軋んだ音がした。
────でも、きっとそれでも彼は、まだ“信じたかった”。
だが、信じるには、あまりにも彼らは“変わらなさすぎた”。
「……どうして仲間探してるんですか……僕がいるじゃないですか……!」
必死に言葉を繋げるその表情は、戸惑いと哀願が入り混じっていた。
「……君は解雇した筈だが?」
しかし、アロンは首を傾げる程度の反応。
「どうしてですか!? 僕、何か悪いことしました!? 何かしたなら謝りますから!! お願いします、仲間にしてください……!」
言葉が懇願に変わる。
その目には確かに“願い”が宿っていた。
だが────
「しつこいな……」
アロンは、ゆっくりと笑う。
「君、何?ちょっと優しくしたからって、いつまでも仲間面しないでくれる?」
その言葉に空気が張り詰めた。
ヘリックの全身から、ふっと力が抜ける。
だが、すぐに怒りがそれを塗り替えた。
「……何だよ……」
ヘリックが震える声で言う。
「何なんだよ、その態度は……!!」
2章最終話 第12話は、本日【 17時10分 】に投稿いたします。
へリック、キレた!!
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それでは、夕方の更新でお会いしましょう。




