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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第107話 強くなる…




「はい……じゃあ……あの……やっぱり、過去がある人じゃないと強くはなれないのかと」


「ふーん、過去?」



 ベラドンナの切れ長の瞳が、ゆらりと怪しい光を帯びて細められた。


 普段と何も変わらない、おっとりとした大人の余裕に満ちたその微笑みの奥で、少年の提示してきた独自の真理を深く値踏みするように、どこまでも愉しげな視線が注がれる。


 彼女は弄んでいた書類から静かに指を離すと、組んでいた長い脚を滑らかな手順で組み替えた。


 その五感から放たれる質量は、少年の差し出した極論を切り捨てる牙などではなく、むしろ未完成の牙が放った剥き出しの熱量を、極上のごちそうとして歓迎する戦闘の申し子としての悦楽。


 言葉の芯に宿る不気味なほどの静寂が、部屋の内部に張り詰めていた硝煙の温度をさらに一段引き下げ、少年の細い背筋に特有の戦慄を走らせるのだった。



 「はい……結局、強くなるためには鍛錬が必要です……が、その鍛錬のモチベーションを保つこと……これが一番重要だと思うんです」



 イオは、自らの小さな拳を無意識のうちに強く、強く握りしめていた。


 その拳の震えは、彼がこれまでに積み重ねてきた地獄のような日々の重みそのものだった。


 富と名誉を満喫する特権階級の貴族たちの誰もが自分たちをゴミのように無視していた、あの終わりのない暗闇。


 世界のどこにいても変わらない、飽食に耽る者たちの傲慢な視線の外側で、声すら届かぬ奈落の底に置き去りにされながら、少年はただ絶望をガソリンに変えて肉体を酷使し続けてきた。


 そこから這い上がるための代償として、自らの皮膚に刻みつけてきた目に見えない無数の足跡が、その小さな掌のなかに強固な質量となって凝固している。


 固く結ばれた皮膚の節々には、ただ息をするだけで死と隣り合わせだった理不尽な環境への、剥き出しの飢餓感と怨嗟が澱のように沈殿していた。


 他者にただ消費され、見捨てられるだけだった無力な記憶が、今や世界への鋭利な反逆の牙となり、少年の細い腕の輪郭を冷徹に、そして痛烈に押し広げていた。



「まぁね……どんなことでも続けないと意味がないわね」



 ベラドンナは、細くしなやかな指先でグラスの縁をなぞりながら、大物の余裕を崩さずに頷く。


 彼女もまた「継続」という壁の厚さを嫌というほど知っている。



 どれほど優れた天賦の才を持っていようとも、それを途切れさせることなく執行し続けることの難しさを誰よりも理解しているからこそ、彼女の言葉には、お気楽な社交場の雑談とは一線を画する確かな重みが静かに含まれていた。



「そうです……で、なんの目標もなく続けるなんて無理です。いくら強くなりたいからって、『強くなる』という抽象的な目標でずっと鍛錬し続ける人なんていません、不可能です」



 イオの声に、熱が帯びていく。


 ぬるま湯に浸かった新兵どもへの、あるいは世界の理不尽への、静かなる怒り。


 ただなんとなく、格好いいから。ただなんとなく、地位が欲しいから。


 そんな甘っちょろい動機で、魂を削るような修羅の鍛錬に耐えられる人間など、この世界のどこを探しても存在しない。



 断言できる。それは不可能だ、と。



 どれほど形ばかりの上品な育成を施されようとも、内側から限界をぶち破るための真の飢餓感がなければ、最初に定められた限界の枠組みにただ甘んじるだけで終わる。


 その尖った部分が何一つ存在しない退屈な有象無象の群れをいくつも目の当たりにしてきたからこそ、少年の言葉には、裏社会の現実を嫌というほど見てきた冷徹な諦念が混じっていた。



「続けるためには『何が何でも、死んでも叶えたい』という確固たる強い意志がないと無理なんじゃないかと……私は思います」


「それが過去……つまりあなたで言うと妹……そして家族を殺された過去って訳ね」


「……はい」



 ベラドンナの、すべてを剥ぎ取るような冷徹な指摘に、イオは顔をうつむきながらも、短く答えた。

 髪の隙間から覗く少年の表情には、今なお癒えることのない深い傷跡が、生々しい質量を伴って刻まれている。



 妹を守る。

 

 あの地獄へ二度と戻らない。


 家族を奪った理不尽を、この力で叩き潰す。



 その血を吐くような強固な情念こそが、彼を突き動かす絶対の燃料だった。


 どれほど周囲を従える圧倒的な格の高さの前に身を縮めようとも、その奥底に潜む独占欲にも似た強い執着だけは、絶対に揺らぐことはない。



 ベラドンナはそんなイオの悲痛な横顔をじっと見つめながら、ゆっくりと、細い指先を自らの艶やかな口元へと持っていった。



 ────強くなるためには、過去が必要。


 ────逆に言えば、強い者ほど、必ずと言っていいほど深い過去を持っている……。



 部屋の内部へと再び降りてくる静寂の真ん中で、ただ静かに状況の推移を見守るように、ルトラは一切の冗談を排して押し黙ったまま、その真理の行方を凝視している。





第108話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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